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BiSHのライブが生み出す、新たな熱狂の形 幕張メッセイベントホール公演を観て

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 初めて見る光景だった。終演直後は「すごいものを観た」という感慨と、自分が今観たものを上手く言語化できない不思議な余韻に包まれていた。これまでいろんなアイドルグループやロックバンドのライブを観てきたけれど、そのどれとも違う独特の求心力が働いていた。

 筆者自身、BiSHのライブはデビュー以来何度か観てきたし、当サイトでもたびたび彼女たちについて書いてきたのだが、「いつの間にこんなことになっていたのだろう……」と驚くほどの状況だった。

 7月22日、幕張メッセイベントホールでのツアーファイナル公演『BiSH NEVERMiND TOUR RELOADED THE FiNAL “REVOLUTiONS”』を行ったBiSH。この記事では、単なるライブレポートではなく、会場全体に渦巻いていた求心力と熱気の正体について分析していきたい。一体、その場には何があったのか。

 その一つは、まさにブレイクの渦中にあるグループだけが持つ“破竹の勢い”のようなものだった。7000人の会場はソールドアウト。ワンマン公演としては過去最大規模である。昨年10月に日比谷野外大音楽堂で行ったワンマンライブ『Less Than SEX TOUR FiNAL”帝王切開”』を観た時には「渦巻いている熱気に会場のキャパシティが追い着いていない感じがあった」と書いたのだが(「BiSHの波は、さらに大きなものになる!  柴 那典が探る、日比谷野音ライブにあった“熱気”の本質」)、まさにその言葉通り、そこから一足飛びに大きな存在になりつつある。

 だからこそ、メンバーも、オーディエンスの間にも、まだ見ぬ場に共に足を踏み入れているかのような興奮があった。開演前からフロアにはざわめきが各地で起こり、暗転と同時にそれがどよめきに変わる。モノクロで過去をフラッシュバックする映像から「オーケストラ」でライブがスタートする。ちょっと鳥肌が立つような感触があった。

 そしてもう一つ、とても興味深かったのは、この日の幕張メッセイベントホールに生まれていた「新しいライブ様式」だった。

 この日のBiSHのステージは、とにかく畳み掛けるような展開だった。「オーケストラ」が終わり、ハシヤスメ・アツコが「BiSHの番狂わせ始めようぜ!」と叫ぶと、「社会のルール」「DEADMAN」「Marionette」「ウォント」「本当本気」と、序盤の6曲を休みなしで披露。激しい楽曲をひたすら続け、特にメジャーデビュー曲である疾走するパンクチューン「DEADMAN」で会場に火がついたような盛り上がりが生まれる。自己紹介のMCからも7曲をぶっ続けで歌い踊る。



 ステージ上の6人が全力だからこそ、アリーナとスタンドの7000人もそれに全力で返す。Tシャツを着てタオルを巻いた姿のオーディエンスが多く、女の子のお客さんも多い。サイリウムの光はほとんど見当たらない。一緒に振り付けを踊るファンも多く、中盤からは見渡す限り汗だくだ。「ALL YOU NEED IS LOVE」では7000人が一斉に肩を組んで飛び跳ねる。すごい一体感だ。

 それでも不思議なのは、いわゆるアイドルのライブとはちょっと違うムードが自然と生まれていること。むしろ、パンクバンドのライブに近い感じがある。

 アイドル文化には「推し」という概念がある。つまり、客席の一体感はあくまでステージ上のアイドルを「対象」にファンが一致団結することで生まれるものだ。BiSHのファンにも「清掃員」という呼称があり、そういう力学が働いていてもおかしくない。しかしこの日の幕張メッセにあったのは、ステージもオーディエンスも地続きの感覚。6人と7000人が一つになって熱狂を生んでいくような、いわゆるパンクバンドのライブの力学だ。

 とはいえ、ステージ上に楽器はない。以前のツアーでは松隈ケンタ率いる「鬼バンド」が演奏を担当していたこともあったが、今回のワンマンでステージに立ったのは6人のみ。そして特に初期の曲にはアイドルソングの様式を踏まえて作られているものも多く、「DA DANCE!!」などミックスや掛け声が入るタイプの曲もある。パンクバンドのライブの場にある盛り上がりと完全にイコールかと言えば、もちろんそうではない。

 つまり、そこにあったのは、アイドルカルチャーとパンクカルチャーが真っ向から混在するBiSHならではの「新しい熱狂の形」だったのである。そしてそれは、BiSHが「楽器を持たないパンクバンド」を標榜してきたからこそ生まれたものであったと思う。


 本編は「BiSH-星が瞬く夜に-」で終了。アンコールでは1曲目に「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」を歌い終わると、一人一人、BiSHとして乗り越えてきた過去とこの日の幕張メッセにかけた思いを切々と語る。新メンバーとして加入してからの一年で人間としても大きく成長できたと涙ながらに語るアユニ・D。ツアー中涙が止まらないような日が何度もあったというリンリン。オーディションに落ち続け挫折を味わった過去を語ったハシヤスメ・アツコ。初のワンマンライブのときに泣きながら帰った日のことを「あの日逃げなくて良かった」と振り返ったモモコグミカンパニー。そしてアイナ・ジ・エンドは「BiSHは圧倒的な存在になりたい」、セントチヒロ・チッチは「BiSHはまだまだ止まりません。最高のその先へ行くことを約束します」と奮い立たせるような言葉を伝え、そのまま「プロミスザスター」を6人が歌う。



 ラストは「生きててよかったというのなら」。ステージ上でメンバーが口々に言っていたとおり、BiSHというグループは彼女たち6人だけの力で動いているわけではない。プロデュースは渡辺淳之介が、そして楽曲制作は松隈ケンタが手掛けている。しかしメンバーそれぞれが歌詞を書いたり、アイナ・ジ・エンドが振り付けを手掛けたりする中で、BiSHの楽曲には「6人の物語」としての表現の強度が宿りつつある。おそらくそれが彼女たちの勢いを生み出しているのだろう。

 BiSHの物語はまだ先に続く。この日の幕張メッセイベントホールは、間違いなくそのマイルストーンになった公演だった。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

BiSHオフィシャルサイト

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