生成AIと調理家電を組み合わせたら、至極のシャウエッセンが完成した話

大西哲也、生成AIと調理家電で料理

 登録者数約48万人の「COCOCOROチャンネル」を運営する料理系YouTuberで、クッキングエンターテイナーの大西哲也氏と一緒に調理家電を美味しく遊び倒す連載の第2回のテーマは、「生成AIは調理家電の性能をフルに引き出せるか」。

 オート化が進んでいる調理家電だが、その一方で多機能化も進んでおり、ユーザーから見ると、より美味しく調理するにはどのモードを選べばよいのかが分かりづらくなっている。それをAIが補い、適切な調理方法を指示してくれたら最高ではないか、と考えてスタートしたのが今回の企画だ。

 今回使用する調理家電は、ウィナーズが今年発売した『レコルト ハイスチームエアーオーブン(RAO-3)』(直販価格 2万9700円)。バスケット型のコンベクションオーブン(ファンにより庫内に熱風を循環させる方式)は数あれど、同機はスチームを搭載して調理の幅を広げるユニークな1台だ。

大西氏と『ハイスチームエアーオーブン(RAO-3)』

 「55℃から200℃までの広い温度帯でスチームを使った調理ができるのがすごい。ただ、このスチームの有り無しを理解して使い分けるのって難しい。結果、付属のレシピブックに頼ってしまうのですが、スチームの特性を本質的に理解していると、もっと調理の幅が広がります。しかしそれには、この食材が何度で何分加熱すればどういう状態になるといった料理の知識と経験が必要になってきます。これは一朝一夕にはいかない大変なことですが、それを最新の生成AIが助けてくれるのです。レコルトハイスチームオーブンは、AIと一緒に活用してこそ本来の力を発揮する家電だと思います」と大西さんは力説する。

AIのレシピでシャウエッセンを焼けるのか?

 AIでハイスチームオーブンのポテンシャルを引き出すために選んだ食材は、みんな大好きシャウエッセン。

「高温のスチームは表面をパリッと仕上げられるのですが、低温のスチームは熱伝導率が高いので食材の中までじっくり火を通すのに適しています。対して、通常のコンベクションオーブンは食材の表面を乾燥させて焼き目をつけながらパリッと仕上げられる。つまり、皮付きウインナーはスチームとオーブンの組み合わせ調理に最適な食材なのです」(大西氏)

 というわけで、ChatGPTにハイスチームエアーオーブンの概要を調べさせた後、『レコルト ハイスチームエアーオーブン(RAO-3)』の情報を読み込ませ、そして“理想の焼き加減はこれだ!”という画像をアップロード。

 そして、「シャウエッセンを美味しく焼きたい。具体的には、中心は脂がしっかり溶けている温度で、表面はパリッと水分が飛んで焼き色が少しついている状態に。焼き加減は添付画像を参照」と打ち込んだ。すると、ChatGPTは以下のような回答を叩き出した。

ChatGPTに指示とともに理想の焼き上がりの写真をアップロード

ChatGPTからは

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シャウエッセンを「中はジューシー、外はパリッと焼き色あり」に仕上げる方法を、科学的根拠と画像の焼き色に基づいて設計します。

・中心温度:65~68℃(脂がしっかり溶けてジューシー)
・表面:水分が飛んで薄い焼き色がつき、パリッとした皮の食感。
・加熱方式:最初にスチームで中まで火を通し、後半はドライ熱風で表面をパリッと。

>推奨レシピ(RAO-3用)
材料:シャウエッセン 適量
予熱:なし(この機種は短時間調理なので不要)

>ステップ1:スチーム加熱で芯まで火入れ
モード:Hi Steam モード
温度:100℃
時間:5~6分
目的:中心温度を65℃以上に。皮を破らず、ふっくら仕上げる。

>ステップ2:熱風で表面を乾かし焼き色をつける
モード:Air Oven モード
温度:200℃
時間:4~6分(様子を見ながら)
目的:水分を飛ばして皮をパリッと。軽く焼き色をつける。

>補足ポイント:
・シャウエッセンは破裂しやすいので、スチーム後に余熱なしの熱風へ切り替えることで破裂リスクを回避。
・焼き色が弱ければ、最後に「Comboモード」で1分追い焼きしてもOK。
・網や穴あきトレイにのせ、下面にも熱が入るようにするとよりパリッと。

>最終的な状態:
画像のように軽い焦げ目と透明な脂の浮き出し、皮が裂けずに弾ける寸前の理想状態。ご希望があれば「複数本を一気に均一に焼く方法」や「ハーブソーセージなどへの応用」もご提案できます。
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 ここまで細かく提案されるとは! AIの優秀さに驚きを隠せない。ただ、1つ条件をつけ忘れていたので、さらに命令を加えた。「シャウエッセンの初期温度は冷蔵庫から出したての温度です」。すると、

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--->
ChatGPT
冷蔵庫から出したて(約4~6℃)のシャウエッセンは中心温度が上がりにくく、破裂リスクも上がるため、それを考慮した火入れ設計にします。

>ステップ1:スチーム加熱で芯まで火入れ(破裂防止)
モード:Hi Steam モード
温度:100℃
時間:7~8分
ポイント:冷たい中心温度(4~6℃)→65℃まで上げるには最低7分。スチームにより皮が柔らかくなり、破裂せずに芯までジューシーに。

>ステップ2:表面パリッと&焼き色仕上げ
モード:Air Oven モード
温度:200℃
時間:5~6分
ポイント:水分が飛び、画像のような「軽い焼き色」と「脂の浮き」が出る。網トレイに乗せて下面もカリッと仕上げるとベター。

>追加テク(余裕あれば)
途中で裏返す(焼き色均一化)。表面に少量の米油を霧吹きで吹くとよりパリッと。
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 と、食材の温度が低いことを受けて調理時間を延長してきた。「ハイスチームエアーオーブンにはコンボモードがあり、2つのモードを連続運転できるので、その設定で実行しましょう」。コンボモードを選び、ハイスチームを100℃、7分、エアオーブンを200℃、6分にセットしてスタート。

ChatGPTの指示にしたがってハイスチームエアーオーブンを設定

家電×AI×人間のアソビ心が至高のシャウエッセンを生み出す

「AIに聞くにしても、ある程度料理の知識があったほうが良いでしょうね。どのくらいの温度で肉の脂が溶け出し、どのくらいの温度で表面の水分が飛んで焼目がついてパリッとするのか、知識があれば具体的な指示ができ、より理想に近づけられると思います。今回も、食材の初期温度で調理時間が変わるとの予測を立てられたから、事前にそうした条件を入力できた。そしてAIがどんどん学習して、どんどん美味しくなっていきます」(大西氏)

 使う人の知識と経験、AIの学習能力の掛け合わせによって生まれるレシピは、実際に試されるまでは机上の空論。実際に試してみて、微調整を加えることでより精度が上がっていく。AIを成長させるのは人間の工夫次第。

 そうこうしているうちに、大西氏としても初めての試みであるシャウエッセンのAI焼きが出来上がったので実食!

1回目の焼き上がり。美味そうにできたのではないだろうか

 「見た目は完璧ですね。好みの焼色です。フォークを刺した感覚も完璧。美味しい。味も完璧。これは驚きですね」(大西氏)。スタッフも食してみたが、パリッとした皮を噛むと中から肉汁がジワリで最高の味わい。大西さんも大満足と思ったが....…

見せてもらおうか、AI×最新調理家電の実力ってやつを

 「ただ、個人的な好みで言えば、ちょっと皮が固い。パリッとしながらも、もう少ししっとりした感じがほしいところ」という大西氏の要求に応えるべく、「概ね良い仕上がりですが、多少皮が硬すぎるので、少し皮がしっとりした状態かつ、皮のパリッと感は失われていない状態を作れますか?」とChatGPTに無茶振りしてみた。その答えが以下だ。

さらに高い要求をChatGPTに課す!

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ChatGPT

<改善レシピ(微調整版)>
>ステップ1:スチーム加熱(芯まで火入れ)
モード:Hi Steam
温度:100℃
時間:6~7分(※前回の8分より短縮)
理由:皮の表面に水分がやや残った状態で熱風へ移行させたい。

>ステップ2:短時間だけ熱風(乾かし過ぎ防止)
モード:Air Oven
温度:190~200℃
時間:3~4分(※前回の5~6分より短縮)
理由:焼き色はつけつつも、乾燥しすぎないように。
オプション:焼き上がり後の「スチーム追いがけ」。仕上げに庫内で30秒だけHi Steamを再ON。余熱を利用して「皮に軽く潤いを戻す」。または焼き上がったあとラップをふんわりかけて1分放置(水分の再分散)

>科学的背景:
ソーセージのケーシング(皮)はたんぱく質主体で、乾燥しすぎると「ガム化」して硬くなります。焼成温度が高いまま長時間焼くと、皮表面が80~90℃以上に保たれ続けて硬化。これを防ぐには「皮の水分を完全には飛ばさずに表面張力だけでパリッとさせる」のが理想。

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 「すごいですね。ここまで具体的に提案してくれる。これを料理人は自動調理器もAIもなしにやるのだから、料理人の知識と経験のすごさをあらためて知ることができますね」(大西氏)。逆に言えば、プロの料理人の技を家庭で簡単に再現できてしまう。ちょっと怖さを感じる。

 最後に、連続調理で庫内温度が上がっていること、追いスチームを選択することを追加して指示。

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ChatGPT
素晴らしい選択です。「焼き上がり後にラップではなく追いスチームで仕上げる」方法は、より制御性が高く、RAO-3のスチーム機能を活かすのに最適です。
・「追いスチーム」で皮をしっとり戻す+パリ感維持する方法
・目的:焼きすぎで硬化しすぎた皮に「軽く水分を戻す」。ただしパリッと感は失わない。焼き色も残したいので、蒸しすぎないのがコツ
・最終ステップに「追いスチーム」を追加

>調理プロファイル全体(最適化版)
・Hi Steam(100℃)5分→芯温を65℃近くまで上げる
・Air Oven(190℃)3分30秒→パリッと焼き色をつけ、皮を乾かす
・Hi Steam(100℃) 30~45秒のみ→これが追いスチーム→皮の表面だけをうっすら湿らせる→風味やパリ感はそのままに水分だけ補う

>ポイント
・スチームは「1分以内」に留める→1分以上だと焼き色が曇り、パリ感が消えやすくなる
・網や穴あきトレイのまま→下面に水分がたまらず、仕上がりが均一になる
・蒸しの後は放置せずすぐ提供→蒸気が再凝縮して皮に吸われすぎる前に食べるとベスト

>科学的な補足
・スチーム(100℃)は表面だけを急速に加湿できる
・パリッとした状態でも、過乾燥すると皮のゼラチン質が収斂硬化
・一度パリ化した表面に短時間スチームを当てると表層がふっくら戻るが、中の弾け感や焼き色は保持される

>まとめ:最高の焼きシャウエッセンを目指すプロファイル
1 Hi Steam(100℃)5分
2 Air Oven(190℃)3分30秒
3 Hi Steam(100℃)30?45秒(おいスチーム)
→ すぐに提供
この方法で、「焼きすぎず・乾きすぎず・でもパリッと感がある」シャウエッセンが再現できます。
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 至高のシャウエッセンのレシピがここに完成した。「1回目より皮が柔らかくなって食べやすくなり、圧倒的に美味しくなりました」(大西氏)。

そして完成した至高のシャウエッセン。パリっの中にしっとり感があり、中はジューシー。1回目も十分美味しかったが、補正した2回目はより皮がパリッとしていて、焼き加減のキャリブレーションもバッチリ。

機械任せにしない 人間の工夫が料理を面白くする

「正直言って、失敗するんじゃないかと思っていました。でも予想以上の出来栄えで驚きです。料理は愛情とはよく言いますが、令和のこの時代、料理は情熱と柔軟さではないでしょうか。最高のレシピを追求する情熱と、AIという最新技術を使う柔軟性。生成AIは画像解析もできるので、もっと焼色を付けたい、皮が破けないようにしたいという要求を写真と一緒にアップすれば、さらに学習して改善してくる。人間も柔軟な発想で最新機器と向き合うことで、料理の幅を広げることができます」(大西氏)

 最近の調理家電は自動化が進み、人間は何も考えずにレシピブックどおりの食材を入れ、ボタンを押すだけで美味しい料理が味わえるようになった。確かに便利だ。しかし、それは思考停止と言える。

 AIが発達すると人間の仕事の多くが奪われてしまうという論評を聞くが、そのAIを使いこなすのは人間の頭脳次第。

 今回のように、AIにさまざまな条件をぶつけることで、AIはどんどん新しい提案を生み出してくる。調理家電はまさに、人智とAIによって進化する家電の代表と言えよう。

 「付属のレシピブックの料理をアレンジしたり、掲載されていない料理をするのは、経験と知識がないと難しいことです。しかしAIに家電製品名と冷蔵庫の食材を打ち込むだけで、複数の料理を作り方まで提案してくれます。これこそが、家電とIoTの真の融合と言えるのではないでしょうか。AIにより、家電はもっと便利に、もっと自由に、もっと楽しくなっていきます」。大西氏は、家電製品の可能性に期待を寄せる。

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