「引き算の美学」でクリエイターと世界を繋ぐ ドワンゴ×SOZOが描く“2026年のエンタメ海外戦略”

ドワンゴ×SOZOが描く“エンタメ海外戦略”

 2025年11月にシンガポールで行われた『Anime Festival Asia Singapore 2025』での「超ニコニコ盆踊り」について、株式会社ドワンゴの取締役である横澤大輔氏にインタビューを行った前編に続き、後編では同社とSOZO Pte. Ltd.がタッグを組んだクリエイター応援プロジェクト「ACC(Asia Creator Cross)」にフォーカス。クリエイターの海外展開を支援し、数々のフェスのステージやブースをサポートしてきた1年間の活動のなかで得た経験値と、2026年以降の野望について語ってもらった。(編集部)

「僕らはコンテンツそのものより『文化が生まれる土壌』を作っている会社」

ーー前編では「盆踊り」というフォーマットの輸出についてお話を伺いました。後編では、今回のプロジェクトの全体像や今後の展望について深掘りしていきたいと思います。ドワンゴとSOZOがタッグを組んだ「ACC(Asia Creator Cross)」プロジェクトですが、ここまでの手応えはいかがでしょうか?

横澤:今回のプロジェクトパートナーであるSOZOとも話しているのですが、日本からシンガポールへの進出という点では、当初の予定通り、あるいはそれ以上の成果が出ていると感じています。特に、海外進出を希望している日本のクリエイターたち——ボカロP(作曲家)、DJ、絵師(イラストレーター)といった方々の願いを叶える形を作れたことで、彼らの経験値が確実に上がっているのを感じます。実際に現地で熱狂を肌で感じたことで、「次はもっとこうしたい」という意欲が湧き、まだ参加していない若手クリエイターからも「参加したい」という声が挙がるようになってきました。

ーークリエイターのマインドにも変化が現れているのですね。

横澤:ええ。ボカロPに関して言えば、海外イベントでその国のニーズによって選曲を考えるようになったのはもちろん、楽曲の制作段階から「海外でどう響くか」を意識するようになってきています。絵師の方々も、予想を大きく上回る反響を受けて、より海外志向が高まりました。一方で、課題も見えてきました。日本から海外へ(アウトバウンド)の流れは順調ですが、逆にシンガポールや東南アジアのコンテンツを日本へ持ってくる(インバウンド)という点については、まだこれから強化していく必要があると感じています。

ーードワンゴという企業は、今回の「超ニコニコ盆踊り」もそうですが、単にコンテンツを作るだけでなく「仕組み」や「場」を作ることに非常に長けている印象があります。

横澤:そう言っていただけると嬉しいですね。おっしゃる通り、僕らはコンテンツそのものをゼロから作るというよりは、「文化が生まれる土壌」を作っている会社なんです。例えば『ボカコレ(The VOCALOID Collection)』というイベントも、単にランキングを決めるだけでなく、夏と冬に開催することでクリエイターの制作サイクルを作り、そこから生まれた曲が超会議やコミケでで頒布されたり、「歌ってみた」で二次創作されたりという経済圏や文化サイクル全体をデザインしています。仕組みは我々が用意しますが、中身の熱量を作るのはあくまでユーザーやクリエイターの皆さんです。この「仕組み作り」と「コンテンツの熱量」の両輪を回していくのが、ドワンゴの強みだと思っています。

ーー仕組みは作るけれど、中身はユーザーに委ねる。そのバランス感覚が独特な熱量を生んでいるように思います。

横澤:僕はそれを「引き算の文化」と呼んでいるんです。日本にはまだ、良い意味での「引き算」ができる余地が残っています。運営側がすべてをガチガチに管理・規制するのではなく、あえて「余白」を残しておく。例えば『ニコニコ超会議』の「クリエイタークロス」でも、当初はあえて細かいルールを作りませんでした。音出しに関しても、一律に禁止するのではなく「隣のブースと話し合って、迷惑にならないならOK」というスタンスをとったんです。すると、参加者同士で「この時間は僕らが音を出すから、そちらは握手会をしませんか?」といった譲り合いの文化が自然発生的に生まれました。

ーーユーザーの自治に任せることで、当事者意識が生まれるわけですね。

横澤:そうです。自分たちがこの場所を守り、文化を作っているんだという意識です。もちろん、どうしても解決できないトラブルがあれば運営が介入してルール化しますが、基本的には彼らの良心を信頼して任せる。この「信頼ベースのプラットフォーム」という日本的なアプローチ、あるいは「引き算の美学」に基づいたコミュニティ運営のノウハウは、コンテンツだけでなく、システムとして海外に輸出できる大きな可能性を秘めていると思います。

「音楽やエンタメ体験は、もっとインタラクティブなものへ進化していく」

SOZO Pte. Ltd.代表取締役のショーン・チンさんと「Cho-BON Dance Japan powered by Dwango」の様子。

ーー2026年以降、このプロジェクトはどのように展開していくのでしょうか?

横澤:今年度の成果を踏まえて、次はシンガポールだけでなく、バンコクやジャカルタへもパフォーマンスの場を拡大していく計画です。また、SOZOがKADOKAWAグループに参画したことも大きなトピックです。これによって、ACCの枠組みに留まらず、ドワンゴが持つ「デジタルとリアルの融合」や「伝統とテクノロジーの融合」といったノウハウを、東南アジア全域のSOZOのネットワークに乗せて展開できるようになります。具体的には、KADOKAWAの強力なIPイベントの展開や、ドワンゴが抱えるボカロPたちのDJツアーなど、より多角的で大規模な海外展開が可能になると考えています。

ーー最後にこの記事を読んで「海外展開」に興味を持ったクリエイターやビジネスパーソンに向けて、これからの時代に求められるマインドセットとはなにかを教えてください。

横澤:これからの音楽やエンタメ体験は、一方通行で「聴く・見る」だけのものから、もっとインタラクティブなものへ進化していくはずです。今回の盆踊りのように、1対N(多人数)で、観客が参加し、身体を動かし、一体感を作るスタイルには大きなポテンシャルがあります。

 そして、クリエイターの皆さんにお伝えしたいのは、「あれこれ考えすぎずに、まずはトライしてほしい」ということです。事前の情報収集や仮説も大切ですが、実際に現地に行ってみて、肌で感じて、そこからPDCAを回していく方が圧倒的にスピードが速いし、戦略の精度も上がります。「日本で成功してから海外へ」という段階的な考え方ではなく、最初から「海外前提」で戦略を立てる。そういうマインドセットがこれからの時代には求められています。KADOKAWAグループとしても、クリエイターの皆さんの海外挑戦を全力で支援していきますので、ぜひ一緒に新しい景色を見に行きましょう。

■「Asia Creators Cross」について

 日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。

 本イベント『Anime Festival Asia 2025』におけるクリエイターの出演もその一環となっています。

 今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。

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