ボカロシーン黎明期から活躍するプロデューサー 164の初ライブにみた“職人気質”

164、初ワンマンにみた“職人気質”

 4月8日、四谷LOTUSにて164が『1st Oneman Live「Sevenly」』を行なった。昼・夜の2公演となったこのライブ、今回は昼公演に焦点を絞ってレポートしたい。

 164は動画投稿サイト発のVOCALOIDプロデューサーとして、ボカロシーン黎明期から活躍しており、初投稿は2008年9月28日の「shiningray」。つまりそこから約8年半の月日を経て、今回初めてワンマンライブを開催したことになる。同公演開催発表時に多くのファンがザワついていたことが、その衝撃を物語っていた。

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 ライブ冒頭は、そんなテーマの重さも感じさせず、「準備はいいかな? まずは首の運動から!」とオーディエンスをヘドバンさせる「4時44分」、そして彼の代表曲のひとつである「天ノ弱」で客席からはシンガロングが起こり、この日のライブがどれだけ待ち遠しかったのかを感じさせたと同時に、彼自身が楽曲を歌うという演出に驚かされたファンも多かっただろう。

 序盤の164はそんなことも意に介さないように、「今日ライブハウスに来るのが初めてって人もいるかもしれないけど、そんなの関係ないよ! 最高の一日にしましょうよ!」と叫び、「リセット」に「サイコロジック」と、彼らしいギターサウンドが前面に押し出されたロックサウンドで、さらに熱量をドライブさせ、怒涛ともいえる流れを演出した。

 そしてライブは中盤から、彼自身の物語を交えてよりエモーショナルなものへと変化する。「33歳にしてライブ初MCをするという。いままでリリースイベントや握手会でうまく喋れなくて、ツイキャスで修行を積んだんですけど……ライブだとコメント流れてこないんですよね(笑)」と、観客の笑いを誘うと、ギターをレスポールからアコースティックギターに持ち替え、バラードゾーンへ突入。サビではファルセットも多用する「madder sky」、「ジーニー」、「カランと鳴く」と、切ない楽曲を歌いあげた。

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 再びレスポールに持ち替えた164は、同じくシーンの黎明期から活躍する盟友・40mPをステージに呼び込むと、彼は「息上がってるよ?」と早速164へ容赦のないツッコミを繰り出し、仲の良さを見せつけた。2人は1640mPとして作詞・作曲をそれぞれが担当する形で楽曲制作を行っており、互いのファンにとってはお馴染みの存在だ。164が「ここからは2曲連続で歌います」と話すと、客席から何を演奏するか察知したような歓声が起こり、100万回再生で「VOCALOID伝説入り」を果たした名曲「タイムマシン」と、その続編である「未来線」を演奏した。

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 40mPがステージを降りたあとは、164が「今までよく『歌わないんですか?』と聞かれるたびに『自分の歌でお金をとりません』と言ってきました」と、これまでライブを開催しなかった経緯について言及。しかし、ライブを行なうにあたって「自分のフォロワー10万人を平等にしたいけど、なかなかそうもいかない。ただ、今日チケットを買ってきてくれた150人だけは絶対大事にしようと思ってる」と話し、自身がボーカルを務めたことについては「一生かけて歌とギターをやってる人には及ばないかもしれないけど、150人をどうやったら幸せにできるか考えた。俺は作詞作曲とギターに命を賭けてるから、自分の口とギターで伝えるのが大事かなと思った」と、丁寧にその理由を説明する一幕も。

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 ライブの後半は、そんな彼の感慨深さを示すように、クールなプログラミングと歌から始まり、徐々に熱を帯びていく「アウトサイダーの憧憬」からスタート。疾走感のあるギターロック「希望の橋と自由の魔法」で再び勢いを加速させると、「本当に不安だったけどやってよかった。ありがとうございます!」と叫び、最後は渾身のギターソロも飛び出した「嫌われ者の詩」で本編は終了。アンコールでは、「僕が書いた曲って、男の子目線と女の子目線の曲がそれぞれあって。今日のライブでは男の子目線の曲ばかり歌ったんです。でも、女の子目線の曲だけど、これだけはやらないといけないというのがあって」と前置きし、初投稿楽曲「shiningray」で盛り上がりは最高潮に。「みんなにとって大事な一日になってたらいいな。天井の色とか照明の色とか忘れないでくださいね」と話しながらアコギに持ち替え、「掌中の珠」でライブの幕は閉じた。

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 VOCALOIDシーンにおいて、初期から今まで現役で活動を続けているプロデューサーはそこまで多くはない。それは大半のプロデューサーが、違う舞台へ器用に身を移して活躍しているからだ。そんななか164はVOCALOIDシーンで活動を続け、初ワンマンの舞台に150人キャパの会場をあえて選び、情熱的に自分の歌とギターでしっかりと思いを伝えた。それはある意味「不器用」とも取れるかもしれない。だが、このステージに至るまでの葛藤や、ライブパフォーマンスを見て、彼には職人気質ともいえる“音楽への素直さ・誠実さ”があり、それが一番の魅力でもあるように感じた。

(取材・文=中村拓海/撮影=中島たくみ)

■セットリスト
『164 1st Oneman Live 「Sevenly」』昼公演
2017年4月8日(土)四谷LOTUS
01.4時44分
02.天ノ弱
03.リセット
04.サイコロジック
05.madder sky
06.ジーニー
07.カランと鳴く
08.タイムマシン(with:40mP)
09.未来線(with:40mP)
10.ジブンインチモニター
11.アウトサイダーの憧憬
12.希望の橋と自由の魔法
13.嫌われ者の詩
EN1.shiningray
EN2.掌中の珠

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