>  > 種田陽平、タランティーノとの撮影を振り返る

『ヘイトフル・エイト』美術監督・種田陽平インタビュー

『ヘイトフル・エイト』美術監督・種田陽平が語る、タランティーノの撮影術「彼は巨匠になった」

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 クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ヘイトフル・エイト』が本日2月27日に公開された。前作『ジャング 繋がれざる者』に続く西部劇で、南北戦争から数年後、真冬のワイオミング州の山中を舞台に、様々な秘密を抱えた7人の男と1人の女による密室での会話劇と、そこで起こる殺人事件の真相が、ミステリアスに描かれていく。リアルサウンド映画部では、『キル・ビル vol.1』以来のタランティーノ作品参加となった、美術監督の種田陽平にインタビューを実施。13年ぶりにタランティーノ作品に参加することになった経緯や、タランティーノ監督の人物像、タランティーノ監督がこだわった70mmフィルムでの撮影などについて話を訊いた。

「特別な打ち合わせは必要ない」

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種田陽平

ーー今回、13年ぶりにタランティーノ作品に参加されたわけですが、タランティーノ作品のプロダクションデザインは、日本の作品や他の海外作品と比べて、やり方なども異なるんでしょうか?

種田陽平(以下、種田):美術って国によってやり方が全然違うんですよ。撮影、照明、録音とか技術的なことは、世界共通なところがけれど、美術は一番ドメスティックな部分もあって、国によって全く違う。たとえば、日本とヨーロッパとハリウッドではやり方が違うし、役割の領域も違う。しかも、タランティーノ映画は、いわゆるハリウッド映画とはまた全然やり方が違うんです。「ヘイトフル・エイト」はユニオン映画なので、いわゆるAクラスバジェット映画なんだけど、どうも普通のハリウッドスタイルではないらしい。ハリウッド映画って、だいたいスタジオやプロデューサーが力を持っていて、スタッフィングとかも彼らが決めていくことが多いんです。だから監督が全部の権利を持っているわけではないんです。一方タランティーノ映画は、監督が全部決めている。プロデューサーは彼がやりたいことを実現させるために集まっている感じで、誤解を恐れずに言えば、アンチハリウッドスタイル。ハリウッドの1940年〜50年代の、ジョン・フォードとか、オーソン・ウェルズとか、ヒッチコックとか、あの頃の巨匠と呼ばれていた人たちと同じようなやり方で作られているんじゃないかと思いまいした。

ーーそんなタランティーノ監督と今回2度目のタッグを組むことになったと。

種田:アメリカの1800年代の物語で、わざわざアジア人のプロダクションデザイナーを使おうっていう発想は、ハリウッドにはないわけですよ。クエンティン(・タランティーノ)は“クレイジー”だとよく言われるけど、“クレイジー”だからじゃなくて、すごく公平で、偏見がない人間だから、「今回、種田陽平がいいと思うんだよね」っていう発想になるわけで。

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『ヘイトフル・エイト』(c)Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.

ーータランティーノ監督が今回、種田さんを指名した理由は。

種田:例えば、1980年代のアメリカが舞台だと、その時代に住んでいないから、僕がやる意味はないんじゃないかってクエンティンは言うんです。でも、西部劇の時代なら誰も見てきてはいないわけだから、自由にデザインができるというわけです。あとは『キル・ビル Vol.1』の美術のいい思い出というか、(クエンティンが)また一緒にやりたいと思ってくれていたみたいですね。

ーーそのようなオファーが来てから、すんなりと決まるわけですか? コンペ方式だったという話も聞きましたが。

種田:そうは言っても、一応向こうで何人かに会ってくれって言われて。コンペ方式というか、向こうはそれが常識なんです。だから、監督がこの人が本命だと主張しても、一応プロダクションやプロデューサーが推薦する人間にも会うみたいな。それでも、やっぱり監督が種田と一緒にやりたいと言ってくれた。それで、「決まったから来てくれ」と連絡がありました。

ーータランティーノ監督からはプロダクションデザインに関して、具体的な指示や注文、要望みたいなものはあったのでしょうか?

種田:クエンティンの場合、まず準備をしている時のスタンスは脚本家なんですよ。映画のバイブルは脚本なんだっていう人なんです。まあ当たり前なんだけど、今はそういう監督が意外と少ない。そういう人だから、脚本にすでにかなり細かく「こうしたい」と書かれているんですよ。「脚本読んだ? じゃあもう説明はいらないね」っていう感じで、特別な打ち合わせは必要ないわけです。

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ミニーの紳士服飾店イメージ(c)Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.

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ミニーの紳士服飾店セット(c)Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.

ーー具体的にはどのように書かれているんでしょうか?

種田:例えば、今回の密室劇の舞台、Minnie’s Haberdashery(ミニーの紳士服飾店)で言うと、「バーカウンターにはボトルが3本しか置いていないが、ここをバーと言うならバーと言えよう。料理はシチューしかないが、ここをレストランと言うんだったら、レストランと言えよう。雑貨や生活用品も売っている店だ。地元の人たちの交易所みたいな場所にもなっている。何でも揃っている店だが、ただひとつ、ミニーの紳士服飾店にないものがある。それは、紳士服だ」というようなことが書いてあるんです。だからこういう空間を作ってねっていうことで。このミニーの紳士服飾店には、彼の“ひねり”が入っているんです。Haberdasheryって言うと、普通は都会にあるテイラーのような高級紳士服店みたい店のことを言うんだけど、それをわざわざド田舎に置いて、しかも紳士服がないっていう。それで小道具担当の人が、紳士服じゃないんだけど作業着みたいなものを現場に掛けておいたら、クエンティンが「うーん、これいるかな? やめとこう。なし!」とか、最初はブーツとかも置いていたんだけど、「うーん、これもどうかなぁ。これなし!」となっていって。最終的に、紳士服はもちろん、着るものすら全部なくなった(笑)。

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