『エイミー』プロデューサーが語る、亡きシンガーの本当の才能「ゴシップ的な扱いをするべきではなかった」

『エイミー』プロデューサーインタビュー

 第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞に輝いた映画『AMY エイミー』が公開中だ。全世界興行収入約28億円のヒットを記録している本作は、“Rehab”、“Tears Dry On Their Own”、“Back To Black”などのヒット曲を生み、グラミー賞5部門を受賞した歌手、エイミー・ワインハウスの生涯を描いたドキュメンタリー映画。『アイルトン・セナ 音速の彼方へ』の制作スタッフである、アシフ・カパディア(監督)とジェームズ・ゲイ=リース(プロデューサー)が再びタッグを組み、エイミーの波瀾万丈な半生を映し出す。リアルサウンド映画部では、本作のプロデューサーを務めるジェームズ・ゲイ=リースにインタビューを行い、本作の制作秘話をはじめ、エイミー・ワインハウスの魅力、そしてドキュメンタリーを制作する上での考えなどを聞いた。

「彼らと共に生きている感覚を味わってもらいたい」

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ーー今回、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリーを撮る上で重要視したのはどんな点でしょうか。

ジェームズ・ゲイ=リース(以下、ジェームズ):最も重要視したことは、エイミーのリアルな姿を描くことだ。アメリカとイギリスでは、彼女はゴシップ紙の見出しにばかりなっていたので、本当の彼女の姿を描くことで、エイミーの人物像を一度リセットしてあげたかった。本来の彼女は本当に才能豊かなアーティストで、ユーモアにも富んだ素敵な人だった。精神的な問題を抱えているのは明らかだったからこそ、ゴシップ的な扱いをするべきではなかったと思う。

ーーただ、監督自身がエイミーの気持ちを代弁しているわけではなく、ちゃんと一線は引いているとも感じました。

ジェームズ:亡くなった人は自らを語ることはできない。だからこそ、ストーリーは彼らに語らせなければいけないと考えているんだ。墓場の向こう側から語らせるようなイメージに近いかな。本作でも、取材対象者を劇中には登場させていないし、当時のことを振り返らせようともしていない。鑑賞者には、彼らと共に生きている感覚を味わってもらいたいんだ。ドキュメンタリーの対象者の思い出を共有するのではなくてね。オアシスのドキュメンタリーが近々公開されるんだけど、それもギャラガー兄弟のインタビューはほぼ取っていないんだ。当時の映像と音楽で、彼らがどんな時代を生きてきたのか感じてもらいたいね。

ーードキュメンタリーを制作する過程で、エイミーの新たな発見はありましたか?

ジェームズ:繰り返しになるけれど、彼女の魅力は非常に聡明で才能豊かなところなんだ。大体の人が何気なく彼女の音楽を聴いていると思うけど、よくよく聴くと彼女の作る歌詞は、優れた洞察とウィットに富んでいる。この世に欠点のない人間なんて存在しないし、ただ彼女は周りの人よりも少しだけ問題を多めに抱えていただけ。だからこそ、共感できる部分も多いと思っている。実際に会ったことのない人のドキュメンタリーを作るのは、非常に抽象的な作業だけれど、制作の過程で彼女を知ることができた。いや、知っている気になれた。アイルトン・セナのドキュメンタリーを撮った時も感じたけど、とても彼女が近い存在に感じられるような、奇妙な感覚を覚えたよ。

ーーちなみに、劇中に使用する曲や映像はどんな基準で選びましたか?

ジエームズ:多くの人が反応できる曲を入れることは大事だね。でも、それ以上に彼女の物語を語るのに最適な楽曲はどれか、という基準で選んだよ。今回の作品は非常にボリウッド的な作品になっていて、曲が物語を語っていく。だからこそ、選んだ楽曲と映像のシナジーも意識したよ。例えば、恋人のブレイク・フィールダー・シヴィルとホテルで喧嘩して、外に飛び出していくシーンには、“Love Is a Losing Game”という楽曲を使っている。どうしようもない関係と理解していながらもやめられない……エイミーが客観的に自分の状況を理解していることが、この歌からもよく分かる。セナの場合は、彼の栄枯盛衰がストーリーとして明確化されていたから分かりやすかったが、彼女の場合は人間味に溢れていた分、複雑なストーリーでとらえどころがなかった。だが、エイミーのことをいろいろと探っていく中で、彼女の楽曲には物語を雄弁に語るだけの力とヒントが詰まっていると気づいたんだ。

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