なぜ今、シンガポールで「盆踊り」なのか? ドワンゴ取締役が語る“日本のエンタメ輸出”の現在地

ドワンゴが語る“日本のエンタメ輸出”

 2025年11月にシンガポールで行われた『Anime Festival Asia Singapore 2025』。海外で行われたジャパンカルチャーのフェスである同イベントで、一風変わった催しが話題になった。それが「Cho-BON Dance Japan powered by Dwango」だ。

 「Cho-BON Dance Japan powered by Dwango」はドワンゴが『ニコニコ超会議』で行っていたイベント「超ニコニコ盆踊り」が元となっているものだが、並行して世界では盆踊りのムーブメントが、そして国内でも盆踊りに対する価値観のアップデートが起こっている。これまでは「音頭」で踊るのが一般的だったが、近年は都心部のイベントを中心にアニメソングやJ-POPで盆踊りを行い、若年層や海外観光客を取り入れていることが話題になっていることがその証左だ。

 今回はこれらの取り組みを主導した株式会社ドワンゴの取締役である横澤大輔氏に取材を行い、『ニコニコ超会議』で「超ニコニコ盆通り」を始めた理由や海外展開の背景、さらに横澤氏が考える「日本文化の輸出」に必要な考え方について、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「盆踊りなら、すべてをまとめ上げられる」 『ニコニコ超会議』の課題を解決した“ウルトラC”

「Cho-BON Dance Japan powered by Dwango」(撮影=三沢光汰)

ーー今回の『Anime Festival Asia Singapore 2025』において、『ニコニコ超会議』のコンテンツである「超ニコニコ盆踊り」が話題になっていました。「超ニコニコ盆踊り」は『ニコニコ超会議』内の催しとして始められたものでしたが、そもそもドワンゴさんはなぜ「盆踊り」をコンテンツ化しようと思ったのでしょうか。

横澤:『ニコニコ超会議』は2012年の初回からこれまで、イベントとしてどんどん成長してきましたが、回を重ねるごとにユーザーにとっての「居場所」が、いつしかジャンル別の「ブース」単位に閉じてしまっているという課題が生まれたんです。特にコロナ禍以降、遊び方や文化が多様化する中で、運営が用意した企画だけでは彼らの居場所を作りきれなくなった。

 そこで我々は「クリエイタークロス」という構想を打ち出し、単なる頒布会ではなく、ワークショップや撮影会など、ユーザー自身が表現でき、コミュニケーションが生まれる場所を作ることにしました。これは初年度から大成功したのですが、同時に新たな課題も生まれました。ブースごとの熱量が高まった分、会場全体の「一体感」が分散してしまったのです。

ーー個々のコミュニティが強くなった分、全体をつなぐ“接着剤”のようなものが必要になったわけですね。

横澤:はい。分散した熱量をもう一度束ねて、会場全体に一体感を作る演出や企画は何だろうかと悩み続けました。ライブで一つにするのか、別の演出なのか……。そんな時、夏の時期にSNSのタイムラインで“アニソン盆踊り”の映像が流れてきたんです。そこで生まれていた大きな「うねり」や熱気を見た瞬間に「これだ!」と直感しました。「盆踊りなら、すべてをまとめ上げられる」と。すぐに社内で「次のメインコンテンツは盆踊りにする」と提案したのですが、最初はみんなポカンとしていましたね(笑)。「なぜ今、盆踊りなんですか?」と総スカンを食らいました。

ーー確かに、最先端のネットカルチャーを扱うドワンゴが「盆踊り」というのは、一見すると意外な組み合わせに思えます。

横澤:僕が提案したのは、単に伝統的な盆踊りをそのまま持ってくることではありませんでした。ニコニコ動画を中心に楽しまれている音楽や文化を、「盆踊り」というフォーマット(型)に落とし込んで一体感をつくるということです。盆踊りというスタイルであれば、みんなで踊ったり、歌ったり、あるいはサプライズゲストが登場してコミュニケーションを取ったりといったことが、説明不要で成立します。つまり、日本の伝統文化を再定義したいというよりは、「一体感を作るための最強の装置(システム)」として盆踊りを採用したのです。お客さんにとっても「盆踊りです」と言われれば、どう遊べばいいか、どう参加すればいいかが明確にわかるので、心理的なハードルや説明コストを一気に下げることができると考えました。

ーーなるほど。昨今では他の大型盆踊り大会のように、J-POPやディスコサウンドで踊るスタイルも定着しつつあります。「盆踊り」という言葉が持つ包容力が、現代のエンタメと非常に相性が良かったと。

横澤:そうなんです。結果として、アニソンやボカロ曲で踊る「超ニコニコ盆踊り」は、ネットカルチャーのノリと伝統的な祭りの高揚感が融合し『ニコニコ超会議』でも大きな成功を収めました。今回のシンガポール展開についても、実は最初から海外への輸出を睨んでいたので「狙い通り」ではあるんです(笑)。海外のアニメイベントやサブカルチャーイベントのステージを見ていると、声優さんやアニソン歌手、アイドルがパフォーマンスをするという形式がもう10年以上変わっていないんですよ。もちろんそれは素晴らしいものですが、主催者側も参加者側も、従来の「コール&レスポンス」だけではない、新しい熱狂の形を求めているのではないかと感じていたので。

ーー海外のイベントシーンにおいても、既存のフォーマットに限界が見え始めていたということでしょうか。

横澤:その通りです。そこで、ただライブを見るだけではない、新しいソリューションが必要だと考えました。今回の「超ニコニコ盆踊り」では、360度ステージのやぐらを組み、その周りを観客が360度囲むというスタイルを持ち込みました。アーティストやDJが中心にいて、観客と同じ目線の高さでインタラクティブに楽しむ。この「円」の構造が生み出す一体感は、きっと海外でも受け入れられるはずだという確信があったんです。僕の中では「日本の伝統文化・盆踊りを輸出した」というよりも、「新しいライブエンターテインメントのフォーマットを提案した」という感覚のほうが強いですね。

「日本独自の『仕組み』を輸出し、中身は現地のニーズに合わせる」

「Cho-BON Dance Japan powered by Dwango」(撮影=三沢光汰)

ーー実際にシンガポールの現地で、その“新しいフォーマット”はどのように受け入れられましたか?

横澤:今回はある種のパイロット版として捉えていて、正直どう転ぶか分からない部分もありました。理想としては、日本で生まれたあの熱狂をそのまま再現できればと思っていましたが、やはり文化の違い、いわゆる「DNA」の違いを痛感する場面もありましたね。日本人には「音頭が流れて、円を描いて回る」という感覚が染み付いていますが、シンガポールの人たちに「回ってください」と伝えると、踊るのではなく、みんなで走り出して競争(レース)が始まってしまったりして(笑)。「音楽に合わせてゆっくり回る」という身体感覚を伝えるのはなかなか難しかったです。

ーーそれは予想外の反応ですね(笑)。文化的なコンテキストの共有がないと、円運動が「競争」と解釈されてしまうとは。

横澤:あとは「パーソナルスペース」の感覚の違いもありました。日本では前の人の肩に手を置いて一列になる「トレイン」のような動きで一体感を作ることがありますが、現地では他人に触れることへの抵抗感が日本よりも強いように感じたんです。ただ、そうした課題はありつつも、360度ステージが生み出す演者と観客の距離の近さ、そして音楽を通じた新しい一体感の創出という点では、ものすごく手応えを感じました。従来のステージショーでは、観客はずっと立ち止まって見ているだけですが、盆踊りのフォーマットなら、体を動かし、声を出し、参加することができる。この「参加型ライブ」としてのポテンシャルは、海外でも十分に通用すると確信しました。

ーー海外から見た日本カルチャーの消費のされ方も、かつての「クールジャパン」とは変わってきているように感じます。今回の経験を通じて、横澤さんは今の「日本カルチャーの愛され方」をどう分析されていますか?

横澤:かつてのクールジャパン的なアプローチは、日本の伝統文化をそのままパッケージして持っていく「コンテンツの輸出」が主流でした。しかしこれからは、日本が持っている独自の「仕組み」や「構造」を輸出し、中身は現地のニーズに合わせていくというスタイルが重要になってくると考えています。今回の盆踊りも、伝統的な「炭坑節」や「東京音頭」を踊らせようとしたわけではありません。盆踊りという「システム」を持ち込み、そこで流すコンテンツは現地で人気のあるアニソンやJ-POP、DJカルチャーにする。我々が手がけている「超歌舞伎」も同じ構造です。歌舞伎という伝統的な様式美の中に、初音ミクというデジタルアイコンや現代のテクノロジーを組み込むことで、全く新しいエンタメに昇華させています。

ーーコンテンツ」そのものではなく、フォーマットを輸出し、ローカライズしていくということですね。

横澤:そうです。結果としてそれが「日本文化」として認識され、楽しまれる。伝統の型を守りつつ、中身を変幻自在に入れ替えていくことで、現地のマーケットにフィットさせていく。これからの日本のエンタメ輸出においては、そのような戦略的なアップデートが求められているのだと思います。今回のシンガポールでの挑戦は、まさにその第一歩として、日本の「お祭り」というシステムが、世界共通の熱狂を生み出すプラットフォームになり得ることを証明できたのではないかと考えています。

(後編へ続く)

■「Asia Creators Cross」について

 日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。

 本イベント『Anime Festival Asia 2025』におけるクリエイターの出演もその一環となっています。

 今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。

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