『パンツァードラグーン』発売30周年 ――いと貴き翼持つ者たちの系譜

『AZEL -パンツァードラグーン RPG-』
1998年1月29日、『AZEL -パンツァードラグーン RPG-』が発売された(海外版タイトルは『Panzer Dragoon Saga』)。二木幸生(兼メインシナリオライター)と楠木学(兼総監督、チーフデザイナー)のほか、前川司郎と小河陽二郎が原案・設定に加わり、チーフプログラマーを竹下英敏、イメージイラスト&キャラクターデザインを横田克己、ドラゴンデザインを酒井智史が手がけた。これまでシューティングとして制作してきたシリーズをRPGとして制作するという課題に加え、ゲーム全体のリアルタイム3D処理や全キャラクターのフルボイス化も実現させるために開発は長期化し、スタッフの増員が図られた。チームアンドロメダのRPG開発ノウハウの不足を補うため、メガCD『聖魔伝説3×3EYES』や、セガサターン『魔法戦士レイアース』『サクラ大戦』に携わっていた向山彰彦がバトルプランナーとして途中参加し、3DシューティングとコマンドRPGを融合させたバトルシステムの試行錯誤が重ねられた。
ストーリーの時系列は『パンツァードラグーン』の約30年後(帝国暦119年)にあたる。帝国が管理する旧世紀の遺物の発掘所の警備に就いていた傭兵エッジはある日、少女が眠る奇妙な発掘物を偶然目にするが、ほどなくして、帝国に反旗を翻した帝国軍特務部隊指揮官K・F・クレイメン率いる部隊の襲撃を受ける。家族ともいえる仲間を殺され、自身も凶弾を受け竪穴へ転落したエッジだが、奇跡的に一命をとりとめ、遺跡の奥深くで一体のドラゴンと出会う。発掘された謎の少女アゼルとともに去ったクレイメンを追うエッジとドラゴンの復讐の旅はやがて、人類の運命を左右する大きな出来事へと直面してゆく。攻性生物にして本作のヒロインであるアゼルの人ならざる異質なビジュアルとキャラクターがストーリーを牽引し、前作のエピソードが補完され、《塔》の秘密も明かされる。

1997年12月17日、ゲーム序盤(アトルムドラゴン戦まで)の楽曲を収録したサウンドトラックにゲーム体験版ディスクを同梱した『AZEL -パンツァードラグーン RPG-』が発売。その後、1998年2月4日に全楽曲を収録した2枚組サウンドトラック『AZEL -パンツァードラグーン RPG- コンプリートアルバム』が発売された。ゲームギア『ドナルドダックの4つの秘宝』『シルヴァンテイル』などを手がけた小林早織と、スーパー32X『カオティクス』などを手がけた南波真理子がメインコンポーザーを担当(南波はサウンドプロデューサーの澤田朋伯とともに本作の効果音・マルチオーディオも担当している)。前作の雰囲気の踏襲を意識しつつ、RPG音楽としての表現を目指した小林は、二木から参考用に渡されたニューエイジ/電子音楽ユニットDEEP FORESTのアルバムからも刺激を受けながら『AZEL』のイメージを模索していき、自らの音楽性においても大きな転機となった。
――BGMもスタッフががんばってくれて、サターンの内蔵音源で鳴らしているBGMとしては技術的にも表現的にも最高のものが出来たと思います。このプロジェクトが終わった時は「サターンのサウンドで出来ることは全てやりきった!」と思いましたね。
すぎやまこういち作品や、クロスオーバー・インストゥルメンタル・バンドG-クレフでの活動でも知られるシンセサイザースペシャリストであり、オーケストラサウンドにも長けた松尾早人を編曲に迎えたオープニングテーマ「Ecce Valde generous ale(見よ、いと貴き翼)」や、神聖さと悲壮感を孕んだ共通のモチーフを湛えた、アゼルのテーマともいうべき「人ならざるもの」「閉じた魂」「涙」などのシンフォニックサウンドは演出面やストーリーに十二分に応えつつ、これまでとは違った印象で訴えかけてくる。「禁断の地」「水の廃都」「胎道」などのアンビエントサウンドは旧世紀文明の底知れぬ神秘性を伝え、郷愁の響きを湛えたキャラバンのテーマ「放浪」や、ストーリー中盤の拠点となる「ゾアの街」の多層的な趣、シタール風のたわんだ音色が印象的な「シーカーの里」などに織りこまれた濃厚な民族音楽色は、人びとの営みの情景に広がりと奥行きを与えている(ちなみに「放浪」「ゾアの街」は、当初はメインテーマの候補曲として制作されたという)。そして「変異種1」「巨大生物1」「アトルムドラゴン」などの戦闘曲におけるパーカッシヴかつ疾走感あふれる無国籍シンセサイザーサウンドは豊富なバリエーションで展開され、前作の「帝国」のリ・アレンジや、「箱船」における「絆~メインテーマ~」のメロディの再登場も印象深い。伊東恵里(伊東えり)がパンツァー語で綴られた詞を高らかに歌い上げるエンディングテーマにしてメインテーマ「Sona mi areru ec sancitu(其は聖なる御使いなりや)」(作詞:前川司郎/編曲:松尾早人)は、キリエ(聖歌)を思わせるアカペラコーラスの導入から、力強いオーケストレーションによる雄大なテーマメロディが奏でられ、悠久の物語を締めくくる。「Ecce valde generous ale posselna volucritus(見よ いと貴き翼持つ者がはばたく) Sona areru ec paldeel?(其は破滅の使いなりや?) Sona mi areru ec sancitu?(其は聖なる御使いなりや?)」と問いかける詞も象徴的であり、三部作の掉尾を飾るにふさわしい楽曲だ。
再発希望の声が多く寄せられていた『コンプリートアルバム』は、2001年4月21日に『AZEL -パンツァードラグーン RPG- メモリアルアルバム』として復刻された。再発にあたり、澤田朋伯によるアレンジ「Sona mi areru ec sancitu(Re-arranged)」と、シカゴ・ハウス/テクノシーンの巨星として知られるDJ/プロデューサーであり、名門Prescription Recordsの主宰者であるロン・トレントによるディープ・ハウスリミックス「Sona mi areru ec sancitu(Prescription Vocal Club Mix)」が追加収録されている。前曲は『Radio DC』(1999年5月19日発売)に、後曲は『Club Sega 2 ~Beat Grooves~』(1999年1月20日発売)に提供されたトラックの再収録だ。また、2018年2月リリースの配信版では、澤田によるリ・アレンジ「Sona mi areru ec sancitu(2018 Re-arranged)」が新たに収録されている。

2018年1月29日には、ソフト発売20周年を記念して小林自ら選曲・アレンジを手がけたアルバム『Resurrection: Panzer Dragoon Saga 20th Anniversary Arrangement Soundtrack』がBrave Wave Productionsから発売され、CD・LP盤には二木幸生、向山彰彦らのコメントも収録された。ファンの想いを汲みとり、原曲のエッセンスやイメージは極力そのままに、現在のシンセサイザーサウンドによるアレンジ、チャド・シュワルツ率いるTriforce Quartetをフィーチャーした生演奏アレンジを施し、内蔵音源の制約から解き放たれた表現を20年越しに聴かせる。ビビッドなデジタルサウンドで新生した「アトルムドラゴン」や、小林のピアノ、我妻万穂のフルート、そして弦楽四重奏が豊穣な空間を紡ぎ出す「放浪」「ゾアの街」、万感のピアノソロを聴かせる「箱船」「涙」など全20曲を収録。アコースティックジャズで解釈された「Sona mi areru ec sancitu」は、20年の年輪をゆったりと感じさせてくれる仕上がりで、さまざまな想いが去来する。
『パンツァードラグーン オルタ』
『AZEL -パンツァードラグーン RPG-』を最後にチームアンドロメダは解散し、スタッフはそれぞれの道を進むこととなる。二木幸生はソニー・コンピュータエンタテインメントやマイクロソフトを経て、2007年にグランディングを設立。楠木学と竹下英敏はアートゥーンへ移籍。シリーズ三部作を通してプログラマーで携わった中西仁は『スペースチャンネル5』『スペースチャンネル5 パート2』のプログラミングディレクターとして、『パンツァードラグーン ツヴァイ』『AZEL』のエネミー制作などに携わった菊池正義と植田隆太は、スマイルビット(セガ開発子会社)で『ジェット セット ラジオ』シリーズのチーフプランナー/ディレクター(菊池)、チーフグラフィックデザイナー(植田)としてそれぞれ活躍。横田克己はユナイテッド・ゲーム・アーティスツ(セガ開発子会社)で『Rez』のアートディレクター/リードデザイナーを、酒井智史はソニックチームで『ファンタシースターオンライン』のアートディレクターを務めた。
そして新世紀に入り、ゲームスタイルを再び3Dシューティングに戻したパンツァードラグーンの新作開発プロジェクトが始動する。2002年12月19日、シリーズ第4作にして、三部作の後日談となる『パンツァードラグーン オルタ』がXbox用ソフトとして発売された。開発はスマイルビットが担当し、シリーズ3作にエネミーデザインで携わった岩出敬を筆頭にしてスタッフが集められた。岩出は吉田謙太郎とともにアートディレクターを担当。菊池正義が企画スーパーバイザーとして参加し、『AZEL』の後に岩出とともにドリームキャスト『ハンドレッドソード』の開発に携わった向山彰彦がディレクター、厚孝がチーフプログラマー、綿貫透がコンセプトアートデザイナーを務め、『AZEL』で岩出、植田とともにエネミーデザインを担当した中山雅晴がドラゴンデザインを手がけた。2003年10月23日にプラチナコレクション(廉価版)が発売。2018年4月17日にはXbox Oneの後方互換機能に対応し、デジタル版が配信。さらに高解像度でのゲームプレイが可能となった。
ストーリーは『AZEL』の「大崩落」から数十年後。戦力の大半と第7代皇帝を失い壊滅状態に陥った帝国だが、南方系民族との融和により軍事力を得た帝国アカデミーのもとに軍が再編され、第8代皇帝の即位とともに再興。人類の復権を切望する帝国は、亜人アバドを用いて兵器生産施設《生命炉》のテクノロジーを獲得。人間の手によって操ることのできる攻性生物兵器《ドラゴンメア》の生産に成功し、圧倒的な戦力で大陸諸国を制圧してゆく。
主人公は、石塔の牢獄に幼い頃から幽閉されている少女オルタ。世界も自分自身も知らぬまま育ち、村の人々からは世界を滅ぼす魔女と恐れられていた。ある嵐の夜、帝国のドラゴンメア部隊が塔を襲撃する。彼女の窮地を救ったのは、伝説の白き角を持つドラゴンだった。翼に導かれるまま、帝国軍の激しい追撃を逃れたオルタの前に、ドラゴンメアを強奪し帝国から逃亡したアバドが現れる。「未来なきこの世界を救うため お前の存在が必要だ」――そう言い残し去っていったアバドを追って旅を続けるオルタの前に広がる驚異に満ちた世界。大自然に生きる《ワームライダー》との出会いや、強大な帝国艦隊やドラゴンメア部隊との熾烈な交戦を経て、少女とドラゴンはそれぞれの運命と対峙してゆく。
本作の「PANDRA'S BOX」では、帝国で生まれ育った少年イーヴァの視点からストーリーが語られるサブシナリオ「帝国少年編」や、異なる自機を操作するミッションが収録されているほか、全シリーズ作品のムービーや設定資料も充実し、初代『パンツァードラグーン』もプレイ可能となっている。ソフトの初回限定版には、全シリーズのBGMメドレーを収録したCDが同梱され、音楽的歴史も改めて示された。ゲーム発売から2年後の2004年12月17日には、ノベライズ『風と暁の娘 パンツァードラグーンオルタ』が刊行。著者は富士見ファンタジア長編小説大賞受賞作家であり、『DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー』の原案を手がけた五代ゆう。パンツァードラグーンシリーズの熱狂的ファンであり、よき理解者でもある五代が設定資料やキャラクターを徹底的に掘り下げ、肉付けし、ハードカバー二段組400ページにわたる重厚なドラゴンファンタジー巨編として描きだした。ゲームノベライズにおける一つの「達成」といっても過言ではない傑作である。

2002年12月21日に『パンツァードラグーン オルタ オリジナルサウンドトラック』が発売され、アメリカのTOKYOPOP Soundtraxから2003年1月21日に『PANZER DRAGOON ORTA OFFICIAL SOUNDTRACK』が発売された。この海外版サントラには、『パンツァードラグーン』の「メインタイトル」、『パンツァードラグーン ツヴァイ』の「ラギとランディ~ツヴァイのテーマ~」、『AZEL -パンツァードラグーン RPG-』の「Sona mi areru ec sancitu(其は聖なる御使いなりや)」が追加収録されている。
――今回のメインテーマは少女オルタの生活、夢、不安、平和など日常的なものをモチーフに制作しています。冒険の後、成長した彼女の心情を感じつつ、ゲームの余韻をどうぞお楽しみください。
『パンツァードラグーン オルタ オリジナルサウンドトラック』
小林早織コメント
『AZEL』から引き続き小林早織がメインコンポ―ザーを務め、ドリームキャスト『エターナルアルカディア』などに携わった蓑部雄崇がサブコンポーザーとして「FALL OF THE ANCIENT WORLD」(オープニングデモ)、「THE FALLEN GROUND」(EPISODE 3)、「ANCIENT WEAPON 1」(EPISODE 2&3&5ボス)、「WORM RIDERS」(ムービーシーン)を担当。得意のシンフォニックサウンドや、ワームライダーのイメージを喚起させる土着的テーマを聴かせる。シンセサイザーサウンドと民族音楽色の融合を独自に模索してきた小林のスタイルは凝縮されたミクスチャーサウンドとして強固に確立され、たびたび耳にすることとなる「CITY INTO THE STORM」(EPISODE 1、EPISODE 4&9ドラゴンメア戦)や、「ALTERED GENOS」(EPISODE 2)、「ANCIENT WEAPON 2」(EPISODE 6&8ボス)ではエレクトロ・プログ・ロックと形容したくなるほどに太く鮮烈なうねりを聴かせる。
「GIGANTIC FLEET」(EPISODE 4)と「IMPERIAL CITY」(EPISODE 8)では、文化様式の変質を遂げた帝国の姿が新たなテーマで示される。「ETERNAL GLACIES」(EPISODE 5)では躍動的なリズムと幻想的なシンセサイザーサウンドが雪原を駆けるドラゴンをイメージを力強く表現する。ステージボスであるエルス・エノラの神々しいフォルムから繰り出される攻撃パターンの美しさも必見だ。淡々と刻まれるリズムの上を、どこか懐かしさをおぼえるシンセサイザーのメロディが流れる「LEGACY」(EPISODE 6)は『ツヴァイ』、奥底へといざなう濃密なアンビエント「FORBIDDEN MEMORIES」(EPISODE 7)は『AZEL』の残響が聴こえてくるかのような仕上がり。また、ラストエピソードを盛り上げる「THE END OF DESTINY」は、『ツヴァイ』のエピソード1「STARTING DESTINY」および同エピソードBGM「運命の始まり」と対を成すタイトルになっているのも象徴的だ。
複数のコンポーザーによって統一感をもって連綿と受け継がれ、広大な世界観や悠久の物語を表現してきたシリーズのサウンドは、ハードの進化に伴うスケール感とダイナミズムを得てここに集大成を見たといえよう。そして、一人の少女の心情と追憶を綴った楽曲で『オルタ』は締めくくられる。前作と同じく伊東えりがボーカル、松尾早人が編曲を手がけたパンツァー語によるエンディングテーマ「ANU ORTA VENIYA」(作詞:栗原滋)は、十代の頃から日本民謡の素養を育み、植松伸夫・笹川敏幸による企画オムニバスアルバム『TEN PLANTS』や、『幻想水滸伝II』にボーカル/コーラスで参加した高橋由美子の冒頭のコーラスも印象的なシンフォニック・ポップ。「ANU ORTA VENIYA SERERE KRYTHE(夜が明けたら畑に麦を播こう)」の一節に、オルタの新たな「STARTING DESTINY」も予感させる、希望の光が差しこむテーマである。





















