UQIYOが新作『Black Box』で再定義する“音楽の価値”「便利なものもパーソナルに響かせる」

UQIYOが再定義する“音楽の価値”

 新鋭音楽ユニット・UQiYOが、1月20日に1stミニアルバム『Black Box』をリリースする。同作はUQIYOの特徴であるベッドルーム・ミュージック的な浮遊感を表現しつつ、元ちとせや酒井景都といった女性ボーカルをゲストに迎え、よりポップで開放的なアプローチも見せる充実作だ。前回のインタビュー【UQiYOが語る、音楽を“体験”する意味「『ひとりの人に届けるパーソナルな音楽』を作る」】では、Yuqi(ボーカル・ギター・ピアノ&ループプログラミング・ミックス&マスタリング)とPhantao(ピアノ・キーボード)に話を訊いたが、今回はサポートから正式にメンバーとなったSima(ドラム)も加えた3人に、作品が生まれた経緯やゲストボーカルを迎えた意図、新ブランド「OTOGi」の立ち上げなどについて、大いに語ってもらった。

――新作『Black Box』は、UQiYOのポップで親しみやすい一面が強調された、クオリティの高いアルバムに仕上がっていると思います。インタビューとしては、昨年3月にリリースされた2ndアルバム『TWiLiGHT』以来となりますが、本作のリリースに至るまでにツアーがありました。どんな経験でしたか?

Phantao:ライブのパフォーマンスがすごくパワーアップしたな、という実感があります。小さなカフェみたいなところと、ライブハウスでやるときには、見せ方を変える工夫をしなければいけない、ということも分かってきて。2015年はかなりライブをすることができたし、最終的には12月のワンマンライブで集大成を見せられたと思います。

Sima:Yuqiさんが作る曲って、人間が演奏することをあんまり想定していないんですよ(笑)。だから、前作のタイトルトラック「TWiLiGHT」なんて、リリース前にはライブ演奏が本当に難しくて。でも、今じゃ比較的楽な方の曲になりましたね。

Yuqi:最初は本当にできるのか、というくらいだったのに、鍛えられたというか(笑)。ライブで言うと、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』に出演させていただいたり、ROTH BART BARONのような良いステージをする人たちと共演させていただいたりすることで、かなり刺激を受けました。ライブでお客さんを見て、どんな曲でどんな風に気持ちよくなるのか、ということも考えるようになったし、今回の『Black Box』はそういう事を意識しながら作りました。実はこれの他にもう一枚、アルバムになるボリュームの楽曲を録ったんですけど、みんなで聴いて「ちがうな」ということで、ボツにしているんです。それで改めて作ったくらい、ツアーの経験は大きかったですね。

――会場により見せ方を変えていく、というお話が印象的でした。具体的にはどんな違いがありますか?

Phantao:多分、(オーディエンスとの)距離感なんですよね。特に地方の場合は行ってみないとどんなサイズで、どんな雰囲気か分からないのが難しいんですけど、その距離感によって曲の順番だったり、MCで話すことを変えたいと思うんです。その設定を間違えると、すごい悲惨なことになったりもして。

Yuqi:面白かったよね。いちばん勉強になったのは、京都での小さいハコで、お客さんと同じ目線で対話しながらライブをした事ですね。そうしたら、MCも全部ドッカンドッカンとウケて、いいライブになって。でも、次の日に大阪の大きめのライブハウスで同じ調子でやったら、反応が薄かったんです。

――なるほど。オーディエンスとの距離感という感覚も、本作には反映されているということですね。では今作について、『Black Box』というタイトルにした理由とは?

Yuqi:ウィキペディアを引いてみると、「内部機構を見ることができないよう密閉された機械装置」とあるんですけど、書いている人が哲学的で、「今日の技術進歩の過程においては様々なものがブラックボックスとなり得る」とまとめてあるんです。それを読んで“確かに”と思って。僕らが今使っているモノ、着ている服や食べ物だって、誰がどうやって作ったか分からないものが多いじゃないですか。高度な分業化で利便性を獲得している反面、生きている実感みたいなものが阻害されている気がして。そういうことを表現したいと考えました。ただ、今作では黒い箱の外側――つまりこの世の中がすべてブラックボックスになっていて、箱の中だけは、自分が仕組みをちゃんと知っていて、プライドを持って好きだと言えるモノを入れていこう、というイメージです。

――“利便性”という意味では、前回のインタビューでサブスクリプションサービスへの言及もありました。

Yuqi:サブスクリプションサービスは僕も利用していますし、すごく便利なんですけど、時代に合っていないような気もするんですよね。特に東日本大震災以降、これまでの暮らしを見直して、丁寧にいいものを作っていこう、という動きが少しずつ始まっているなかで、本当にいいものを吟味して買うのではなくて、ただ“すべて持っている”という感覚になってしまうのは逆行じゃないかなって。以前、マイク・ヴァン・ダイクさんにインタビューする機会があって、その時に「いま、ドイツの一般市民の間で、自分たちが何を買うかを選ぶ権利があって、それによって世の中を変えることができるんじゃないかという機運が高まっている」という話を聞きました。『Black Box』はその「しっかりしたものを作る人がいて、それをちゃんと買うという美徳がもっと蔓延すべきだ」という考え方に刺激を受けた作品でもあるので、もっと自分が好きだと思うものをちゃんと応援したい、という意味を込めました。

――前回のインタビューでは、ポップ(大衆)ミュージックがパブリック(公衆)ミュージックになっているから、1対1のコミュニケーション、パーソナルなものとして音楽を捉え直したい、という趣旨の言葉もありました。今作でその考え方をさらに推し進めた部分もありそうですね。

Yuqi:そうですね。音楽も自分の経験とかとシンクロして、感化されて、“あ、いいな”と思った瞬間にパーソナルなものになると思うんです。そういう感覚が、音楽にかぎらず、これからの嗜好品や芸術品には絶対必要だと思っていて。安価で製造したものが大量に売れるという世の中から、コミュニケーションを意識して、しっかり作ることでやっと価値が生まれる時代に変わっていくような予感がします。

――世界的に分業化が進み、そのなかでApple Musicのような利便性の極限を行くものが登場する一方で、さっきおっしゃったようなDIY的な考え方や充実感を人々が求めるようになっています。異なるベクトルをもつものが同時に勃興しているともいえますが、Yuqiさんはそんな時代全体をどういう風にとらえますか。

Yuqi:どっちもなければいけないし、DIY的な考え方を推し進めたときには、医療などの分野で治療が行き届かず不都合なことが出たりするわけで、そこは便利さは大切だと思います。ただ、一度自分が便利だと思っているものを振り返って「この便利って、凄いよな」と思うことで、それすらもパーソナルに響かせることはできる。シャワーを浴びてて「このシャワーヘッド、凄いよな。水が出るところを点で区切ることによって、ここまで水圧が上がって気持ち良くなるんだ」とか最近よく思うんですよ(笑)。そういう見直しがあるだけでも、この世の中が少しでもキラキラしていくような気がするので、結局自分たちの心の持ちよう次第なんですよね。そういう意味ではシャワーだって『Black Box』の中に入れたっていいわけで。こうして便利なものもどんどん箱の中に入れていけば、もう少し楽しくなると思うし、いまって20年、30年後に振り返ったとき、「ああ、ここが分岐点だったな」ってわかるタイミングな気がするからこそ、そういう風に考えたいんです。

――シャワーに上手く例えていただきましたが、音楽面でもその考え方はできて、ポップミュージックが作ってきたある種の成果をもう一回見直すというか、再構築することで新しいものが生まれるということですよね。

Yuqi:そうです。何気なく聴いていたポップミュージックも、あらためて聴くと最高に良い機材で、最高に良いスタジオで録られた音だということが分かったり、機械的に弄らなくてもここまで歌唱力があったのかと再発見がありました。

――その結果として『Black Box』が完成したと思うのですが、今回のアルバムでは、元ちとせさんと、酒井景都さんというゲストボーカリストを迎えていることも目を引きます。こちらの経緯についても聞かせてください。

Phantao:景都さんは、前作のミュージックビデオでも主演してもらって。そんななかで、無声映画に音楽をつけるという企画でできた曲があって、女性ボーカルで誰かいないかな……と考えていたときに、景都さんがいた!と。ウィスパーボイスが曲にピッタリだし、僕はもともとYuqiの曲を女性ボーカルで聴いてみたいという思いが強かったから、“いいよね?”って(笑)。

Sima:それで、イベントで一緒にやらせてもらったんですよ。彼女はデザイナーでもあるので、自分で作ったアリスっぽいドレスを着てくれたんです。それがもうキラッキラで、21世紀のアリスだ!って感動しました(笑)。

Yuqi:歌詞もいただいて。無声映画の映像に合うように少しだけ加筆させてもらったんですけけど、世界観が本当にピッタリだったんです。素敵な経験でしたね。「Ship's」を歌っていただいた元ちとせさんについては、もともとしがないバンドだった僕らとしては、こんなボーカリストとできるなんてまさにドリームズ・カム・トゥルーなんですよ。僕が大学生くらいのころにデビューされて、生意気な言い方ですけど、“ついに日本からグラミー賞が穫れるシンガーが出てきた!”と本気で思って。いつか歌ってもらえたらなと思っていて、彼女のこぶし回しのようなものも僕なりに再現して、デモ音源を作ってみたんです。そうしたら、あれよあれよといううちに話が進んで、歌っていただけることになって。バンドにとってもターニングポイントになるような出来事だと思います。

UQiYO / Ship’s feat.元ちとせ

――沖縄音階のようなニュアンスもあり、そこに英詞を合わせるなど、曲としてもとても面白い内容になっています。制作はスムーズでしたか?

Yuqi:作曲の段階はわりとスムーズで、サウンドの部分は四苦八苦した部分もありました。特にホーン・セクションについては後のほうに決まって、やっとハマる感じになって。Phantaoがいい感じでヒントになるアイデアをくれたんですよね。それにしても、元ちとせさんが僕の曲を歌ってくれるなんて、本当に緊張しました(笑)。

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