キタニタツヤ×ツミキ×三島想平(cinema staff)が語る“ボカロ×残響系”の交差点 「オルタナティブであること」が繋ぐ歴史と文脈

キタニが「ジジイになっても語りたい」アルペジオとは

ーーお三方の共通点として、「パラレルな活動」も挙げられるかと思います。キタニさんは先日「こんにちは谷田さん」名義で主催ボカロコンピアルバム『Eingebrannt』をリリースし、ツミキさんは個人名義やAooo、NOMELON NOLEMONとしても活躍し、三島さんもバンドとプロデュース業を手掛けています。それぞれのアウトプットの分け方についても教えてください。
キタニ:コンピレーションアルバムを作った理由は冒頭で話しましたが、それをボカロP名義で動かしたのは、マネージャーから「コンピを作るんだったらお前も曲を出さなきゃおかしくないか」と言われたという副次的なものですね。ボカロP名義の時の僕は「誰も俺の曲を聴いてない」と本当に悩んでいたし、歌うようになってから聴いてくれる人が増えて嬉しくなったので、ボカロはもうやらないかもなと思っていたんです。
ただ、自分の名前が人前に出る機会が増えることでそのボカロP名義が一人歩きしていったんですよ。the cabsが解散している間に伝説になる、という現象の超ショボい版が僕のボカロP名義でも起きていて。「キタニってボカロPもやってたらしいぞ。こういう曲はあって、でも新曲はなくて……」と言われながら、少しずつ知ってくれる人が増えた。
だから改めてその名義を動かしたのは、アウトプットを増やしたわけではなく「私はこういうところから来ました」という歴史をなくしたくなかったからです。継続的にやっていくかはわからないけど、名前を墓標に刻みたい、みたいな。
三島:シベリアのね。
ツミキ:シベリアの墓標(笑)。
キタニ:キャブ語だ(笑)。
ーー「二月の兵隊」ですね(笑)。ツミキさんはどうでしょう?
ツミキ:僕が音楽を作る上で一番大事にしているのは「文化を温存したい」ということなんです。キタニくんがコンピを作った理由にも似ているんですけど、自分が影響を受けた文化をできるだけアウトプットしたくて。それは残響系の音楽も、ポップカルチャーや他のジャンルから吸収したものもあって。
それをできる限り発散するとなると、やっぱりひとつのアウトプットの形式だけでは辻褄が合わない瞬間があるんですよ。だからバンドをやったりユニットをやったり、楽曲提供を行ったりと、多様な形で活動することにしているんです。
ーーいろんなところで得た力を、また元のところに返していく、という感覚なんですかね。
ツミキ:そうなんです。「このアーティストは誰から影響を受けてこの音楽を作ったんだろう?」ということを逆算したりするのがすごく好きなので。自分が今この立場になって、僕の音楽から何かを得て音楽を作っている人がいるということも本当に嬉しいんです。特にキタニくんや三島さんの曲を聴いて音楽をやってきたから、こういう文脈をもっと残していかないとなという使命感もあります。
キタニ:遡ってツミキに辿り着くボカロPはめちゃくちゃいるし、これからも増えていくはず。それくらい濃い音楽性ですよね。
ーーツミキさんの曲は、どのアウトプットの形でも記名性が高い曲が多いという印象があります。
ツミキ:元からそういう音楽が好きなんですよね。それこそcinema staffを初めて知ったのは小学生のころで。スペシャ(スペースシャワーTV)で当時の[Champagne](現:[Alexandros])とcinema staffが「New Comer」として横並びで流れていたんですが、その時に聴いた「GATE」が本当に衝撃的で。「Aメロに入る前にアルペジオが鳴ってる! 5拍子だ! どうやって弾いてんの!?」みたいな。その記名性の高さ、この音楽は多分この人たちしか鳴らせない、というのがたまらなくて、それを血肉にしてきたから、自分も遺伝子の濃いものしか作れないのかもしれません。
ーー「GATE」の名前が2025年に出るとは思わなかったので感慨深いです。
キタニ:「GATE」の話はずっとしてますよ! ジジイになっても「あのアルペジオは~」って言ってる自信がある(笑)。
三島:嬉しいなあ。あの曲のMVの衣装はどうにかならなかったのかなといまだに思うけど。全身ユニクロだよ?
キタニ:エモバンドはTシャツとズボンでいいんです、そういうもんなんですよ(笑)。
ツミキ:MVといえば……「白い砂漠のマーチ」のMVって(the cabsのギター、高橋)國光さんが作ったバージョンもありましたよね?
三島:あった! 別の人が作ったものと國光が作ったものを競わせてどっちかだけ採用、みたいなね。なんで知ってるの?
ツミキ:『モンスターロック』で観てました。
三島:うわー、懐かしい! 國光が作ったほうが選ばれたんだよね。















