他のトランスジェンダー映画と一線を画す? 『アバウト・レイ 16歳の決断』が描く“心の交流”

トランス映画として新しい『アバウト・レイ』

 このように、映画がこれまで描いてきた「女性」から「男性」への性別移行を希望するトランス男性は、そのほとんどは自分の希望とする姿で生きることを許されてはこなかった。しかし、本作がこれまでの同テーマの作品と一線を画すのは、レイが家族から深い愛情を受けており、自分自身として生きることの希望を体現しているところにある。トランスシネマ研究では、映画の中でトランスキャラクターが描かれると、多くの場合、観客が共感できないような描き方がされていることが指摘されている。しかし、普遍的な家族の物語として描かれる本作は、「彼ら」と私たち観客を接近させ、その差異すら拭い去ろうとする。

 現在、性別違和(性同一性障害)は世界的に脱病理化の潮流にある。トランスジェンダーが病気や障害ではなく、一つのアイデンティティーの形態であることが広く認知されはじめている。そのことを表象するのが、グラデーションなるジェンダーアイデンティティーを持つ人々を追うドキュメンタリー作品『恋とボルバキア』(2017)である。「LGBT」というセクシャルマイノリティーを一括りにした呼称、それ自体は彼らの存在を可視化することに寄与した側面もあるが、同作に登場する彼らの姿はその枠組みすら超えていくような強さがあり、カテゴライズすることすらナンセンスだと感じさせる。

 本作の劇中、マギーはレイのことを「彼女」じゃない、「彼」だと何度も言い直す。私たちが見つめるスクリーンの中のレイは、「トランスジェンダー」であるレイではなく、ただ一人の「彼」としてのレイである。あるべき自分に愚直なレイの姿は、「何者」にもなれずにくすぶっている者にとっては、いささか眩しすぎるかもしれない。

■児玉美月
現在、大学院修士課程で主にジェンダー映画を研究中。
好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『アバウト・レイ 16歳の決断』
新宿ピカデリーほかにて公開中
監督:ゲイビー・デラル
出演:ナオミ・ワッツ、エル・ファニング、スーザン・サランドン、リンダ・エモンド、テイト・ドノヴァン、サム・トラメル
配給:ファントム・フィルム
原題:3 Generations
(c)2015 Big Beach, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:aboutray16-eiga.com

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる