任天堂の縦シューティングゲーム『ソーラーストライカー』に存在した“マリオ”という名の道しるべ

任天堂『ソーラーストライカー』の道しるべ

 「このゲームのことをどこでお知りになりましたか?」

 ゲームを購入すると、そんなことをメーカーからのアンケート経由で聞かれることがある。

 ゲームに限った話ではないが、作品との出会いから購入へと至る流れは人それぞれだ。現代においては、やはりネットが主要な道しるべと言えるだろう。ニュースサイト、SNS、動画投稿サイト、そして配給元たるメーカー公式サイトなどなど。それら“道しるべ”を通して作品を知り、買うに至った経験は、おそらくは誰もがしたことがあるはずである。

 一昔前なら、テレビコマーシャル、雑誌の記事、広告などが主要な道しるべだったと言える。ゲームの場合、販売店のショーケース、あるいは広告を通して作品を知り、そのまま買う……といったケースもあったと思われるのだが、いかがだろう。

 ただ、人によっては奇妙な道しるべから、買うに至ったという経験をしたこともあるかもしれない。筆者の場合、『ソーラーストライカー』がそのひとつとして出てくる。

 2025年現在から見ても奇妙な話だが、このゲームを教えてくれた道しるべというのはマリオだった。ちなみにゲームそのものはマリオとは1ミリたりとも関係がない。強いて言うなら、発売元が任天堂であることぐらいだ。

任天堂としては珍しい、縦スクロールタイプの古典的で“無個性”なシューティングゲーム

 『ソーラーストライカー』は1990年1月26日、携帯ゲーム機「ゲームボーイ」向けに発売されたタイトル。「大暗黒星トリノ」の大艦隊による攻撃を受けて窮地に陥った人類が、連邦軍が造り出した超高速戦闘機「SOLAR STRIKER(ソーラーストライカー)」で反撃に出るという設定の縦スクロールのステージクリア型シューティングゲームだ。

 任天堂としては後にも先にも珍しい、スクロールタイプの古典的シューティングゲームでもある。任天堂のゲームといえば、主に「マリオ」シリーズなどに代表されるアクションゲームの印象が強いが、シューティングゲームもそれなりに数を出している。

 ところが、横方向および縦方向に強制スクロールする仕組みを採用した古典的なシューティングゲームというのは、意外にも例が少ない。歴史をさかのぼれば、(スクロールの概念はないが)『スペースインベーダー』のクローンゲームとして誕生した『スペースフィーバー』といった作品が存在するものの、その多くは、プレイヤーから見た視点(フロントビュー)、あるいは奥へと進む3Dスクロール。

 その意味でも『ソーラーストライカー』は、任天堂的には珍しいタイプのシューティングゲームとなっている。そして、ゲームとしても、斬新なシステムを備えた内容に……なってはいない。単刀直入に申し上げて、シューティングゲームとしてはビックリするほど“フツー”。無個性とも言う。

 自機「ソーラーストライカー」を操縦し、襲い来る敵をショットで撃退しながら全6ステージの攻略を目指す。たったそれだけの内容である。システム面も自機のアクションは移動とショットのみ。多くの敵に囲まれた際に役立つ「ボム」はない。

 ショット攻撃が最大4段階までパワーアップする要素はあるが、その仕組みもシンプルに該当するアイテムを拾うだけ。ちなみにそれ以外のアイテムは本編に存在しない。自機の移動速度を上げるとか、バリアを展開する、などといった要素も皆無である。

 難易度選択などのオプションも存在せず、タイトル画面でスタートボタンを押せばそのまま本編が始まる。この一連の特徴からもお分かりのとおり、とにかく普通のシューティングゲームとしか表しようのないゲームなのだ。

 本作が発売された1990年当時には、『スターソルジャー』『TATSUJIN』『アレスタ』といった名作縦スクロールシューティングゲームが数多く出ていたが、それらと比べても個性に乏しい。強いて言うなら1990年当時、ゲームボーイにおいては数に乏しかったシューティングゲームを携帯しながら遊べることぐらいしか個性がない作品である。

 2025年現在の視点で見れば、それが個性として働かなくなってしまっているのは言うまでもない。それほどまでにフツー。後世に語り継がれる名作とするのも厳しいゲームとなっている。

 だが、ゲーム自体の出来は断じて悪くない。むしろ、普通であるがゆえにとても遊びやすい。難易度も敵の最大出現数や敵弾の数が控えめで、難しすぎないちょうどよさ。当時のゲームボーイの液晶が高速スクロールに弱い(残像が生じて視認性が低下する)点を考慮した調整だ。また、Aボタン押しっぱなしでショットの自動連射が可能など、操作性も良好である。

 反面、ステージ4からボスが殺意むき出しになる、ゲームオーバーになると最初のステージ1からやり直し(コンティニューがない)といった粗い部分も。特に後者は本編クリア最大の障壁で、それなりの根気が試されてくる感じだ。

 「よけて撃つ」という、古典的なシューティングゲームの原液を純粋に味わいたい。そんな思いにはしっかり応えてくれる、堅実に仕上がった佳作である。このジャンルの入門編としてオススメできる1本だ。

思わぬところでマリオとコラボしていた……!?

 ここまでの紹介でも明らかなとおり、『ソーラーストライカー』はマリオとは1ミリたりとも関係がない。

 にもかかわらず、筆者はこのゲームのことをマリオを通じて知った。おそらく、同じようにマリオを通じて『ソーラーストライカー』のことを知った人は、多少は居るものと思うのだが、いかがだろうか。

 というのも、マリオのコミカライズ作品において、本作のエピソードが連載された過去があるのだ。

 そのコミカライズ作品とは、かつて存在した講談社の月刊漫画誌『コミックボンボン』にて連載されていた本山一城氏の『スーパーマリオランド』。この『スーパーマリオランド』はその名のとおり、ゲームボーイ本体と同時発売されたアクションゲーム『スーパーマリオランド』のコミカライズとして当初は連載された。

 その『スーパーマリオランド』のストーリーが完結したのち、当時発売された『テトリス』、『ゴルフ』などのゲームボーイのタイトルをテーマにしたストーリーが展開。それらのラストを飾る作品として、『ソーラーストライカー』がテーマになったのである。

 「ソーラーストライカー発進編」と名付けられたこのコミカライズは、単行本4巻(※2025年現在絶版)に収録。世界観や設定などは原作のゲームをベースにしているが、マリオたちが絡むことにちなみ、ストーリーはほぼオリジナルといってもいいものになっている。

 その内容とは、マリオとピーチ姫が子孫の「マーリオ」と「ピチ姫」、そして超高速戦闘機「ソーラーストライカー」とともに、未来世界で大暗黒星トリノの軍勢に挑むというもの。タイムトラベル要素を取り入れた、SF漫画として描かれているのだ。

 また、オリジナルキャラクターはマリオとピーチ姫の子孫以外にも、2人を未来へと送り込むタイムマシンを開発したアレク博士、ピーチ姫が持ってきたチョコレートから生まれたバイオくん、そして大暗黒星トリノの大ボス・トリノ大王などが登場する。さらに大暗黒星トリノの軍勢(パイロットたち)は、その名にちなんで全員が人型の鳥として描かれている。

『スーパーマリオランド』4巻(講談社刊:73ページより)
『スーパーマリオランド』4巻(講談社刊:73ページより)

 ちなみにトリノ大王とは、クッパの変装である。この『スーパーマリオランド』のコミカライズにおいては、クッパがそれぞれのタイトルにちなんだ変装(コスプレ)をするというネタがあった。後年に誕生する『スーパードンキーコング』のキングクルール(クルール)のことを思うと、なんとも興味深い。タイムマシンを開発した博士というのも、同じくタイムマシンとそれを開発した博士が出てくる『マリオ&ルイージRPG2』を踏まえると、これまたニヤリとしてしまうのがある(同作でタイムトラベルしたのは過去だったが)。

 このコミカライズはゲームの攻略も兼ねた内容のため、ストーリー進行は大変スピーディ。どれだけスピーディかを例に出せば、後半3ステージのボスとの戦闘がたったの1コマ(※ラスボスは2ページ)で済まされる感じだ。とは言え、ステージ3のボスとはちょっとした駆け引きが描かれたり、終盤はトリノ大王との直接対決という漫画オリジナルの展開が描かれたり、といった見どころもある。

 単行本には、原作ゲームのボス戦にフォーカスした攻略記事がカラーで掲載されているというのも特筆に値する。2025年現在は絶版となってしまっているため、入手および読むハードルは極めて高いが、どこかで目にしたらチェックいただきたい作品である。特に後年誕生したマリオのゲームを思わせる予言的なネタが一部あることから、「マリオ」シリーズのファンほど必見かもしれない。

『スーパーマリオランド』4巻(講談社刊:6~7ページより)
『スーパーマリオランド』4巻(講談社刊:6~7ページより)

 このようなある意味、力技にも等しいコミカライズが掲載された過去を『ソーラーストライカー』は持つ。それもあって『ソーラーストライカー』には雑誌、広告などのほかにも、“マリオ”という名の道しるべがあったのである。それもあって、この道しるべを通して『ソーラーストライカー』を知った人も多少はいるのでは、と思うのである。

 筆者はこの一連のマリオの道しるべから『ソーラーストライカー』を知った。ゆえに原作ゲームを遊んだのも、コミカライズを読んだ後のこと。当然ながら、コミカライズとの違いにあれこれ戸惑ったとか、戸惑わなかったとか。

実は復刻したのは25年前(!!)のたった1度きり。次の復刻はいつになるのか……?

 そんな『ソーラーストライカー』だが、実は意外にも復刻の機会に乏しい作品でもある。

 2011年に発売された携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」(以下、3DS)では、ゲームボーイタイトルを3DS上で遊べるように再現したバーチャルコンソールのサービスが展開。前述の『スーパーマリオランド』を始め、さまざまなゲームボーイタイトルが復刻された。

 だが、『ソーラーストライカー』は2023年3月にサービスが完全に終わるまでの間、一度も復刻されなかったのである。

 Nintendo Switchで配信されている『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』でも、本稿執筆時点で『ソーラーストライカー』は未配信。3DS当時と同じ状況にある。

 唯一、復刻されたのは、なんと25年前の2000年。当時、コンビニエンスストア「ローソン」で展開されたゲームソフト書き換えサービス「NINTENDO POWER(ニンテンドウパワー)」のラインナップとしての1度だけなのである。

 なぜ、これほど復刻に恵まれないのかはナゾのままだ。シューティングゲームとしての無個性さもあって、復刻したところでインパクトがないと判断されているのだろうか。正直、それについては「おっしゃるとおりです」としか言いようがなく、グウの音も出ない。

 とはいえ、あくまでも無個性なだけで、ゲームとしての出来は悪くない。作りがシンプルゆえの遊びやすさ、適度に手ごたえのある難易度、オート連射機能も備えた操作性の良さは2025年現在の視点から見ても、光るものがある。また、音楽もなかなか素晴らしく、とりわけステージ4は思わず口ずさみたくなってしまうほどの楽曲に仕上がっている。

 任天堂としては数少ない、古典的な2Dスクロールタイプのシューティングゲームとして、ある程度ながら史料的な価値も持つ本作。シンプルすぎて個性にも乏しいが、仕上がりは堅実なので、いつかの将来、復刻された暁には遊んでみてほしいタイトルだ。そして、もし機会に恵まれたなら、本作をテーマにしたマリオのコミカライズ作品もセットで手に取り、作品をより深く知るのも一興である。

 ところで任天堂の2Dスクロールタイプのシューティングゲームと言えば、『ソーラーストライカー』の発売から19年後となる2009年。ニンテンドーDSi向け「DSiウェア」として『あぁ無情 刹那』なるタイトルが出たことがあった。

 2025年現在は「DSiウェア」のサービス終了により、新規に購入できなくなってしまっている。これも歴史に埋もれたままにするのは惜しい任天堂の良作シューティングゲームゆえ、どこかの機会で復活してくれることを祈る……と、最後を余談で締めてみた。

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