ワーナーミュージック・ジャパン 岡田武士CEO×新R25 渡辺将基編集長 対談 デジタル/SNS時代のリーダーに求められる役割とは

加熱する“アテンションの奪い合い”とどう向き合っていくべきか?

――音楽業界も今は過渡期だと思います。渡辺さんは現在の音楽シーンをどう見ていますか?
渡辺:まったく分野が違うので何とも言えませんが、ユーザー目線でいうと、僕らが10代、20代だった頃に比べると、曲のテンポがかなり速いじゃないですか。いろいろなエンタメがあって、ユーザーの時間の奪い合い、アテンションの奪い合いが過熱した結果、そうなっているのかなと。刺激が強いコンテンツが求められるのはメディアも同じで、たとえば出演者同士が口論になったり、誰かが怒っている動画は再生数が伸びやすいんですよ。ただ、僕としてはそういう時代の流れや競争から離脱したい気持ちもあって。そういうコンテンツは刹那的で、長く残らないと思うんですよね。
岡田:確かに。
渡辺:音楽にもおそらく、「こうすればヒットする」という形がある程度あると思うんです。でも、そういうやり方を続けていると「ずっと残る曲がないよね」ということになるんじゃないかなと。だからと言って、「自分たちはこれでいいんだ」とトレンドやマーケットを無視するのも違うし、そのバランスの取り方が必要なんだと思います。
岡田:それはまさしく、我々が抱えているジレンマですね。リーチを稼ぐ曲が求められる一方で、オーセンティックな楽曲やアーティストが認知されにくくなっていて。どちらがいいか、という話ではなくて、今の時流には乗りづらくて、埋もれてしまう楽曲があるのは確かです。
渡辺:『新R25』の場合は、刺激的なものより、共感を入り口にしたいと思っていて。ドーパミンよりもセロトニン系と言いますか(笑)。
――刺激よりも心地よさ。
岡田:いい表現ですね。ちょっとノスタルジックな発想かもしれないですけど、「ドーパミン競争が落ち着いて、もっと穏やかだった頃に戻る」ということはあり得ると思いますか? 個人的にはそれを期待しているところもありますが、世の中の流れ的には戻らない気もするし。
渡辺:戻らずに今の流れが加速し続けるとしたら、ちょっと怖いですよね。
岡田:怖いですけど、この先どうなっていくのか推測するのは必要ですよね。
渡辺:そうですね。ただ『新R25』のようなビジネスメディアは、TikTokなどのショート動画だけでブランドをつくるのは難しくて。そこを上手く入り口にしながら、長尺の動画への導線を作りたいんですよね。トレンドをうまく活用しながら、そうやって自分たちが伝えたいものに誘導できれば、いちばんいいのかなと。

岡田:我々としては、アーティストには長く活動してほしいという思いがあるので、一時的に消費されるのではなく、アーティスト自身の価値を高め、持続させたいんですよね。一方で楽曲はバズらせないと何も始まらないという。
渡辺:そういえば最近、「香水」の瑛人さんの近況をYouTubeで見たんですけど、今は海の家を運営しながら音楽活動を続けているらしくて。「こういう距離の取り方はいいな」と思いましたね。今って、一気にバズって有名になるチャンスが誰にでもあるじゃないですか。でも、実際にそうなるとバランスを崩して、なかなか正気ではいられないと思うんですよ。
岡田:『新R25』でも箕輪厚介さん、成田修造さんがそういう話をしてましたね。
渡辺:そうですね。すごくチャンスがある時代なんだけど、同時並行で自分の内面を成長させていかないと一時的な波に飲み込まれたり、バズることに依存してしまうので。
岡田:音楽業界でも同じことが言えると思います。とても大きなテーマですね。
渡辺:最近思うのが、チーム一丸となって目標を追いかけているときに、「ここまでにしよう」「これはやめよう」という判断はトップにしかできないと思うんです。スタッフ全員に繊細な美学を持って動くことを求めるのは難しいから、それを体現したルールや禁止事項を決めるのはリーダーの役割なのかなと。
今後“自律的”な人がより求められていく

――最後に若い読者に向けて、「こういう人と仕事がしたい」というイメージを教えていただけますか?
渡辺:僕らの業界に限らずだと思いますが、自律的な人と一緒に働きたいですね。今は時代の流れが速いから、そこに身を任せることもできるじゃないですか。そのぶん、自分で考えて、自分で歩き始める人が相対的に減っている可能性があって。だからこそ、それができる人には仕事を任せたくなりますね。
岡田:そうですね。あと、これは個人的な感覚なんですが、以前と比べて“山っ気”がある若者が少なくなっている気がして。
渡辺:わかります。
岡田:今の若い人たちはすごく優秀でスペックが高いんですよ。言われたことは的確にやってくれるんだけど、一か八かという勝負をあまりしない。時代背景などを考えると、それは仕方ないのかなと思いつつ、「このアーティストに賭けたい」という強烈な思いや山っ気も大事だと思いますし、そこが面白いところなんですけどね。
渡辺:リスクを取る経験が少なくなってるんでしょうね。今は何でもChatGPTが答えを出してくれますし。
岡田:成功の確率までAIが予測してきますからね(笑)。そこを超えてきてほしいなと。
渡辺:そうですね。ChatGPTは便利ですけど、結局実行に移すのはその人自身だし、そのときは心の強さが必要なので。
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