YMOやエイフェックス・ツインもインスパイアされた、ゲームミュージックとダンスミュージックの邂逅

ゲーム音楽×ダンスミュージックの邂逅

 2020年10月28日、日本が誇る世界的キャラクター『パックマン』のコンピレーションアルバム、『JOIN THE PAC – PAC-MAN 40th ANNIVERSARY ALBUM -』(以下、『JOIN THE PAC』)が発売された。

 「最も成功した業務用ゲーム」として、また「最も知られたゲームキャラクター」として、ギネス世界記録にも認定されている『パックマン』。たとえ、ゲームをプレイしたことはなくても、その姿かたちを知らない人はいないはず。

 そんな彼の生誕40周年を豪華アーティストたちの音楽で彩るべくリリースされたのが、この『JOIN THE PAC』だ。

 本アルバムには、”東洋のテクノ・ゴッド”ことKEN ISHIIを筆頭に、Buffalo Daughter、パソコン音楽クラブ、sasakure.UK、中塚武、DiAN(静電場朔、A-bee、immi)など、国内外で活躍するアーティストたちが手掛けた、バラエティー溢れる”『パックマン』のリミックスサウンド”が収録されている。

 さらに、(ディスク1の)マスタリングは、元・電気グルーヴの砂原良徳が担当し、アルバムジャケットのアートワークはWarp Recordsなどのロゴなどを制作したイギリスのデザインスタジオ、The Designers Republic(ゲームファンならばレースゲーム『ワイプアウト』のアートワークでおなじみ!)が手掛けるなど、そうそうたるメンツが集結している。

 その布陣は、まさに’90年代のテクノ&ダンスミュージックシーンを彷彿とさせる贅沢な作りに! そのうえでしっかりと令和的な新しさも感じる素晴らしいアルバムに仕上がっている。

Various Artists『JOIN THE PAC – PAC-MAN 40th ANNIVERSARY ALBUM -』【DISC 1】

 ゲームミュージックとダンスミュージックの親和性は高い。

 ゲームミュージックはゲーム機を介してサウンドを奏でる電子音楽だ。ゆえに、ハードウェアの処理能力(サウンドチップの性能など)によって、再生できる音色や音数に制約が生まれる。

 だからこそ、往年のビデオゲームのBGMは、”シンプルな電子音”や”短いフレーズの反復”といったパーツで構成されることが多かった。

 そんなプリミティブなサウンドは、まさにテクノミュージックやダンスミュージックに通ずる部分もあるのではないだろうか。

 ゲームミュージックとダンスミュージックの接点をグッと掘り下げていくと、奇遇なことに『パックマン』に辿り着く。

 1981年、1枚のレコードがリリースされる。アメリカのポップデュオ、バックナー&ガルシアによる『Pac-Man Fever』という曲だ。

 『パックマン』のBGMがサンプリングされたディスコソングなのだが、なんと1982年の全米ビルボードチャートでは9位にランクインし、トータルで120万枚の大ヒットを記録している。

 ”ゲームサウンドをサンプリングネタとして使用した楽曲の先駆け”としては、その売上枚数はまさに快挙とも言える(余談だが、冒頭で紹介したアルバム『JOIN THE PAC』には、この『Pac-Man Fever』のカバー曲も収録されているのでチェック!)。

 さらに国内では、その3年後の1984年に、世界初のゲームミュージックのサウンドトラックアルバムとして『ビデオ・ゲーム・ミュージック』がリリースされる。

 ご存じのかたも多いと思うが、本アルバムのプロデュースを手掛けたのは元・YMOの細野晴臣だ(本アルバムはちょうどYMOが散開した翌年にリリースされた)。

 『パックマン』をはじめ、『ゼビウス』、『マッピー』、『ニューラリーX』、『ディグダグ』、『ギャラガ』など、当時のナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)の人気ゲーム10作品のサウンドが収録され、これまでゲームセンターでしか聴けなかったゲームのBGMや効果音が観賞用ミュージックとして家で楽しめるようになった、まさにゲームファンにとっては革新的なアルバムだった。

 なお、1978年のYMOのデビューアルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』には、『コンピューター・ゲーム』という曲が収録されている。これはビデオゲームの『スペースインベーダー』および『サーカス』のサウンドをシンセサイザーで表現しリミックスしたものだ。

 『イエロー・マジック・オーケストラ』は、もちろん”ゲームミュージックアルバム”ではないが、”ゲームミュージックとダンス(テクノ)ミュージックの接点”という意味では、この、『コンピューター・ゲーム』こそがルーツといっても過言ではないはずだ。

 そんなゲームのBGMや効果音は、相性の良さからか、いつしか恰好のサンプリングネタとしても注目されはじめ、とくに’90年代以降は、ゲームサウンドがサンプリングされたテクノやヒップホップなどが目立つようになり、”ゲームミュージックとダンスミュージックの関係性”は親密になっていく。

 1992年には、イギリスのアーティストPower-Pill が、『Pac-Man』という曲をリリースする。『パックマン』サウンドをブレイクビートハードコアに仕上げた楽曲なのだが、じつはこれ、エイフェックス・ツインこと本名リチャード・D・ジェームスの別名義による作品なのである。

 この曲はオリジナルレーベルの買収や廃盤などの理由でその後入手困難となり幻の名盤となっていたが、このほどリチャード・D・ジェームスおよびWARPレコーズの協力を得ながら、楽曲の権利も明確になり、なんと文頭で紹介したアルバム『JOIN THE PAC』に特別に収録されている。

 なお、エイフェックス・ツイン本人は『Pac-Man』を作曲したきっかけを以下のように答えている。

●ゲームサウンドとクラブミュージックを結びつけたこの楽曲を作ったきっかけは?

「僕らの世代はみんなそうだったと思うけど、『パックマン』をはじめ、『ディフェンダー』や『テンペスト』、『スーパースプリント』といったゲームで育ったんだ。幼少期のほとんどは、シンクレアの”ZX81″や”ZX Spectrum”といったコンピューターのデータ読み込み時のノイズ音を聞いて過ごしたので、そういった音が僕の身体にも組み込まれ、ゲームのサウンドトラックがそういった体験の一部となっているんだ。なかでも『パックマン』と『ディフェンダー』は最高のゲームサウンドトラックだと思う」(エイフェックス・ツイン)

●当時の楽曲制作で使用した機材は?

「『Dr T’s Tiger Cub』をインストールしたAtari ST、カシオのFZ-10M、いくつかの自作電子機器、KORGのMS-20、ALESISのQuadraverb、そして改造したいくつかのBOSSのエフェクターペダル」(エイフェックス・ツイン)

●楽曲を制作した当時にまつわる思い出は?

「当時、トゥルーロ(イギリス・コーンウォール地方)の”ピギーズ”というハンバーガーショップ上階にあったゲームセンターに入り浸ってたんだけれど、その向かいの”シティ・ミュージック”という楽器店で初めてのシンセサイザー、ヤマハのDX100を買って自分のボイスレコーダーでレコーディングをしてたんだ。あと『スーパースプリント』の音楽や効果音は、当時から現在に至るまで大好きで、じつはいまメインテーマ曲のリミックスを手掛けているところ」(エイフェックス・ツイン)

<※『JOIN THE PAC』用のインタビューより抜粋>

 Power-Pill の超レアなゲームレイブトラックが発掘され、そして十数年ぶりにCDに収録されたのは、ほんとに奇跡的なことだ。そのうえ、エイフェックス・ツイン本人が、当時のことについて、このようにインタビューに答えるのも非常に貴重である。



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