発売40年の『バルーンファイト』 いまこそ“あえて”ファミコン版以外のシリーズ作品たちを振り返る

ファミリーコンピュータ(ファミコン)向けアクションゲーム『バルーンファイト』の発売から、1月22日で40年である。
『バルーンファイト』は2つの風船を背負った主人公を操作し、空中を飛び回りながらトラップをかわし、敵と戦ったりしていく2Dアクションゲーム。慣性の法則を採り入れた、ちょっぴりもどかしい操作感と、独自のフワフワとした手触りを特色としている。
もともとは1984年に『VS.バルーンファイト』なる、アーケードゲームとして初お披露目されたゲーム。ファミコン版はその後に出た。しかし、世間的な認知度および知名度に関しては、アーケード版よりもファミコン版が勝る感がある。

その理由は後年に何度も復刻されていること、ゲーム好きの興味をそそるユニークなエピソードが開発に携わったクリエイターから直接語られたことなど、多数挙げられる。後者に関しては、とりわけ元任天堂社長の故・岩田聡氏がプログラム全般を担当したというエピソードは、最も象徴的な一例と言ってもいいだろう。
逆に言えば、ファミコン版が目立ちすぎるあまり、他の『バルーンファイト』はその陰に隠れてしまっているきらいがある。『バルーンファイト』はファミコン版だけではない。他にも事実上のシリーズ作と言える『バルーンファイト』が世の中には存在するのだ。
ファミコン版『バルーンファイト』の発売から40年のこのごろ。あえてここでファミコン版『バルーンファイト』ではなく、それ以外の『バルーンファイト』と、シリーズとして歩もうとした過去を振り返ってみたく思う。
すべての始まりである元祖にして、ファミコン版とは異なる特徴を持つ『VS. バルーンファイト』
最初にピックアップするのは、すべての始まりとなったアーケードの『VS.バルーンファイト』だ。『VS. バルーンファイト』はファミコン版が発売40年を迎えるより前、2024年をもって誕生から40年目を迎えた。

時系列としては元祖に当たる『VS. バルーンファイト』。しかし、ゲーム自体の開発は、アーケードとファミコン版がほぼ同時に進められていたと、ゲームデザインおよびグラフィック周りを担当した任天堂の坂本賀勇氏が「CONTINUE Vol.10」(太田出版)の124ページから144ページに掲載された単独インタビューでコメントしている。
実際、ゲームのルール、グラフィックの作風はファミコン版とほとんど同じだ。ただ、大きな違いとしてステージの規模があり、上下方向にスクロールする仕組みを採り入れていることから、全体的に広さを感じさせる作りになっている。
もうひとつに操作感だ。慣性の法則に基づいた動きをするのはファミコン版と同じであるが、上昇や旋回を試みようとしたときのレスポンスが鈍い。平たく言えば、重いのだ。また、飛行中に勢いをつけた際の加速も大きい。ファミコン版の経験があれば一連の違いは分かりやすく、慣れたプレイヤーほど戸惑いやすい手触りになっている。

これは、アーケード版のプログラム担当がファミコン版とは別の会社であることが背景にある。ファミコン版は前述した故・岩田氏が当時在籍していたHAL研究所が担ったのに対して、アーケード版はファミコン版『ドンキーコング』や『ドンキーコング JR.』などを開発したSRD(エスアールディー)が担当したのである。
その開発体制については、前述した坂本氏のインタビューのほかにも、任天堂公式サイトに掲載されている「社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(その2)」においても語られている。
※参考リンク:「社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(その2)」
https://www.nintendo.co.jp/wii/interview/smnj/vol2/index.html
そんな設計面での違いが操作感に現れた形となっている。ほかにファミコン版との違いとして象徴的なものでは、「バルーントリップ」なるゲームモードがないこと。そもそも「バルーントリップ」自体がファミコン版で初めて収録されたゲームモードであるため、存在しないのはいたって自然な話でもある。
復刻に恵まれているファミコン版とは対照的に、アーケード版は供給元もあってか、長らくその機会を得られずにあった。だが2019年、『アーケードアーカイブス VS. バルーンファイト』としてついに復刻。2025年現在もNintendo Switchでプレイ可能となっている。
前述したように操作感は、特にファミコン版経験者ほど戸惑いやすい。ステージの広さもあって難易度も気持ち高めである。しかし、ステージが広いなりの開放感はアーケード版ならでは。まさにもうひとつの『バルーンファイト』とも言えるタイトルで、ファミコン版を遊び、その違いに関心を抱いたのなら、プレイしてみていただきたい1本である。

ちなみに前述の「社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(その2)」では、ファミコン版『バルーンファイト』が『スーパーマリオブラザーズ』に与えた影響について語られている箇所がある。詳しい内容はリンク先参照ということでカットするが、読めばあらためてファミコン版『バルーンファイト』の功績の大きさを認識させられるだろう。
「バルーントリップ」を発展させる試みに挑んだ『Balloon Kid』……ではなく?
ファミコン版『バルーンファイト』で追加された「バルーントリップ」とは、左強制スクロールのステージ上を飛びながら風船を割り、雷を回避しながらどこまで得点(スコア)を伸ばせるかに挑む1人用のゲームモードだ。

この「バルーントリップ」をひとつの横スクロールアクションゲームとして確立させようとする試みが、ファミコン版発売から6年後の1990年に成された。それが続いてピックアップする、ゲームボーイ向けタイトル『Balloon Kid』……なのだが。
実は『Balloon Kid』は日本未発売。当初は『バルーンキッズ』の邦題で発売がアナウンスされていたが、最終的に立ち消えとなり、海外限定で展開されたタイトルとなってしまった。
しかし、実は『Balloon Kid』は姿を大きく変えて1992年にファミコンで発売された。それこそが、あらためて『VS.バルーンファイト』に続いてピックアップする『ハローキティワールド』。サンリオの人気キャラクター「ハローキティ」が主人公のアクションゲームである。

本作は任天堂ではなく、当時、サンリオキャラクターをテーマにしたゲームを展開していたキャラクターソフトより発売。しかし、ゲームの開発には任天堂が深く関わっている(※本編では「株式会社マリオ」名義)。事実、本編の音楽は『バルーンファイト』の楽曲を手がけた田中宏和氏が担当した。
『バルーンファイト』でゲームデザイン兼グラフィックを担当された坂本氏も、特別協力(スペシャルサンクス)として参加していて、エンディングのスタッフクレジットにしっかりと名前が出てくる。なお、ゲーム部分の開発は『ふぁみこんむかしばなし 新・鬼ヶ島』『MOTHER』などを代表作とするパックスソフトニカが手がけている。
そのため、本作はれっきとした『バルーンファイト』の血筋に当たる作品である。ただ、ゲーム内容は大きく変わり、左強制スクロールで進むステージを進み、ゴールを目指すというステージクリア型アクションゲームに一新されている。これは元の『Balloon Kid』も同じである。

アクションも風船による空中浮遊はそのままに、風船を離す、風船を膨らまして再度浮遊するという新種を追加。陸地でも風船なしの状態からのジャンプが可能になった。それに伴い、風船がない状態での突破が試されるという場面も新たに用意されている。ステージにも新たにボス戦が追加。偶数台のステージ終盤に登場し、相手の隙を見計らって踏みつけ攻撃を仕掛けていくという、純粋な戦闘が繰り広げられる。
まさに前述のとおり、「バルーントリップ」をひとつのアクションゲームへと確立させた内容である。ステージも山あり谷ありで変化に富んでおり、アクションゲームらしさを感じられる作品に仕上げられている。ある意味では、「バルーントリップ」の可能性を広げた作品とも言えるだろう。
ただ、難易度は思いのほか高い。キャラクターの当たり判定がやや広かったり、陸地でのジャンプの挙動に独特のクセがあるなど、意図しないミスを誘発する要素の存在が影響している。加えて、ゲームオーバーになってもコンティニューできるのは1回だけ。2回、ゲームオーバーになれば、なんと最初のステージからやり直しだ。

その特徴もあって、ハローキティのかわいらしさに釣られて手を出すと、痛い目に遭う。とは言え、「バルーントリップ」を正統派アクションゲームへと改めた作りは、左強制スクロールというスタイルも相まって独自の個性を放っている。なにより風船を離す、膨らませるという新アクションによって、テクニカルな立ち回りができるようになっているところは見逃せない。
いずれの要素も前述したようにすべて『Balloon Kid』由来のもの。だが、日本では同作が発売されなかったこともあって、この『ハローキティワールド』が『バルーンファイト』の可能性を広げた作品のひとつになった。

なお、『Balloon Kid』はその後、ゲームボーイカラーへの対応とセーブ機能の追加を図った『バルーンファイトGB』として日本でも2000年に発売された。ただし、コンビニエンスストア「ローソン」で展開されていたゲームソフト書き換えサービス「NINTENDO POWER(ニンテンドウパワー)」専用の新作としての供給だったため、広く世に宣伝されたわけではなかった。
一応、2011年にはニンテンドー3DSのバーチャルコンソール版として『バルーンファイトGB』が復刻された。ただ、2023年をもって「ニンテンドーeショップ」のサービスが終了してしまったため、2025年現在は新規の購入が困難になっている。『ハローキティワールド』も復刻が実現していないため、現行の環境で遊ぶことはできない。
それもあって、『VS. バルーンファイト』とは対照的すぎる状況にある作品だが、それでも「バルーントリップ」を純粋なアクションゲームへと発展させた作りは一見の価値がある。「バルーントリップ」にハマった人なら、その進化の可能性のひとつを見る目的で体験してみてほしいタイトルである。
さらなる関連タイトルたちがある中でも、ファミコン版『バルーンファイト』は今後も象徴となり続ける……?
『バルーンファイト』は、ここまでピックアップした2+1タイトルのほかにも『チンクルのバルーンファイトDS』、Wii Uの『Nintendo Land』に収録された『バルーントリップ ブリーズ』なるものが存在する。
なお、『チンクルのバルーンファイトDS』は、本作が出た2007年当時に任天堂が展開していた会員制サービス「クラブニンテンドー」の会員限定で配布された非売品。2025年現在は、ときどき中古市場で目にすることができる。

内容は初代『バルーンファイト』をベースに、プレイヤーキャラクターを『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』などに登場した自称妖精の35歳男性「チンクル」へと置き換えた事実上のリメイク。ただ、ステージが上下2画面ぶち抜きの構造で、操作感もコントロールしやすい手触りであるなどと、アーケード版とファミコン版のいいところ取りとも言える作りが光る。
音楽をオリジナル版の楽曲に変更するオプションも実装しているほか、最大4人のマルチプレイも楽しめるなど、なかなか侮りがたい見どころを持った仕上がりなので、これもどこかで目にする機会があれば遊んでみてほしい1本だ。
ほかにも『バルーンファイト』には、海外専売のゲーム&ウオッチ版などといったシリーズに等しい作品や原型になったとされるタイトルが存在するが、ここでは割愛する。
2025年現在、『バルーンファイト』はアーケード版とファミコン版の双方がNintendo Switchで遊べる。また、2024年発売の『Nintendo World Championships ファミコン世界大会』にも、競技タイトルのひとつとして『バルーンファイト』があり、全7種類のタイムアタック課題が用意されている。

40年を迎えてもなお、ファミコン版『バルーンファイト』の存在感は大きいままで、他のシリーズに当たる作品は体験機会の少なさから、マイナー色が濃くなっている。また、2025年はファミコン版のプログラムを手がけた岩田氏の没後10年を迎える年。その代表作のひとつとして、再注目が集まると思われる機会を控えている。
それでも、『バルーンファイト』は『ハローキティワールド』に『Balloon Kid』こと『バルーンファイトGB』などといった、シリーズとして歩もうとした歴史があったことも本稿を通して記憶に留めていただければと思う。
これは筆者個人の思いになるが、いつか『ハローキティワールド』および『バルーンファイトGB』のように、横スクロール型アクションとしての発展をテーマにした新作、あるいはリメイクを小規模なダウンロードソフトでもいいので、見てみたくもある。
『ハローキティワールド』および『バルーンファイトGB』の惜しい点で、全体的なフレームレートが低く、スクロールがガクガク気味というのがあった。そこをより滑らかにし、遊びやすくてやり応えも十分な最新版を出せないものかと思うのである。
一応、『Nintendo Land』の「バルーントリップ ブリーズ」がそれに当たるが、こちらは操作系がWii Uゲームパッドを用いる特殊なものである都合、『ハローキティワールド』および『バルーンファイトGB』の最新版というには際どい。

それに『バルーンファイト』は、対戦&協力型ゲームとしてのもうひとつの顔も持っていた。しかし、そのテーマは意外にも後発の作品で掘り下げられてない。そのため、発展の余地があるのではと考えてしまうのである。
今後も『バルーンファイト』は、ファミコン版が象徴的存在の立ち位置を維持し続けるのだろうが、そろそろ“進化”があってもいいのではないだろうか。もう誕生から40年である。この名作に新たな可能性が提示される日をほんのちょっぴり、心待ちにしたいこのごろだ。
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