主宰tomadが語るMaltine Recordsの10年とこれから「才能ある人が音楽を続けられる環境を作りたい」

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 インターネットレーベル<Maltine Records>が設立10周年を記念し、8月21日に『Maltine Book』を出版した。同書籍には、tofubeats(dj newtown)やokadada、AvecAvec(Sugar’s Campaign)、kz(livetune/RE:NDZ)、Banvoxなど、現在のJ-POPシーンでも活躍中のアーティストの作品をフリーダウンロード形式で多数リリースし、トラックメイカーのあり方やレーベルの概念を変えた<Maltine Records>の歴史や、それを取り巻くネットレーベル史が凝縮されており、スタイリッシュかつ資料的価値の高い一冊に仕上がっている。今回リアルサウンドでは、同レーベルのオーナー・tomad氏を直撃。彼がレーベル設立からの10年で経験してきたことや、イベント・リリースを通して変化した価値観、日本の音楽業界への思いなどを、存分に語ってもらった。

『周りで色々なことが起きている状況のほうが、音楽自体も“良く聞こえる”』

――まずは、2005年に<Maltine Records>を立ち上げた経緯を教えてください。

tomad:男子校に通っていた高一のとき、部活動に打ち込むことなくダラダラとネットゲームで遊んで時間を潰していたのですが、ある日同級生のSyemとDTMで音楽を作ろうかという話になり、実際作ってみたらある程度それなりに形になった。それをどうにかして世に出したいと思ったときに、海外では既にシーンが出来ていたネットレーベルを参考にして、それを真似てサイトを立ち上げてアップロードしてみたのがきっかけです。

――当時参考にしたレーベルは?

tomad:当時は有象無象のネットレーベルがたくさんありましたが、とくに<Earstroke Records>が面白かったのを覚えています。WispやDorian Conceptなども登場していた時期で、それらをネットで探して聴いているだけでも充実していました。

――リスナーとしてはどんな音楽を聴いていましたか。

tomad:J-POPは小学生時代から聴いていたし、モーニング娘。も好きでしたが、意識的に音楽を聴くようになったのは、RIP SLYMEやRHYMESTERなどの日本語ラップがチャートを賑わしていたころ。こういう音楽もあるのかと興味を持ったのがきっかけで、様々な日本語ラップなどの音楽を聴くようになっていくうちに、日本語ラップとして電気グルーヴに辿りついて、「それまで聴いていた日本語ラップとは違う」という感覚になりました。とくに初期の頃の「FLASH PAPA」などにそういう印象を抱いていましたが、知人から「これはテクノという音楽のジャンルで、他にも興味があるなら<Warp Records>のAphex Twinがオススメだよ」と聴いて、<Warp>周辺を掘り始めたので、<Maltine Records>初期はそのあたりの音楽に影響を受けていましたね。

――初期マルチネのカラーは<Warp>周辺のテクノから影響を受けたということですが、もう少しハードコアな印象があります。『どこにも属さない』というレーベルのスタンスもありながら音楽性はどんどん変化していくわけですが、どのような遍歴を辿っていったのでしょう?

tomad:初期はブレイクコアやハードコアテクノなど、エレクトロニカ系の激しい作品が多いなか、[MARU-014]でimoutoid『ADEPRESSIVE CANNOT GOTO THECEREMONY』をリリースして。スカムミュージックのなかに突然異形ポップスな曲が現れたと思ったら、[MARU-024]のdj newtown『Flying between stars(*she is a girl)』で四つ打ち要素が加わり、その流れが[MARU-050]まで続いていきました。

――[MARU-050]の『MP3 KILLED THE CD STAR?』は、レーベル初のフィジカルリリースであり、「メガミックスCD+CD-R+DLコードがパッケージされ、各曲のフルバージョンはコード入力先からDL可能」という形態も話題になりました。このあたりからレーベルを取り巻く雰囲気も変わり始めたようにみえます。

tomad:このあたりから<Maltine Records>で活躍していたアーティストたちが、他のメジャーやインディーズアーティストのリミックスワークをやるようになり、音楽でお金を稼ぐという行為が当たり前になった時期だと思います。それまではネットの中だけでグダグダワイワイやっていただけでしたが、ようやく現実に広がり始めた。

――リアルの場に出ていくといえば、『MP3 KILLED THE CD STAR?』リリース前年の2009年にレーベルとして初めてのイベント『おいッ!パーティーやんぞ!』を開催しています。イベントを打とうと思ったきっかけは?

tomad:僕が18歳になってクラブへ遊びに行ったり、DJ WILDPARTYのイベントに出演するようになったこと、あとは<Maltine Records>の音楽を聴いている人たちはどんな顔をしているのか見たくなったのがきっかけです。実際にイベントを打つことで、「こういう人たちがファンになってくれて、曲を聴いているのか」と理解し、それが次作のリリースに繋がりました。

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「EVENT Event of Maltine 2009-2015」より。

――<Maltine Records>のイベントは、インターネットの潮流とアバンギャルドな演出を程良い形でアレンジした、tomadさんのオーガナイザーとしての“変態さ”を感じます。これらの演出に関して、明確な理想形はあるのでしょうか。

tomad:考え方として、そもそも「イベントありき」ではなかったし、“オフ会”的な感覚を大事にしたかったんです。それまでネットだけで数年間やり取りしていた人と、実際に会ったりしたらテンションが上がるじゃないですか。そういう感覚を常に意識してきました。2010年の『わくわく大運動会』ではカオスラウンジの面々が絵を描いてくれましたし、2013年の“カブチネ”こと『歌舞伎町マルチネフューチャーパーク』から、渋家の面々が演出に入るようになりました。次第に外側に広げつつ、他の分野や手段でも盛り上げようという気持ちが芽生えていましたね。

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「PHOTO SESSION “VERSION” 玉城ティナ×GraphersRock×HATRA」より。

――<Maltine Records>は他の分野や手段として、イベントのほかにアパレル販売や、今回の『Maltine Book』出版など、“レーベル”という枠内には当てはまらない活動を行っています。

tomad:「音楽が中心的な存在でありながら、周りで色々なことが起きている」という状況のほうが、音楽自体も“良く聞こえる”ようになると思うんです。音を聴いて想起されるものがより具体的になるというか。だから、アートワークも作り込むし、イベントも音の世界観を膨らませるものとして機能すればいい、という考えです。

――アートワークを凝るようになったのは、『Sound Cloud』や『Bandcamp』といったサービスが広まり、「アートワークがよくないと音源がそもそも聴かれない」という判断基準が出てきたこともきっかけなのでしょうか。

tomad:[MARU-001]から[MARU-050]くらいまでは、アートワークについてそこまで考えず、とりあえず知り合いのアーティストに頼んでいたので、そこまで秩序はなかったですね。でも、次第にアートワークの重要性に気が付いてきたし、お願いできるようなデザイナーさんも周りに段々と増えたんです。とくに[MARU-101]以降は、『Sound Cloud』や『Bandcamp』のほかにも、『Tumblr』や『Twitter』など、画像ありきのSNSが増え、ネットにおいてアートワークが以前より重要になったと感じています。2011年からアメリカの若者を中心に隆盛したシーパンクは、レーベル単位で個性的なアートワークを打ち出して、それが音に反映しているような広がり方をしていて、それにも衝撃を受けました。

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