キタニタツヤ×ツミキ×三島想平(cinema staff)が語る“ボカロ×残響系”の交差点 「オルタナティブであること」が繋ぐ歴史と文脈

キタニ×ツミキ×三島「ボカロ×残響」鼎談

オルタナティブは“魂の名前”

三島想平(cinema staff)

ーー本当に脈々と歴史が繋がっていることを感じます。三島さんは、パラレルな活動のバランスについてはいかがですか?

三島:cinema staffの活動のために他の活動もやる、というのが前提です。とはいえコロナ禍を経てバンドだけでは生活ができない環境になってしまったので、バンドの活動以外でも好きな「作曲」「制作」を仕事にできているのは最高だなと思っています。仕事における作曲に関しては、自分のエゴを出したいというのはあまりなくて。「求められていることをやる」「そのリクエストに応えられる自分の技術・スキルを磨いていく」ということが自分にとって重要かもしれません。この感覚は、若い頃に目指していたレコーディングエンジニア的な側面もあるのかも。

ーーとなると、お仕事として「残響系の曲が欲しい」「cinema staffっぽい曲が欲しい」と言われたときはどうしているのでしょう?

三島:「俺のままでいいんだ、ラッキー!」と思って書きますし、すごく嬉しいですね。リファレンスが俺自身で、俺に仕事を振ってきてくれてるということだと思うので、改めて「じゃあこういうのどうですか?」と逆に提案できますから。

FLUID BLUE

ーーリクエストされたりすると、改めて残響系やcinema staffっぽい音楽というものを解体・分析することになると思うのですが、その工程を経て「改めてこういう音楽だったな」という気づきはありましたか?

三島:残響はまず、カルチャーとしてはもう完全にカウンターなので。15年前ぐらいはメインストリームに対する、本当の意味での“オルタナティブ”をやろうとしてたレーベルではあったと思うんです。それを「残響」という言葉でパッケージングしてブランディングしたことによって、全部に価値がありますよ、という風に見せたのが当時のやり方だったように思います。

 そこにいたバンドたちやレーベルのなかには総じて「何かが新しくないといけない」という空気がありましたし、その究極がthe cabsだったと思うんです。ギターはアルペジオと変則チューニングだらけで、ドラムはバカスカ叩いてるのにメロディは綺麗に落とし込む、みたいな。新しい質感を求めていくのが「残響系」の形だったと思います。あとは、どこまでストレートでなくポップスにするか、というところもあったと思います。

キタニ:「オルタナティブであろう」という思いでやってたっていうのは、なんかすごく嬉しいですね。「オルタナティブロック」ってジャンルの名前として使いますけど、MOROHAがヒップホップに対してそう言ってたようにそもそもは“魂の名前”じゃないですか。どういう音楽性であれ、何かに対してオルタナティブである、という意味だと思っているから、自分のコンピのレーベル名も「エモくてオルタナティブでかっこいい」にしたんです。ここでいう「エモ」は音楽ジャンルだけど「オルタナティブ」は“魂の名前”で。当時のcinema staffがそういう気持ちでやってたと知れたのは、答え合わせができたみたいでめちゃくちゃ嬉しいです。

MOROHA「革命」MV(監督:行定勲 MOROHA BEST~十年再録~より)

三島:そう言ってもらえると報われますね。当時はいかにレーベルの先人たちより新しくてかっこいいものを作れるかって國光くんと話していた記憶があって、そこに対して戦いを挑んでたというか。それを追い求めるが故にセールスと離れていく期間があって、周りの大人やメンバーに引き戻されたりすることもあって。その葛藤をし続けているような状態でした。

キタニ:ただ新しいだけの音楽では誰かの思い出にはならないし、セールスとどちらも取ろうとしていたから、みんな歌える歌になっていると思うんですよ。そこのバランスを取れていたのは尊敬します。

三島:だからこそ「中途半端」って言われることもあったんですよ。メインストリームを目指す人たちからは「売れないことをやってる」と言われたし、ハードコアなパンクバンドの仲間からは「お前らポップなんだよ」と言われて。その狭間で悩んでました。

キタニ:そういうジャンルが景気良かった時代があるということ自体には希望が持てるんですよね。どんなジャンルであれ「オルタナティブであろう」という魂と「ポップスであろう」という気持ちをどっちもやっていれば、景気は良くなるし自分たちのような世代が出て来れるんだなと。

ツミキ:キタニさんは「青のすみか」でテレビに出まくってたじゃないですか。毎回あのアルペジオを演奏して、最終的に『紅白歌合戦』でも鳴らしてたのが、まさにその“魂”を感じて最高だったんですよね。

キタニ:まさかNHKホールでおじいちゃんとおばあちゃんにあのキモいアルペジオを聴かせるとは思ってなかったよね(笑)。

ツミキ:そういうのが次のフォロワーを生んでるし、自分もそうなりたいなと思うんです。

キタニ:キモいとポップスをどっちも取ろう!(笑)

青のすみか / キタニタツヤ - Where Our Blue Is / Tatsuya Kitani

ーー2025年現在だと、そうした文脈を繋いでいく取り組みのひとつに『The VOCALOID Collection』があると思います。キタニさんは初期からチェックされていたように思いますが、現在はこのイベントをどのように見ていますか?

キタニ:最初は公式がこういうことをやるのはすごく良いなと思って、めちゃくちゃ楽曲をチェックしたりしていました。ただ、最近はランキングによってクリエイターが疲弊する様子も見てしまっているので、少し複雑な思いではあります。世に知られていない才能が目立てる機会ではあるし、「こういう曲調が流行る!」みたいなものもなくて健全なシーンだし、世界中どこを見ても新しい音楽がこれほど生まれてくる場所はないだろうとも思うので、あとは誰も傷つかないで欲しいし、加熱しすぎずにあくまでひとつの入口として機能して欲しいです。

ーーそのあたりは10回目の『The VOCALOID Collection ~2025 Summer~』でエキシビション(再生数やマイリスト数などを競わず、自由に作品投稿や視聴を楽しんでもらうことを目的としたランキング非対象の新部門)が新設されたので、順位などを気にせず純粋に投稿を楽しめるクリエイターも増えていくのではないですかね。ツミキさんはいかがでしょう?

ツミキ:キタニくんとほぼ同じなんですけど、ランキングは良くも悪くも可視化されすぎててグロいなと思うことはありますね。自分自身はボカコレこそなかったものの、初投稿がニコニコ動画のランキングに入って評価されたことが今に繋がっているという経緯もあるので、理解できる部分もあります。ただ、そのランキングに入るのをひとつのモチベーションにするのは良いんですけど、過度に「ランキングが低かったから音楽やめた方がいいのかな」とは思ってほしくない。あくまでポジティブな動機にしてほしいですね。

ーーのめり込みすぎないように楽しむのが確かに大事ですね。最後に、キタニさんとツミキさんから三島さんに最近のボカロPを紹介してほしいなと思っていて。ボカコレで見つけた方でもいいですし、最近注目している若手のボカロPで今回のテーマにも沿った方がいれば、ぜひおすすめしてみてください。

キタニ:僕が出した『Eingebrannt』はマジで全曲聴いてほしいくらいオススメなんですが、せっかくなので記事の向こう側にいるボカロオタクに賞賛されたいな……(笑)。最近聴いているなかで残響の匂いを感じたのはうずらさんとfuyumeさんですね。あまりバンドバンドはしてないし、エレクトロニカっぽいアプローチだったりもするんですけど、時折見せるアルペジオが「聴き覚えがあるぞ……」と思うので。そして曲がめちゃくちゃ良いです。

迷子をさがして、頬をつねって / ナースロボ_タイプT -
風邪薬 / fuyume(feat.初音ミク) -

ツミキ:僕は『Eingebrannt』にも参加しているyouまんさんをオススメしたいです。コンピに入ると聞いて嬉しかったですし「わかってる!」と思いましたから。

キタニ:ありがとう! たしかに『Eingebrannt』のなかで一番三島さんにオススメしたいのはyouまんさんかも。cinema staffのファンの方にも聴いてほしいですね。逆に、三島さんが注目しているバンドはいますか?

レスティンピース

三島:ひとひらはカッコいいですね。今度ツアーファイナルに出させてもらうんですけど、残響的な遺伝子も感じつつ、作風的にはもう一段階チャレンジングになっていくんじゃないかな、という気配を感じます。まだ21~22歳ですからね。あとは雪国かな。

ひとひら-ひのめ (Official Video)
雪国 2nd full album “shion” Teaser Movie

キタニ:確かに20代前半の良いバンドは増えてきてますね……。そういう系のバンドシーンとボカロシーンの交差点になるようなクリエイターも最近は増えていて、例えばBlume popoのギターの今西くんは「イマニシ」名義でボカロPをやっているし、バンド自体もマスロック的なアプローチで面白くて。あと、sidenerdsのドラムの方が「鬱桑型」という名前でボカロPをやっていて、バンドもボカロ名義の曲も好きです。

イマニシ「千年地獄」feat.鏡音リン -
サマーゴースト / 初音ミク、ナースロボ_タイプT -

三島:すげえ、全部聴きます!

■リリース・ライブ情報
〈キタニタツヤ〉
こんにちは谷田さん主催サークル「エモくてオルタナでカッコいい」よりリリースされたボカロコンピアルバム『Eingebrannt

配信中
・トラックリスト
01. 萌ゆる / 落合一十
02. レスティンピース / youまん
03. 禁足地で / しいか
04. 回帰より人間でかわいくて破滅的ないのちだっっっ / ǢǪ
05. 水無月を見ていた / みちる
06. underneath the sun / ippo.tsk
07. 空言のエレジー / 世界電力
08. はなればなれに焼きつく炎昼 / こんにちは谷田さん
09. ぼく側に堕ちた天使 / 二錠
10. うみか / のあ
ARTWORK:DMYM/No.734

『キタニタツヤ One Man Hall Tour 2025 "CREPUSCULAR"』
2025年9月27日(土)千葉 松戸・森のホール21
2025年10月3日(金)岡山 倉敷市民会館
2025年10月5日(日)奈良 なら100年会館
2025年10月10日(金)兵庫 神戸国際会館こくさいホール
2025年10月12日(日)香川 高松・レクザムホール
2025年10月24日(金)愛知 名古屋・Niterra日本特殊陶業市民会館
2025年11月2日(日)新潟 新潟テルサ
2025年11月3日(月・祝)宮城 仙台サンプラザホール
2025年11月9日(日)北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
2025年11月13日(木)大阪 フェスティバルホール
2025年11月21日(金)静岡 アクトシティ浜松
2025年11月24日(月・祝)広島 上野学園ホール
2025年11月29日(土)福岡 福岡市民ホール
2025年11月30日(日)熊本 熊本県立劇場 演劇ホール
2025年12月6日(土)石川 金沢・本多の森 北電ホール
2025年12月13日(土)東京 東京ガーデンシアター
2025年12月14日(日)東京 東京ガーデンシアター

指定席:¥8,000(税込)
詳細はキタニタツヤ オフィシャルホームページをチェック

〈ツミキ〉
・Aooo「CRAZZZY」作詞・作曲ツミキ 配信中
・Aooo Special Live 2025 "Bazoooka" 2025年12月6日(土)東京ガーデンシアター 開催
・NOMELON NOLEMON「ミッドナイト・リフレクション」Official Music Video公開中

NOMELON NOLEMON / ミッドナイト・リフレクション Official Music Video

〈三島想平(cinema staff)〉
『夜の本気ダンス presents O-BAN-DOSS』
2025年11月6日(木)渋谷CLUB QUATTRO

『THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」~REARRANGE THE BACK HORN~』
11月15日(土) 名古屋THE BOTTOM LINE

『cinema staff presents OOPARTS 2026』
2026年4月11日(土)岐阜県 岐阜市文化センター
2026年4月12日(日)岐阜県 岐阜市文化センター

出演者:cinema staff / ART-SCHOOL / Nothing's Carved In Stone / a flood of circle / 9mm Parabellum Bullet / ストレイテナー / and more

あばらや×雨良 Amala対談 現代ボカロPたちが、悩みながらも曲を作り続ける理由

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