なみぐる×南ノ南が語り合う「ボーカロイドと海外シーン」 北京での公演を終えたふたりが思う“これからの戦い方”とは

中国の音楽レーベルが主催し、2009年の初開催以来160回以上の開催と800万人以上の動員を誇る、中国最大級の音楽フェス『Strawberry Music Festival』。
5月初旬にも中国・東莞&北京にて本フェスが開催され、日本からは倖田來未や新しい学校のリーダーズ、のん、Corneliusといった多彩なアーティストが出演。加えて今回のトピックのひとつともなったのが、VOCALOIDシーンで活躍するクリエイターたちによる「The VOCALOID Collection TIME」のステージだ。
シーンの一大祭典であるイベント『The VOCALOID Collection(以下ボカコレ)』より、今回カルチャーを代表するボカロPとして北京の舞台に立ったのは南ノ南、なみぐる、夏山よつぎのボカロP3名と音楽プロデューサー/DJアーティストTeddyLoidの計4名。同フェス史上初となったボカロステージでは、それぞれのDJプレイによって会場も大いに盛り上がり、中国現地でのボカロ文化に対する高い熱量が明確に可視化された形ともなった。
近年、ボカロシーンを巡ってはアジア圏におけるボカロイベントが多数開催されるなど、国際的な盛り上がりを見せている。そのなかでドワンゴは、シンガポールを拠点とするSOZO社と国際的なクリエイター連携プログラム「Asia Creators Cross」を始動するなど、国内のみならず、海外・アジア圏への「ボカロ文化拡大」へと歩みを始めている。
そこで今回は、上記フェスへ出演した南ノ南&なみぐるの2人に、ボカロカルチャーの本格的な海外進出に関する対談を行ってもらった。中国から帰国直後の実施ともなった本インタビュー。長旅の疲労も蓄積したなかだったが、現地の感想や中華圏でのボカロ文化の興隆の様子、そして日本のシーンの現状や、その中枢にあるイベント・ボカコレについての見解など。様々な話題が2人の間で飛び交う、非常に意義深い対談となった。
「リスナーだけでなくイベント運営の雰囲気の違いも興味深かった」(なみぐる)
──タイトなスケジュール、本当にお疲れ様でした。まだまだ中国の余韻も冷めやらぬなかですが、ずばりイベントに出演してみて、いかがでしたか?
南ノ南:まずシンプルに、すごく楽しかったですね。中国との関わりでいうと、2年前ぐらいからでしょうか。僕の楽曲が『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』に収録された頃から、即売会で「CD、全部1枚ずつください」みたいに言ってくださる中国の方をよく見かけるようになって。なので、そういった方々(海外のファン)がいることも、うっすら体感はあったんです。今回のDJにはそうした熱心なリスナーさんたちが大勢来てくださって、中国ファンの熱量を本場で感じられたことがとても嬉しかったです。
なみぐる:僕もすごく楽しかったですね。加えて言うなら、今回出演させて頂いた『Strawberry Music Festival』は、イベント自体の体制がかなりしっかりしていた印象です。
日本のイベントだとタイムテーブルが押したり、終演時刻がかなり後ろ倒しになることもよくあるんですけど、今回は全然そんなこともなくて。そこに結構ギャップを感じたりもしました。アーティストへの気遣いとか、音出しの確認作業もとても丁寧でしたし、ステージ周辺には警備の方が大勢いたり。あと、パフォーマンス中に残り時間が少なくなると演者向けのタイマーに「あと〇分」ってデカデカとカウントダウンが表示されるんですよ(笑)。そういった点の緊張感というか、日本のイベントとは違うプレッシャーも感じつつ、終始楽しくやらせて頂きました。
──オーディエンスのみならず、イベント運営面での雰囲気の違いという点はかなり興味深いですね。
南ノ南:イベントの盛り上がりでいうと、ボカロのみならず日中のいろんなアーティストさんが出ていたので、温度感を一概に言う事はできないんですけど。それでもボカロに関して言えば、日本と遜色ないぐらい熱心な聴き方をしている方が大勢いるんだな、という印象でした。
なみぐる:あとはとにかく、初音ミク人気がすごかったですね。南ノ南さんの「可不ちゃんのカレーうどん狂騒曲」や「星界ちゃんと可不ちゃんのおつかい合騒曲」にも勝るぐらい、とにかく南ノ南さんのミク曲「ミクちゃんのネギネギネギネギ幻騒曲」がすごく人気で。
会場に入る前に見学した現地のショッピングモールでも初音ミクのグッズがいっぱい取り扱われていて、ボカロがちゃんと“文化”として浸透してる事をその光景からも感じました。
実は今回、事前にbilibili動画を見てテトさんやずんだもんの人気を感じ取っていたので、セトリにミクさんの曲を一切入れてなくて。入れとけばよかったな~と現地でちょっと後悔しましたね(笑)。
──その辺はまさに、現地に行かないとわからない肌感ですね。ちなみにお二人はイベント前、中国での温度感をどのように予想していましたか?
南ノ南:僕、今年2月に台湾での即売会にお呼び頂いたんですけど、その前日に現地でDJイベント的な催しがあって。そこに近い雰囲気なのかな、と勝手にイメージしてたんです。その時は皆さんアンセム曲のリミックス等を流していたので、やっぱり大勢で盛り上がれる曲がいいのかな、と。なので事前にbilibili動画の再生数もチェックしつつ、比較的合いの手が多めの楽曲をチョイスしました。日本語でノってくれるかな、という不安もあったんですけど、言語の壁も全然感じることなく皆さん盛り上がってくれましたね。『マジカルミライ』みたいにペンライトを振ってくれる人もいて、ボカロDJの楽しみ方を含めて、文化がちゃんと定着しているんだな、と。
なみぐる:僕も先月、韓国のイベントにDJで出演させていただきまして。イベントの規模感こそ今回より全然小さく、いうなればサブカル寄りのものでしたが、日本人より日本の音楽を知っているような方々ばかりでやりやすかった分、今回の中国はどうなるかな、とも思っていたんです。
一応、情報源として昨年原口沙輔さんとフロクロさんが行っていた上海公演(『textur3 meets 原口沙輔』)のお話を聞いたりして、「読谷あかねさんの『散り散り』がすごい盛り上がった」みたいな現地のアンセム情報も頂きつつ(笑)、今回のイベントに臨んだ形でした。bilibili動画でパロディが多い曲を中心に持っていったり、僕の曲だと簡単な振付の曲も結構多いので、その辺はノンバーバルで伝わった感触もあったかな。チャイナ感のある「電脳眠眠猫」は現地ですごく人気なので、客席に振付を煽ったらやってくれたりして。やっぱり振付のある曲は、なおさら盛り上がりが目に見えてよかったですね。
──お二人共、言語の壁を越えたリスナーの熱気を感じられたんですね。ちなみに今回、他のアーティストさんのステージも見たりされたんですか?
南ノ南:時間が結構カツカツだったので、僕はなかなか他の方をあまり見られておらず……。遠目に別のステージの盛り上がりを感じたり、現地のアーティストさんのかっこいいサウンドに耳を傾けてた形ですね。
なみぐる:僕は空き時間で、龚琳娜(ゴン・リンナ)さんのステージを少しだけ拝見しました。日本でいう和楽器バンドみたいな、中国の古楽器や古い言葉を使ってフュージョンやレゲトンのようなカッコイイ曲をやってる方なんですけど、こういうのはやっぱり現地じゃないと聴けないな、と思って。ボカロ曲を作る時の心情として、なるべく今までシーンになかったジャンルを持ってきたい気持ちもあるので、そういう面では向こうの音楽・エンタメを感じられてすごく刺激になりました。
南ノ南:その方、すごく気になりますね…。あとでぜひ詳しく教えて下さい(笑)。