なぜROTH BART BARONはUKに挑むのか 「今、何かが起きてるのはヨーロッパなんだ」

ROTH BART BARON、なぜUKに挑戦?

 中原鉄也と三船雅也によるROTH BART BARONが、クラウドファンディングサイト・CAMPFIREにてUKデビューに向け、イギリスでEP盤&ミュージックビデオを制作プロジェクトをスタートしている。同企画は、インディーズレーベルに所属しているROTH BART BARONが、イギリスのプロダクションから海外展開の誘いを受け、その内容を実現するため行なうもの。ブラッドリー・スペンス(Coldplay・Bell and Sebastian・Radioheadなどを手掛けるエンジニア)やジュリア・ショーンスタット(The NationalなどのMVを手がけるアートディレクター)を起用し、音源の制作〜MV作成を構想するなど、彼らは自分たちの音楽をより良い形で世界へと届けるチャンスを目の前にしている。今回リアルサウンドでは2人にインタビューを行ない、クラウドファンディングを始めた理由や現在のシーンに対する見解、これからの音楽・アーティストのあり方について、じっくりと話を訊いた。(編集部)

20170113-rbb6.jpg

 

「音楽の価値って、そんな等しいわけがない」(三船)

ーーまず、ROTH BART BARONがクラウドファンディングをする、ということが個人的に驚きだったのですが、そもそもなぜUKへ進出しようと思ったのか、どんな経緯でレーベルから誘いがきたのかを教えてください。

三船雅也(以下、三船):クラウドファンディングを始めるずっと前、2015年5月の話なんですけど、あるときバンドの公式サイトに、Feederのタカ・ヒロセさんから「ROTH BART BARONの音楽、面白いと思うんだけど、なんでイギリスでやらないの?」と連絡がきたんです。これまで僕らは、2014年にアメリカツアーをDIYでやって、2016年にはアジア諸国へと足を運んだんですけど、まだヨーロッパではライブをしたことがなくて「どういう風にアプローチしようかな?」と考えていたところにタカさんからメッセージが届いたので、そこからやりとりが始まって。

ーー直接お会いしたことは?

三船:タカさんが来日した際にライブを見に来てくれて、そこで話したりもしました。やりとりの中でタカさんの実績を踏まえて真面目な相談もしたり。日本にいる一介のインディーズバンドで、日本語で歌っている僕たちですけど、日本のことだけを考えて活動するのではなく、世界のことも同じように大切に考えて活動したい。ただ向こうに行ったという実績だけではなく、良いショーをすることで僕らの音楽を、通して日本を知ってほしいですし。

ーー海外の人に知ってもらうため、最適なやり方を探していたなかでの出会いだったと。

三船:いくつかライブツアーをした経験があるとはいえ、言葉の壁みたいな不安がないというわけではないですし、向こうに在住して、向こうの言葉で現地のバンドのように振る舞うというやり方もあると思うんですけど、僕らは日本で生まれ育って東京で暮らしてきて、海外の音楽に強い影響を受けたわけで、その自然体な感じでやりたいんです。テンプレ的とも思えるザ・ジャパニーズグループやクール・ジャパン的な押し付けがましさは違うんじゃないかとか、溶け込みすぎるのもまた何かが違うなぁと思っていて。肩肘張らずに、さも当たり前のように行けたら面白いなと。タカさんは、まさにそのアイデアを体現している存在だったんです。

中原鉄也(以下、中原):メッセージをいただいたとき、まさにツアー中だったんですけど、僕らも結成時から国内外で分け隔てない活動が出来るバンドになりたいと話していたので。今までチャレンジしてなかったヨーロッパにROTH BART BARONの音楽を届けることができるかもしれないという連絡は、励みになる出来事でしたね。

20170113-rbb4.jpg

 

ーーなるほど。そこから具体的に話が進んで行ったのはいつ頃なんでしょうか。

中原:2016年の夏、7月くらいですね。

三船:タカさんと出会ってから向こうのいくつかのプロダクションに音源を聞いてもらったんですけど、とある主催者から「これ、イギリスでやったら絶対面白いよ」と連絡が来て「何月と何月にミュージックビデオを何本作って、曲をこのくらい収録して、このエンジニアにお願いしたら絶対面白いよ!」と喰い気味にアイデアまでくれたうえに「もう、向こう用の資料作ったから!」と。本気で一緒にやることを面白いと思ってくれているんだと嬉しい気持ちになりました。とはいえすぐにではなく、自分たちの活動ペースもあるので、ひとまず動き出すのは2017年だねと。

ーーなるほど。ROTH BART BARONは『ロットバルトバロンの氷河期』をアメリカ・フィラデルフィアで、『ATOM』をカナダ・モントリオールでレコーディングしたり、参加ミュージシャンもUSインディーファンにとっては馴染みのある面々を揃えるなど、US志向が強かったのは理解できるのですが、なぜヨーロッパへこれまで踏み込まなかったのでしょうか。

三船:USには、僕らが好きなサウンドエンジニアやスタジオ、マニアックな機材があって、音楽として非常に興味深い場所でしたし、聴いてきた音楽も圧倒的にUSのミュージシャンが多かった、つまりUSの音楽が面白かったんですよ。その反対に、ここ数年のUKには面白い音楽がないという印象で。ビートミュージックとポップスが全盛で、日本に少し似ている感じもするから、当時はときめいていなかったんだと思います。あ、でも『ロットバルトバロンの氷河期』はタイトルも影響してか、「北欧っぽいね」「ヨーロッパ感があるね」と言われたことも少なくなかったんですけど(笑)。

ーー(笑)。2010年代前半の洋楽インディーは、USと北欧から同時多発的にサウンドスケープを重要視する音楽が登場したから、ということもあるのかもしれません。

三船:そうかもしれないですね。あと、ヨーロッパの印象としては、街が単純に魅力的だし、いろんな人種の交差点はアメリカではなくヨーロッパだと思っていて。アメリカはどこまで人種が混ざっていても、あくまでアメリカ人中心の社会だと思うんです。でも、少しずつ時代は変わって来ていて、今何かが起きてるのはやっぱりヨーロッパなんですよね。

ーーまさに今がそうですね。Brexitも起こりましたし。

三船:そうです。だからそれを知らないまま寿命を終えるのは嫌だなとは思っていました。もちろん、自分たちはジャーナリストではなくミュージシャンなので、音楽的にときめくほうから巡っていたらこのタイミングになったというだけで。

ーーでは今回起こった一連の出来事は、いずれはと思っていたことが向こうから近付いてきてくれて、機会が早まったということなんですね。

三船:僕らも具現化するために努力はずっとしてきたので、一気に互いの距離が縮まったという感じです。

20170113-rbb3.jpg

 

ーーで、そこからクラウドファンディングを使おうと思った理由は?

三船:もちろん、僕らが勝手にイギリスで展開して「行って来ました!」という報告だけでも良かったかもしれないんですけど。僕個人がKickstarterで良さそうだと思ったガジェットに出資したり、あのサイトを見ていたり、邦画の制作プロジェクトに出資して、実際に上映されたものを見て、何もしていないけど自分が一緒に作ったかのような嬉しさを味わったり、お金を払う理由が明確に見えたりして、そこから色々考えるようになったんです。

ーーお金を払う理由、ですか。

三船:今の時代って、SNSで言葉と写真が溢れていて、摂取しようと思ったら「疲れちゃうな」というくらいまで受容できてしまうじゃないですか。(手に持ったコーヒーを指差し)そのなかでこのコーヒー1杯がどういう理由で450円なのか、というのも、少し調べればわかるようになって来たわけで。それに加えて2011年の東日本大震災があって、みんなが自分たちに起こっている“当たり前”なことに慎重になってきた気がするんです。皆が少しずついろんなものの裏側ーー例えばスーパーに並んでいるもの、電話の料金を疑うようになってきたし、自分の生活を良くするためにどうお金を使うかを考えるようになったし、そう思うことが苦じゃなくなってきたのかなと。

ーーよりクリアであればあるほど良いという風潮も、より強くなっている印象です。

三船:ですよね。だからこそ、お店に並んでるCDのアルバムが、なぜ全部プラスチックのパッケージで同じ価格帯なのかと疑われている気もするんです。音楽の価値って、そんな等しいわけがないんですよ。もちろん、コストや収益を考えたらそうなることは理解できるし、ビジネスというラインに載せてしまうと、そこが真っ先に犠牲になってしまうことも理解しています。そういう価値基準に沿ったものとして、クラウドファンディングで一緒に何かを成し遂げることが、自分たちにとってもお客さんにとっても気持ちいいものだと思ったので、実施することを決めました。

中原:僕は何かのプロジェクトに出資したことはなかったんですけど、バンド界隈では話題にもなっていて「何かをしてみたいけど何をしていいかわからない」という人たちが気軽に参加できるのが魅力だと思うんです。何に対して自分はお金を払っているのかがクリアだし、アーティストとファンの距離に関しても、いろんなものが介入するより距離が縮まるのかもしれません。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる