生身の人間が出てこない『ラブライブ!』トリビュートアルバムに見る、“垣根”の在り方とVTuberが果たす役割

VTuberが『ラブライブ!』を歌う意義
彼女たちと並び、“キャラクターでもあり人間でもある中間的な存在”として参加しているのが、VTuberたちだ。これによって、アルバムのカラーはさらに垣根を越え、それでいて表現の幅がうまくグラデーションになっている。今回参加しているVTuberは樋口楓、しぐれうい、V.W.P-Virtual Witch Phenomenon-(花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜)の3組だ。
しぐれういがカバーするのは『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』スリーズブーケの「フォーチュンムービー」。この曲は、公式リリックビデオのイラストをしぐれうい本人が担当した過去がある。跳ねるリズムが魅力のキュートな原曲が、しぐれういのほんわかした味わいの歌声によって、“ふわふわ感”がアップ。ハッピー度高めのカバーになっている。
V.W.Pがカバーした『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』三船栞子の「酸欠」は、もとより情感強めな楽曲だったが、そのエモーショナルさを残しつつ、大胆に自分たちの色に染め上げたテクニカルなアレンジになっている。ひとりのアイドルによって歌われたキャラクターソングを、5人グループで歌っている、というのも注目したいポイント。各々が普段ソロ活動しているときの表現よりも、よりV.W.Pというグループが持つ「物語性の強い世界観」に寄せたテイストで歌われている。
にじさんじの樋口楓は、VTuberとしてデビューした頃から熱心な『ラブライブ!』ファンであることを公言していたひとり。ライブイベントにも足繁く通っていた彼女は、リゼ・ヘルエスタ、竜胆尊らと共にi's(イーリス)というユニットを結成し『ラブライブ!サンシャイン!!』の曲を多数カバーし、動画としてアップしている。
樋口楓は「私にとってすごく大事な曲」として『ラブライブ!サンシャイン!!』Aqoursの「Landing action Yeah!!」を選曲し、歌っている。この作品は、アニメ本編で使われてはいない、「Aqours Next Step! Project」というAqoursのプロジェクト展開のテーマソング。樋口楓いわく「Aqoursが好きな人なら知っている曲」だ。
彼女はこの曲について「その曲のおかげで外に出る楽しさとか、一緒にライブで盛り上がる楽しさとかを教えてもらった」と思い出を語っている。今回のカバーでは原曲の持つポジティブなパワーが強くリスペクトされており、聴いた者に力を与えてくれる楽曲として、樋口楓ボーカル曲の中でもかなりはつらつとしたスタイルで歌っているのが印象的だ。
VTuber文化にあまり触れてこなかった人からすれば、今回のトリビュートアルバムに参加した3組を見て「この人たちはキャラクターとして歌っているの? 人間として歌っているの?」と首を傾げるかもしれない。この部分に関していえば「どちらでもあるし、どう受け取ってもいい」というのが、VTuberという表現スタイルの懐の深い部分だ。
そもそも今回参加している3組7人のVTuberですら、それぞれ活動スタンスが異なる。自分の匙加減で表現を「人間(アクター自身)」「キャラクター(アバターの世界観)」のどちらかに寄せる、意識的に調節ができるのが、VTuberという存在だ。そんな「表現の自由度」を誇る彼女たちVTuberが今回のアルバムに参加したことで、作品や次元の垣根を越える架け橋として機能しているように感じられた。
リアルとバーチャルとファンタジーの垣根を越えていく『ラブライブ!』
参加アーティスト・キャラクターたちのラインナップからも分かるように、『ラブライブ!』というコンテンツはこれまでも「垣根」を越えよう、という思想を表現してきている。昨年ソーシャルVRプラットフォーム『VRChat』で行われたイベント『Sanrio Virtual Festival 2025』の舞台では、VR空間上に『ラブライブ!サンシャイン!!』のAqoursのキャラクターたちが登場し、バーチャルライブを披露している。普段の「ラブライブ!」シリーズのライブでは、声優が舞台でパフォーマンスをしているのだが、こちらはキャラクターがそのまま現れて、観客の前に立って歌い、踊った。『Sanrio Virtual Festival』には数多くのVTuberやバーチャルアーティスト、ときには生身のミュージシャンが出演している。そこに、“2次元側の存在”である彼女たちが、アイドルという立場で並んでいたのだ。
垣根を飛び越えることは、新たな客層の交流を生む。今回のトリビュートアルバムに自分の好きな作品のキャラクターがいるから、また好きなVTuberが歌っているから、はじめて『ラブライブ!』楽曲に触れた、というファンもいるだろう。逆に『ラブライブ!』ファンにとっては、自分たちが愛した歌が、異なる世界観のなかで歌われる様子を見られるのは、その曲の魅力を再発見できる機会でもあっただろう。
これだけの規模の、IPや次元すら横断したコラボレーションは、気軽に実現できるものではない。しかし、こうした取り組みを見ると、『ラブライブ!』のキャラクターたちをはじめとした2次元作品、VTuber、アバターで活動する歌手たち、ボーカロイド、そして「人間」が一同に介して同じ場所に並ぶ、全ての垣根を越えた大型ライブフェスへの期待が否応にも高まる。さらにそれが、「現実」と「バーチャル」の両方で開催される可能性すらも、夢見ていい時期に入ったのかもしれない。
■関連リンク
『LoveLive! Series 15th Anniversary Tribute Album』























