ボカロシーンは“静かなる前夜祭”の最中? 初音ミク誕生10周年へと向かう動きを追う
2017年、ボーカロイドシーンは初音ミク誕生10周年という節目を迎える。2016年はその“静かなる前夜祭”と呼べるような、印象的な年になった。
かつてはメガヒットを連発し、人気曲/人気クリエイターを数多く生み出してきたボカロシーンだが、2015年にニコニコ動画に投稿された作品を見ると、1年間でミリオン再生を突破したのは4曲のみ。それも、1曲は人気ゲーム実況者によるラジオ番組のテーマ曲「全く身にならないソング」(露吐/レトルト/キヨ)、2曲は実験的・ネタ的なインスト曲「ボーカロイドたちがただ2コードくりかえすだけ」、「ボーカロイドたちがただテッテーテレッテーするだけ」(GYARI=ココアシガレットP)という変化球で、歌モノとしての純粋なミリオンヒットは実質、次世代ボカロPの代表格n-buna(ナブナ)による「メリュー」だけだった。
ヒット曲が量産されない状況がそのままシーンの停滞を示すものではないが、大きなバズを起こすボカロ曲が生まれにくくなっていたのは事実。そんななか、2016年に入って早々に、雲を晴らすような突き抜けたヒットとなったのが、シーンの初期から活躍してきたレジェンド=DECO*27の「ゴーストルール」だ。1月8日にニコニコ動画にアップロードされると3日で10万再生を突破。現在はニコ動で約350万再生、YouTubeで約360万再生を記録するなど一大ムーブメントを巻き起こした。
以降、結月ゆかりを起用した刺激的なロック曲「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」、ナユタン星人によるキャッチーなデジタルロック「エイリアンエイリアン」、かわいらしいタイトルとは裏腹に諦念も感じる歌詞がリスナーの心を捉えた「すきなことだけでいいです」(ピノキオピー)、ファンキーでカタルシスのある「脱法ロック」(Neru)と、いずれもボカロ曲らしい尖った5曲が、ニコニコ動画上だけで年内に100万再生を突破している。
2016年のボカロシーンを活気づけたのはやはり、DECO*27の復帰だろう。ボカロPや歌い手のインタビューにおいて、驚くべき頻度で彼に対するリスペクトが語られており、吹けば飛ぶブームと見られることも多かったボカロシーンにおいて、良曲を発表し続けることで注目を集め、その可能性を拓いてきた存在として認識されている。例えば、初音ミクが出演する「LUX(ラックス)」CMのテーマ曲「未来序曲」の制作者で、ミクをまるで人間のように歌わせる“神調教”の代名詞でもあるMitchie Mは、同曲がオープニングを飾ったフルオーケストライベント『初音ミクシンフォニー』(2016年8月26日)の公式プログラムにおいて、「DECO*27さんみたいな人気と実力のあるアーティストが定期的に曲を書いてくれるからこそ、来年めでたく初音ミク10周年が迎えられる」と語っていた。