ROTH BART BARON、UKデビューに向けて
なぜROTH BART BARONはUKに挑むのか 「今、何かが起きてるのはヨーロッパなんだ」
「海外でSpotifyアカウントは名刺のようなもの」(三船)
ーークラウドファンディングサイトも数ある中で「CAMPFIRE」で企画を立ち上げた理由は?
中原:僕らの曲に「Campfire」というタイトルのものがあって、これをCAMPFIREの家入一真さんがツイートしてくれたことを知っていて。そういう縁もあってのことですね。
ーーなるほど。実際にスタートしてみて、課題を感じる部分もあったりします?
三船:ありますね。「クラウドファンディング」という横文字は、なんとなく知っている人とそうでない人がいて、後者の人たちがまだまだ多い気がするんです。「ベンチャー企業と投資家みたいな関係です」と言っても堅苦しいだろうし、「募金」ではないし。
ーーその課題は色んなアーティストから耳にしますね。「悪巧み」という人も居れば、ストレートに「投資」と言ってしまえる人もいる。多分その人のキャラクターと密接に関わる部分もあるので、ROTH BART BARONにとって言いやすい言葉を見つけた瞬間に、もっと伝わりやすくなるんでしょうね。
三船:僕らはなんだろう……「お祭り」かな?
ーー「お祭り」、良いと思いますよ。ちなみにニュースを掲載した時点でかなりの反響があったのですが、2人はそれをどう捉えているのか気になります。
三船:想定以上だったのでビックリしました。「ニュース見たよ」って声を掛けてくれたり、アジアへ訪れた際にファンになってくれた方からも「私たちは支援できないんですか?」と言ってくれたり。これに関してはシステムの関係上難しいので、CAMPFIREさん側にお願いしているところです。
ーーこれまでの海外ツアーで蒔いた種が形になっているんですね。
三船:出会ってきた人たちが、一回きりではなく、ちゃんと応援してくれていたんだと実感できましたし、すごく貴重な存在なんだと励まされましたね。
ーープロジェクトの具体的な内容についても訊きたいのですが、ブラッドリー・スペンス(Coldplay・Bell and Sebastian・Radioheadなどを手掛けるエンジニア)やジュリア・ショーンスタット(The NationalなどのMVを手がけるアートディレクター)の起用は向こうからのアイデアなんですか?
三船:そうですね。ブラッドリーは、今まで僕らが組んだことのないサウンドメイクをするキャラクターだったので面白そうだと思いましたし、これまでの作品を聴いてもらうと、彼は「アルミニウム」だったり歌を前面に出した曲が好きみたいです。
ーープランに関しては、最終的な支援額に応じてフレキシブルに変わっていくわけですよね。
三船:そうですね。音源のレコーディングとミュージックビデオはやりたいよねと話しているのですが、規模感は終わってから考えるということで。
ーーシングルを出す場合は7インチですよね。
三船:イギリス人の友人から聞くだけでも、バンドはCDを作らないし、ヴァイナルを出さないとバンドじゃないと言いますし。基本的にはヴァイナルでシングルを出して、アルバムをリリースして、そのあとにシングルカットしますよね。あとは基本的にストリーミング主導みたいです。
中原:一緒に共演した海外のバンドは、二言目に「君たちのSpotifyアカウントを教えてくれ」と言って来ますし、もはや名刺代わりのようなものですよね。それがないと話にならないくらい。家に招待してくれた友人も、リビングでSpotifyを経由して音楽を流していたりと、向こうでは生活の一部になっています。
三船:ロシア人の友達に「君たちのバンドの曲はどれだい?」と訊かれたから「Spotifyはこれで、Apple Musicはこれだよ」と教えたら「Apple Musicって何?」と返されてビックリしたり(笑)。
ーーこうして各国の流れも見えていて、そこに当事者意識を持っている2人だからこそ、これからの展開が楽しみです。でも、三船さんがKickstarterのヘビーユーザーだとは思っていませんでした。
三船:とはいえ、参加者としての体験はあるものの、当事者になるのは初めてですからね。やってみて面白いなと思ったのは「アルバムを作ります!」という単発のプロダクトへの投資ではなく、形のない音楽ーーつまり信頼の置きにくいものを提示しているものの、実際は7インチもMVも、うまくいけばドキュメンタリーも手元に届くし、人によってはそれを一緒に見ることもできる。ある意味ボックスセットのようなパッケージングがされていて、新しい発売方法に思えてきたんですよね。
ーーでも、ボックスだと「どれだけ物が付属しているか」という価値判断ですけど、今回のような企画だと「どんな体験が付随するか」ですよね。
三船:そう、物理的なものと、体験が同居していることが面白いなと思ったんです。今後の自分たちの活動においても、これは一つのアイデアとして持っておけるものなんじゃないかなと感じたり。2016年はダウンロードコード付きの紙巻オルゴールを作ったり、KORGとのセッション企画でダウンロードコードの付いたTシャツを販売したり、金沢ではハンドメイドで作ったフィンランドの妖精・トントゥを型どったオーナメント(DLコード付)をnoidとスプリットでリリースしたりと、CDという形態にとらわれないあり方を探してきたんです。
ーーその結果として、年末にこういった取り組みにたどり着いた、というのは興味深いですね。
三船:もちろんCDはすごい発明だと思ったし、僕も小さいときからすごく馴染んできたものなのですけど、不都合になってきたり、どんどん主流ではなくなっているということは肌で感じていて。だからこそ、自分たちの音楽をそれぞれの形で聴けるようにミュージシャンが用意する必要はあるし、あえて制限することでプレミアムにする方法もあると思う。僕らは、2017年も引き続きいろんな可能性にトライしていきたいんですよ。
(取材・文=中村拓海/写真=下屋敷和文)
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