生身の人間が出てこない『ラブライブ!』トリビュートアルバムに見る、“垣根”の在り方とVTuberが果たす役割

『ラブライブ!』シリーズの15周年を記念したトリビュートアルバム『LoveLive! Series 15th Anniversary Tribute Album』が、1月14日に発売された。公式サイトで「豪華な全11組のアーティスト/IP作品が垣根を越えた奇跡のトリビュートアルバムをリリース!」と謳われているこのアルバムからは、2次元アイドルを軸とした「垣根」と向き合う意識がとても強く感じられる。
なにせこのアルバムには「生身の姿で活動している人間」としてのアーティストが参加していないのだ。カバー曲を担当しているのは、2次元のキャラクター、ボーカロイド、顔を出していない歌手、そしてVTuberだ。
他作品のキャラクターたちが歌う『ラブライブ!』
今回のアルバムはジャケットにも描かれているように『アイカツ!』『キミとアイドルプリキュア♪』『THE IDOLM@STER』『BanG Dream!』『ウマ娘 プリティーダービー』などの作品に登場する、アイドル・タレント的に活動しているキャラクターたちが『ラブライブ!』シリーズの名曲の数々をカバーしている。ここで重要なのは、歌唱を担当している声優たちが本人名義ではなく、あくまで「キャラクター」として参加していることだ。
たとえば「THE IDOLM@STER」シリーズに登場するアイドルキャラクターである天海春香、如月千早、星井美希、萩原雪歩、菊地真は、『ラブライブ!』内のユニット・μ'sの楽曲である「KiRa-KiRa Sensation!」をカバーしている。天海春香役の声優は中村繪里子ではあるが、このカバーでは「中村繪里子の歌」ではなく、あくまでも「天海春香が歌っているμ'sの歌」という形式が保たれている。
そのため『ラブライブ!』の楽曲をしっかりリスペクトしつつも、しっかり「『THE IDOLM@STER』作品の世界で歌われている」と感じさせる不思議な生々しさにあふれたカバーになっている。他の楽曲も、それぞれの作品世界に沿ったテイストでアレンジされており、交差しなかったはずのパラレルワールドが『ラブライブ!』の曲で繋がっているかのような構成になっている。
ちなみに2023年のイベント「異次元フェス」で『ラブライブ!』と『THE IDOLM@STER』は歌合戦形式で交わりあっていた。今回のトリビュートアルバムはその延長線上のようにも感じられる、他の作品のキャラクターたちと次元を超えた交流をしているかのような雰囲気でまとまっている。
中でも『らき☆すた』のキャラクターである泉こなた、柊つかさ、柊かがみ、高良みゆきによる『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル2 MIRACLE LIVE!』の「キラーキューン☆」のカバーは特にその傾向が顕著だ。『らき☆すた』のオープニング曲「もってけ!セーラーふく」で4人が披露したわちゃわちゃとしたやり取りがそのまま盛り込まれており、『らき☆すた』と『ラブライブ!』の世界をマッシュアップしたかのような、自由奔放な楽しさにあふれている。
本日発売の本作の中で、『らき☆すた』がコラボさせていただきました!
キャラソンは発売したらそれっきりの曲も多く、なかなか言及できないので、ちょっとばかりご説明を。… pic.twitter.com/RbcOkBVib3— 平野綾 -Aya Hirano- (@Hysteric_Barbie) January 14, 2026
泉こなた役の声優・平野綾はXで「今回のトリビュートは「らき☆すたのメンバーが本人で歌う」というディレクションのもと、当時のスタッフさんや製作委員会様監修のなかレコーディングしており、作品の総意で間違いありません」とポストしている。こうした点からも、今回のアルバムでカバーを歌っているのはあくまでもキャラクターである、という点が徹底されているのがわかる。
2次元に“近い”人間と、キャラクター性を身につけたソフトウェアが並ぶアルバム
そして、このラインナップに歌手のAdoが参加しているバランス感覚が絶妙だ。彼女は間違いなく人間の歌手だが、ほとんど人前に姿を見せたことがなく、基本的にイラストのみでしか登場しない存在。自らを表現するアバター的なイラストがあるがゆえに、歌手の中でも比較的2次元と親和性の高い側に属する存在だろう。最近『ちびまる子ちゃん』でオープニング主題歌を歌った際、彼女自身がアニメの中でキャラクターとしてすんなり登場できていたのが思い出される。
Adoが歌うのは『ラブライブ!』μ'sから西木野真姫、園田海未、絢瀬絵里のトリオシングル曲「soldier game」のカバーだ。3人で歌っていた楽曲をひとりで歌うにあたって、Adoは3人のパートを別表現で歌い分け、キャラクターへの思いをしっかり個別に捧げつつ、自分流のボーカルで表現するこだわりを見せた。
彼女はかつてからグッズを買いに秋葉原に通うほどの『ラブライブ!』の大ファンだったことを明かしている。特に登場キャラクターのひとり、園田海未には並々ならぬ思い入れがあるようで、本作に参加する以前も、彼女の作中楽曲「勇気のReason」をカバーしたこともあるほどだ。
2次元枠に近い人間のアーティストとして参加しているのがAdoだとしたら、2次元枠でありつつも「キャラクターではなく、人間そのものでもない」という、反対に近い立ち位置で参加しているのが初音ミクだ。今回は『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の楽曲「Fly with You!!」をカバーしている。
ボーカロイドはあくまでも「ソフトウェア」なので、「初音ミク」が楽曲に対してなにかしらの感情を持って表現しているわけではない。厳密に突き詰めていけば、今回のカバー楽曲の表現の担い手は「打ち込んでいるコンポーザー」ということになるだろう。しかしこのアルバムでは、歌っているのが「初音ミク」という自律的な存在である、という扱いになっているのが興味深い。初音ミクが「ソフトウェア」から「キャラクター」「バーチャルシンガー」として人格を持ち始めている文化的経緯は、今回のアルバムの公式紹介文でも引用されている。





















