パスピエの魅力は、強く太い一本線になったーー間口を広げて成長するバンドの今を分析

パスピエの現在地を分析

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露崎義邦。

 今回のライブでは、各アルバムから様々な楽曲が披露されたが、『娑婆ラバ』の楽曲とは対照的に、「△」「シネマ」「SS」「フィーバー」といったメジャー1stフルアルバム『演出家出演』の楽曲では、フロアの観客が一層盛り上がっていた。パスピエの認知を広げ、ライブ動員を増やしたのは、間違いなく同作であることがこの反応から実感できる。成田がかねがね「ライブ一辺倒なシーンへの対応」を口にするのは、これらの楽曲が、パスピエのライブ自体でよりフィジカルに機能していることもあってのことだろう。『娑婆ラバ』の楽曲をより良く伝えるため、本編ではなるべく“聴いて考える音楽”を披露し、アンコールに「SS」と「フィーバー」を演奏することで、観客の欲求も満たすというライブの構成に、パスピエが持つ、研ぎ澄まされたバランス感覚を見たように思える。そして、成田は終盤のMCで、観客へ向けて下記のような言葉を述べた。

 「今まで表に出てこなかった根暗なシャイバンドが、ラジオのレギュラーや各所でのインタビューなどのきっかけをもらった。曲だけじゃ語りつくせない分も含めて、もっとパスピエを堪能してもらえたらと思います」

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やおたくや。

 パスピエというバンドは、その飄々としたスタンスやインタビューなどでの発言から「聴き手を煙に巻く」といったイメージで捉えられることが少なくない。だが、先述の記事で成田が「アルバムのテーマとして、パスピエのストレートな部分もそうですが、内側にある“純粋に音楽が好き”というものもあって」と語っているように、根幹には“より多くの人に音楽を広めたい”気持ちがあり、あえて自分たちを多角的に見せることによって、バンドの間口をより広くし、受け手の自由度を高めているともいえる。だからこそ、作品だけを聴けばポップでプログレッシブなアーティストに、ライブを見ればフィジカルなロックバンドに捉えることができるし、インタビューを読めばラディカルで戦略的な一面を、ラジオやTwitterでは、若者らしい無邪気さを隠さない。そんなバンドのスタンスは、メジャーデビューから3年の時を経て、武道館公演を目前にしたところで、強く太い一本の線になった。そのことを、パスピエはこの日のライブとセットリストをもって証明してみせたのだ。

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大胡田なつき。

「パスピエのこれまでとこれからを、歌と曲で表現できた」

 大胡田がそうMCで述べたのは、本編最後の「素顔」を演奏する直前だった。“素顔を見せない”ことでひとつの“アイデンティティ”を示してきたバンドが、<素直になれない 今の私を愛して>と歌う。成田と大胡田が歌詞を共作し、パスピエ自体のシニカルな部分に踏み込んだ同曲をもって、バンドは自身に向き合い切った。

 バンドシーンに向けた『演出家出演』、その反動で内側へ向くようになった『幕の内ISM』、“パスピエらしさ”と対峙した『娑婆ラバ』を経て、次作はどこへ焦点を当てるのか、今から楽しみでならない。アイデンティティを増やしながら一歩ずつ前進する同バンドの成長ぶりに、大きな期待を抱かざるを得ないライブだった。

(取材・文=中村拓海/写真=鳥居 洋介)

●セットリスト
1.つくり囃子
2.贅沢ないいわけ
3.トロイメライ
4.アンサー
5.蜘蛛の糸
6.トーキョーシティ・アンダーグラウンド
7.△
8.術中ハック
9.裏の裏
10.MATATABISTEP
11.トキノワ
12.シネマ
13.最終電車
14.素顔

En.SS
W-En.フィーバー

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