『パンツァードラグーン』発売30周年 ――いと貴き翼持つ者たちの系譜

『パンツァードラグーン』音楽の軌跡

新たなる飛翔、新たなる旅路

 2010年9月16日、東京ゲームショウのマイクロソフトの基調講演に二木幸生が登壇し、ドラゴンを操作する3Dフライトシューティング『Project Draco』をアナウンスした。同作はその後タイトルを『Crimson Dragon』と改め、Xbox 360 Kinect専用タイトルとして開発が進められていたが、配信延期を経て最終的にXbox Oneのローンチタイトルとして2013年11月22日に北米、2014年9月4日に日本で配信された。また、スピンオフ作となるWindows Phone専用ゲーム『Crimson Dragon:Side Story』が2012年8月30日に配信されている。

 舞台はドラゴンが支配する惑星ドラコ。人類はかの地を植民星とするべく武力のもとに移民を進めるが、原因不明の事故により地球との全ての交流が途絶。時を同じくして発生した《竜鱗病》の流行により人口が激減し、地球から持ちこんだ技術や設備も失った。混乱のさなか、ドラゴンとの共存を見出した《シーカー》が新たな秩序をつくりだし、数世代が過ぎ去った。シーカーによって育成されたドラゴンライダーたちは未知の世界を切り拓いていった。だが、竜鱗病をもたらす災厄の巨竜《ホワイトファントム》により、再び滅亡の危機に立たされる。

 『パンツァードラグーン』の精神性を継承しつつ、新たなドラゴンと世界観を打ち出した『Crimson Dragon』は、グランディングとランド・ホーが共同開発を行った。ディレクターの二木を筆頭に、近藤智宏(リードゲームデザイン)、向山彰彦(ゲームデザイン)、中西仁(リードプログラム)、楠木学(コンセプトアート)、田村耕一郎(アート)といった、パンツァードラグーンシリーズ歴代開発スタッフも名を連ね、メインコンポーザーを小林早織が務めた。

『Crimson Dragon Soundtrack』
『Crimson Dragon Soundtrack』

 『Crimson Dragon:Side Story』の小林のシンセサイザー曲をベースにして制作された『Crimson Dragon』のサウンドトラックは、北米でのゲーム配信日と同日にMicrosoft Studios Musicよりデジタルリリースされた。当時Pyramind Studiosのコンポーザー/サウンドデザイナーだったジェレミー・ギャレンが全編曲と追加楽曲を手がけ、『ソウルキャリバーV』などのサウンドトラックに参加したジリアン・アベルサのボーカルや、ドウェイン・コンドン率いるNew York Film Choraleの壮麗なコーラス、ドゥドゥク、バンスリ、コラなどの民族楽器を全面的にフィーチャーし、ハリウッド的スケール感と重量感に富むエピックサウンドで表現した。

 2014年9月29日に発表された、茜 -AKANE-の2ndアルバム『茜道中譚 / Journey』では、『Crimson Dragon』『Crimson Dragon:Side Story』の楽曲アレンジが収録された。茜 -AKANE-は、小林が『パンツァードラグーン オルタ』の音楽制作で共演したヴォーカリストの高橋由美子と意気投合し、2003年に結成したユニット。2007年にオリジナル曲と「秋田長持唄」「秋田大黒舞」「ソーラン節」のアレンジからなる自主制作アルバム『こちゃへ』でデビューし、野島一成がシナリオ、植松伸夫が音楽を手がけたニンテンドーDSソフト『サクラノート ~いまにつながるみらい~』(2009年11月5日発売)のメインテーマ「きみと走るとぼくは泣く」(作詞:野島一成/作曲:植松伸夫)の編曲・演奏を手がけ、植松主宰のDog Ear Recordsより楽曲が配信リリースされた(また、2010年には新曲とリミックスを追加収録した『こちゃへ』が同レーベルから配信の運びとなった)。民謡、エレクトロ・ミュージック、ワールド・ミュージックをミックスし、高橋の朗々たる歌声が響き渡る“エストロニック・ミュージック”(「Ethtronic」EthnicとElectronicを組み合わせた造語)を標榜するその音楽性はパンツァードラグーンシリーズの流れも汲んでおり、ライヴパフォーマンスを重ねながらじっくりと独自の世界観を創りあげていった。

『Akane_Journey』
『Akane_Journey』

 『Crimson Dragon』本編・サイドストーリー共通メインテーマのアレンジ「Dragon's Journey」は、オリジナル版にシンセサイザーソロを加え、高橋のコーラスをより前面に押し出したロングヴァージョンで荒涼と広がる大地としなやかな飛翔のイメージを存分に喚起させてくれる。アルバムの最後にはピアノソロアレンジ「Dragon's Waltz」も収められ、好対照を成している。サイドストーリーのメニュー画面BGMのボーカルアレンジ「遥かなる翼 / Tsubasa」は、小林が「翼ある者」の深遠なるイメージを綴った詞と、高橋の朗々たる歌唱のもと、伝承歌のようなイメージを強めた。終盤ではメインテーマのモチーフも登場する。

 本作で取りあげられ、新たな解釈が加えられた民謡は「本荘追分」「南部牛追歌」「八木節」の3曲。とりわけ「スパイ大作戦」のイメージをミックスしたシンセポップアプローチで聴かせる「八木節」がユニークだ。民話や古典落語にヒントを得たオリジナルストーリーが綴られた8分に及ぶ大曲「怪談「七草坊主と七尾の狐」 / Kaidan」や、アイヌ語のサビと雄大な曲調でおくる「ピリカ / Pirika」、「きみと走るとぼくは泣く」は、それぞれリ・アレンジで収録されている。濃密なコーラスワークとともにたちまち神秘的な世界観へといざなわれる「螺旋の森 / Maboroshi」や、美しきリンゴが実る楽園であったとされるアヴァロン島の伝承をもとに、裏打ちのリズムとケルティックなフレーズで描く「りんごの島 / Avalon」、澁澤龍彦の幻想小説『高丘親王航海記』に着想を得て、天真爛漫なイメージと軽快なテンポで表現した「天竺道中譚」は、「旅を続ける音楽ユニット」としての茜 -AKANE-の面目躍如たる楽曲といえよう。

『Terra Magica』
『Terra Magica』

 ゲーム音楽のワールドワイドかつ多面的な発信を展開する〈Brave Wave Productions〉との出会いも、小林の音楽活動の大きな転機となった。同レーベルから『茜道中譚 / Journey』がリリースされてから約1年半後の2016年4月13日には、小林早織名義での初のソロアルバム『Terra Magica』が登場した。楠木学がアルバムのカヴァーイラストを描きおろし、二木幸生がCD盤のライナーノーツにコメントを寄せた『Terra Magica』は、小林がこれまでに培ってきた音楽性を今一度見つめなおし、聴き手に捧げるサウンドトラックというコンセプトのもとに制作された無国籍シンセサイザーアルバム。『AZEL -パンツァードラグーン RPG-』『パンツァードラグーン オルタ』、そして『Crimson Dragon』が多くを語らずにプレイヤーに想像の余地を与えたように、『Terra Magica』は一枚のアルバムを通して聴き手の想像力を自由に飛翔させる。「母」の彷徨と切なる想いを綴った聖歌ともいうべき「Mother」では伊東えりがボーカルをとり、悲壮感と力強さを併せ持ったシンフォニックなテーマ「Brave Hearted」では高橋由美子のコーラスがテーマメロディに寄り添う。アルバム本編を締めくくる「Horizon」では伊東・高橋両名のコーラスが広大な空と大地をイメージさせ、慈愛と奥行きを与えている。大地のイメージをクローズアップしたかったという小林の想いは、地上に生きる人々の躍動感を活き活きとイメージさせる「Children's Festival」「Dance of Seekers」にもこめられている。

 

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