「文化的視点から見たビデオゲームの現在地」を伝えるために――NHKスペシャル『ゲーム×人類』総合演出兼ディレクター・平元慎一郎が語る“50年の成果と未来”

平元慎一郎が語る“ゲーム50年の成果と未来”

 2025年1月25日から2日間にわたって放送されるNHKスペシャル『ゲーム×人類』。本番組は、2021年からNHKで制作・放送されてきた『ゲームゲノム』とは異なる視点に立ち、「ゲームと人類の現在地や未来」を掘り下げるドキュメンタリーである。

 本番組の総合演出とディレクターを担当したのは、20回以上にわたって『ゲームゲノム』を制作し、ジャンルやプラットフォームの垣根を超えてゲーム作品の魅力を視聴者に訴えかけた平元慎一郎氏だ。

 「ビデオゲームを今一度、俯瞰して見つめる必要があった」と話した平元氏。今回は『ゲーム×人類』の放送を前に、制作を決意した理由やコンセプト設定にまつわる経緯……等々、番組を通して視聴者に伝えたいメッセージとは何なのかを伺った。(龍田優貴)

人類にとってビデオゲームはどのような存在かを捉え直す

――平元さんは『ゲームゲノム』でもディレクターを担当されています。新たに『ゲーム×人類』の制作にいたった経緯を教えてください。

平元慎一郎(以下、平元):もともと『ゲームゲノム』を制作するうえで大事にしたのは、ゲーム作品をひとつずつ丁寧に深掘りし、その魅力を視聴者のみなさんにお届けすることだったんです。それらを丁寧に積み上げていくことで、ゲーム作品が持つ多種多様なエンターテイメント性をお伝えしようという意図がありました。

 一方で、「ビデオゲームを取り巻く環境を俯瞰する必要がある」ことも感じていたんです。市場規模、作り手と受け手の関係性など、ビデオゲームが勃興してから半世紀近くたった現在はどうなっているのか。個人的にはずっと興味がありました。

――『ゲームゲノム』とは異なる視点からゲームシーンを考えたかったということでしょうか。

平元:そうですね。1年ほど前になりますが、普段は報道系の番組を作っていて、過去『ゲームゲノム』を担当したディレクターがちょうど自分と同じことを考えていたらしく、企画書を持って来てくれたんです。そこであらためて『ゲームゲノム』の制作チームとも相談した結果、「NHKスペシャルでゲームを網羅的に扱いたい」ということが決まり、僕も加わって企画書を練り直したのが最初の経緯です。

――番組名にもなっている「ゲーム×人類」というコンセプトはどのように決まったのでしょうか。

平元:最終的な番組名はもう何周も議論を重ねて決まったことなんですが、「ゲーム×人類」というコンセプト自体は最初からあったんです。ゲームというエンターテイメントは我々人間にとってどのような存在で、経済面やプレイヤーの心理にどう影響しているのか。こうした疑問を踏まえつつ、歴史的な視点も考慮してゲームを紐解こうと考えました。

――『ゲームゲノム』と同じチームで制作に臨んだと伺いましたが、「ゲームを俯瞰する」といった方針のもと、取材はどのように進められたのでしょうか。

平元:自分は今回も総合演出とディレクターを兼務させていただきましたが、実際に制作を進めていくにあたり、たくさんの部署からスタッフが集まってくれました。具体的には、「ゲームゲノム」チームに加えて、首都圏局や報道局の政経国際番組部、社会番組部などですね。実際に番組をご覧になっていただくと分かるかと思いますが、国内外のさまざまな場所へ取材に行き、現地で得られた情報を1本にまとめるのが大変でした。

 各ディレクターごとに取材や映像作りのテイストは違うものの、我々としてもあらゆる情報をギュッと凝縮し、大きなストーリーに仕立ててお届けできるよう2本シリーズで構成しました。マニアックな視点かもしれませんが、PARTⅠとPARTⅡの両方でそうした「制作陣のカラーの違い」も意識して見ていただけると、さらに『ゲーム×人類』が楽しめると思います。

単なるデータではなく、「キラキラ・ギラギラしたもの」からゲーム市場に迫りたい

――『ゲーム×人類』は2本の番組に分けて異なるテーマが設定されています。そこでまずは、PARTⅠに関する制作方針を教えてください。

平元:ゲームと人類の現在地や関係性を探るにあたって、最初にプロデューサーやディレクターに集まってもらいました。そこで総合演出の立場からお伝えしたのが、「分かりやすい数字や現場から攻めるのはやめませんか?」ということだったんです。

ーー「分かりやすい数字や現場」と言うと、市場規模を表すデータなどでしょうか。

平元:最初にシンプルな数値データから取材すると、大企業や有名なeスポーツ大会がメインの現場になってしまうと思ったんです。それが悪い、というわけではないんですが、詳しい人から見れば「そんなの知っていて当然」といった感触になってしまうというか、わざわざ取材する意味が弱まるのでは、という危惧がありました。なので「ゲームと人類の現在地」を掲げるうえで、まずはキラキラ・ギラギラしたものを見つけてこようと考えたんです。多少ゲームやゲーム業界に詳しい僕たちもまだ見たことのない景色を見にいこう、というスタンスでスタートしました。そのうえで俯瞰した視点や情報とあわせて構成することでゲームに詳しい人もそうでない人も見ごたえのある番組になると思いました。

 PARTⅠの冒頭で『東京ゲームショウ2024』に出展した「集英社ゲームズ」さんの取り組みを紹介したのも、そういった意図があったからです。ゲーム市場の規模感をグラフ等で表すのは簡単ですが、それだけだとつまらないですから。出版業界からゲーム市場に参入した彼らの背中を追いかけ、クリエイターを発掘しようと奔走している情熱が映像をギュッと締めてくれると考え、取材を決意しました。

東京ゲームショウでクリエイターと話す集英社ゲームズのスタッフ
東京ゲームショウでクリエイターと話す集英社ゲームズのスタッフ

――取材を通して、平元さんの中でゲーム市場に対する認識の変化はありましたか。

平元:大手出版社がそれぞれゲーム市場にきちんとした形で参画し、民放さんもゲーム部門を立ち上げていることは存じ上げていましたが、取材を通してやはり驚きを感じましたね。

 ただ、それでいて当然だと感じる部分もあって。ゲーム市場はパイが巨大で、将来性は未知数ながらも、才能と努力に裏付けられたクリエイターが実際に夢を掴むこともできる。それでいてリターンも大きいとなれば、各企業が培ったノウハウを携えて市場に参入する現状は自然の流れかと思います。

 従来になかった新しい場所からいろいろな作品が生まれて、ネット販売などを通して世界中のプレイヤーの手元に届き、遊べるようになっている現状がある。自分も一人のプレイヤーとして、取材映像をわくわくしながら眺めていました。

――PARTⅠでは「eスポーツ」というキーワードのもと、ブラジル出身の若手プレイヤーに着目しています。国内ではなく、海外に焦点を当てた意図について教えてください。

平元:eスポーツは現在のゲーム市場や文化を語るうえで外せないなと感じました。しかし先ほどお話したとおり、「いまはeスポーツが盛り上がっている」という言説はもう散々いろいろな場所で言われてきたことです。なので「キラキラ・ギラギラしている、ドキッとする現場はどこなのか」と考えた際、eスポーツが興味深い形で浸透しているブラジルのファベーラに目星をつけました。

サッカーではなくゲームに夢見るブラジルの子どもたち
サッカーではなくゲームに夢見るブラジルの子どもたち

――興味深い形と言うと、単に「賞金を稼いで成り上がった」というケースにとどまらないのでしょうか。

平元:プレイヤー自身がeスポーツ大会で結果を残して成功するという文脈もありますが、「eスポーツ活動を通して貧困街から抜け出す」という部分に驚きを覚えたんです。もちろんプロゲーマーの方々は日本や欧米など世界中にいてリサーチすることもできましたが、工夫をしないとただの「華やかな映像」にしかならないと直感的に感じまして。なのでeスポーツの影響力がどこまで及んでいるのかをNHKスペシャルで描き切るべく、今回はブラジル出身のeスポーツプレイヤーやゲーマー養成所を取材させていただきました。

――PARTⅠは他にも『コーヒートーク』など、複数のインディーゲーム作品を踏まえて「ゲームが持つメディアとしての役割」にフォーカスしています。あらためて取材にいたった経緯をお聞かせください。

平元:インディーゲームは『ゲームゲノム』でも何度か取り上げてきましたが、ここ5年ほどのゲーム市場でのインパクトも大きく、『ゲーム×人類』でも焦点を当てることにしました。

 たとえば『コーヒートーク』の場合、インドネシアのデベロッパーが世界中のプレイヤーに響くヒット商品を生み出したという大前提があります。その中でも自分が惹かれたのは、渋谷パルコで開かれた同作品の「コラボカフェ」なんです。

 ちょうど取材を始めたころに知ったのですが、約1ヶ月の間イベントがあったと聞き、「どういうことなんだろう?」と。商業的な側面だけでなく、「イベントに集まるお客さんは何を求めてコーヒートークの世界に浸っているんだろう」という純粋な興味が湧いて、本格的な取材の出発点になりました。

コーヒートーク
コーヒートーク

――『コーヒートーク』のビジネス的なヒット以上に、いかにしてプレイヤー心理に影響を与えたのかが気になったのですね。

平元:おっしゃるとおりです。まさにコラボカフェを訪れた方々に取材をさせていただきましたが、みなさん「自分だけの心に『コーヒートーク』が刺さる部分があった」と話してくださったんです。やはりインディーゲームはクリエイターが抱える想いが色濃く反映されていて、受け手となるプレイヤーの心にダイレクトに影響を与える傾向があると感じました。こうした仮説もあり、インディーゲームの潮流を描くためにもインドネシアへ飛び、クリエイターに直接尋ねる取材方針を採りました。

 そして、音楽や映画に本など、ビデオゲームに限らずエンターテインメントコンテンツはメディアとしての力も持っています。それが現代社会においてさまざまな使われ方をしている。番組内ではロシア政権下におけるゲームクリエイターの姿勢も描きましたが、『コーヒートーク』を遊んで心境に変化があったプレイヤーの話題を含め、ビデオゲームという存在そのものが”人間社会の写し鏡”になっているのだと感じました。

渋谷で開かれた「コーヒートーク」のイベント
渋谷で開かれた「コーヒートーク」のイベント

――ポジティブとネガティブの両側面を真摯に捉え、視聴者に問いかける構成にしたということでしょうか。

平元:はい。個人として「ビデオゲームはこうあってほしい」といった気持ちはあるものの、「現実を伝える」という観点に立ち、あくまでもフラットにお伝えできるよう細心の注意をはらって『ゲーム×人類』を制作しました。

ゲームと人類の現在地を掴むため、一歩踏み込む必要があった

――PARTⅠがインディーゲームやeスポーツからゲーム市場を捉えていたのに対し、PARTⅡでは「ゲームが人類にもたらす変化」という部分が押し出されていたように見受けられました。

平元:ゲームはビジネスシーンだけでなく、私たちが暮らす社会や個々人の心、もっと言えば人生にまで影響を及ぼしています。なのでPARTⅠだけで終わらせるのはもったいないなと。ゲームと人類の現在地をより考えぬくためには、もっと踏み込む必要がある。その先に輝くものがあると信じて取材を進めました。

――PARTⅡでは冒頭にて、全盲の『ストリートファイター6』(スト6)プレイヤーにスポットライトを当てています。取材対象者として伺った経緯について教えてください。

平元:これはシンプルに、「全盲で実績を残しているeスポーツプレイヤーって、どんな方なんだろう?」と気になったのが全ての始まりですね。試しに『スト6』を『ゲームゲノム』で取り上げた際のディレクターに聞いてみたところ、「想像もつかない」と返事をもらったんです。

 昨今は障害のある方々が使いやすいように配慮したコントローラーをはじめ、プレイ環境に対する考え方も進化してきたように見られます。そのため今回も珍しい事例ではなくなってきた象徴だと思いましたが、それにしたって「目がまったく視えない状態で格ゲーをプレイできるって、どうして可能なんだろうか?」と、強く興味を惹かれたところから取材がスタートしました。

全盲の格闘ゲームプレイヤー
全盲の格闘ゲームプレイヤー

 そして分かったのは全盲の方でも『スト6』をプレイできるのは、なにも偶然の産物ではないということです。詳しい内容はぜひ番組をご覧いただきたいのですが、数十年にわたって「ストリートファイター」を遊び続け、プレイヤー自身のたゆまぬ努力があったからこそ、eスポーツプレイヤーとして結果を残すことができた。我々がこれまで想像しなかった「ゲームが人を変える」実例であり、もしかしたら今後もこういったことが起きるんじゃないかと感じましたね。

――全盲のeスポーツプレイヤーをはじめ、PARTⅡにて『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)を取り上げたのも興味を惹かれる事例があったからでしょうか。

平元:PARTⅡでは『FF14』を取り上げるにあたり、最初に注目したのは「ゲーム内で故人のために葬儀が開かれた」というニュースでした。実は「ゲームゲノム」で『FF14』を特集した際にも紹介はしたのですが、今回はより深くまで取材を行っている形です。一方で、NHKスペシャルで『FF14』を扱うなら、いきなり葬儀の話題に触れるのではなく、まずは「『FF14』はどんなゲームで、どのようなプレイ体験が待っているのか」ということを視聴者の皆さんへしっかりとお伝えしたいと思いました。

 そこで、『FF14』を通じて知り合い結婚したカップルを取材させていただきました。『FF14』はMMORPGで、プレイヤー同士のコミュニケーションや信頼関係が色濃く反映される作品だと思っていて。「ゲームが人生を変えた」ケースとしてお二人の現在を描くことにしました。

ファイナルファンタジーXIV
ファイナルファンタジーXIV

――葬儀と婚姻。ある意味で正反対のケースを並べたことで、『FF14』のプレイ体験がより鮮明に映ったのだと思われます。

平元:『FF14』を通じて葬儀が行われたり、プレイヤー同士が現実で結婚したりするという事実は、経験がない方々からすると少なからず驚くかもしれません。とはいえ、決してレアなケースでもないと思っています。

 純粋にゲームを楽しみたい・コミュニケーションを交わしていろいろなプレイヤーと仲良くなりたいといった目的のもと、画面の向こう側には血の通った人々が大勢集っているわけで。一緒にプレイするうち、友人になったり恋愛関係に発展したりするというのは、職場や趣味のサークルといったリアルのコミュニティと本質的には同じですよね。

オンラインゲームで出会い結婚した夫婦
オンラインゲームで出会い結婚した夫婦

――PARTⅡの後編では、『マインクラフト』(マイクラ)を介して作られた「無検閲図書館」が登場します。どのような意図で取材にいたったのか、経緯を教えてください。

平元:報道の自由が厳しく制限されながらも、ジャーナリストの方々が必死の思いでゲームの可能性を模索し、人々の心に訴えかける取り組みを行っている。彼らの意義を知り、自分も直感的に「取材するべきだ」と強く感じましたね。

 番組内でも触れていますが、無検閲図書館を訪れた人々は、すでに2500万人を超えています。ジャーナリストの姿勢や取材で得られた情報が集積され、社会に向けて重要な問いかけをしているのは間違いないと思います。こうしたケースもまた、「ゲームは現実の写し鏡」と言えるかもしれません。

“無検閲図書館”の中に置かれた記事
“無検閲図書館”の中に置かれた記事

――プレイヤーの独創性を自由に発揮できる『マイクラ』だからこそ、実現できたプロジェクトなのではないでしょうか。

平元:僕もそう感じています。ブロックを用いてさまざまなものを作ることができ、インターネット空間に公開して誰かに遊んでもらうこともできる。時間や空間を超えて個々人のクリエイティビティを世界中にシェアできるという点を鑑みると、『マイクラ』が積み上げてきた文脈と国境なき記者団が掲げる「報道の自由」がうまく融合したのだと思います。

「ゲームはもうここまで来ている」事実を知ってもらいたい

――ここからは、総合演出を担った平元さんの視点から「ゲーム×人類」のスタジオ作りや収録時のエピソード等をお聞かせください。

平元:『ゲームゲノム』に引き続き、今回もナビゲーターとして三浦大知さんが出演しています。昨年の東京ゲームショウで公開収録もさせてもらいまして、番組内のナレーションも含め、三浦さんには『ゲーム×人類』を引っ張っていただくキーパーソンになっていただきました。

 ほかにも収録面でこだわったポイントと言えば、映画撮影などで使われるLEDウォールを使って、インカメラVFXという手法を活用したことですね。『ゲーム×人類』ではモニターを単なる出力装置としてではなく、モニターの前に立った被写体と映像がカメラ視点と連動するように制作しています。

 「スタジオの中にセットがあって、演者が周りを囲んでいる」……というものより、「無数のゲーム画面が浮かんでいて、その真中で三浦さんが佇んでいる」といったイメージに近いかもしれません。あの空間を個人的には「電子遊戯の海」と呼んでいて、さり気なく『ゲームゲノム』のイメージカラーでもあるピンクと水色をアクセントに加えていたりもします。

古今東西のゲームに囲まれた番組ナビゲーターの三浦大知
古今東西のゲームに囲まれた番組ナビゲーターの三浦大知

――映像を拝見しましたが、多種多様なゲーム作品の映像が映し出されていて、ミュージアムのような印象を受けました。

平元:幕間に挿入しているシーンのことですね。おそらく1回分につき、50近いゲーム画面が表示されていると思います。

 と言うのも視聴者の方々には、「この作品知ってる! そう言えばいまのゲーム業界ってどうなっているの?」という風に、興味のあるゲーム作品から番組の内容に興味を持ってもらいたかったんです。なので実現にあたって国内外たくさんのメーカーさんにご協力をいただきました。みなさん快く引き受けてくださり、古今東西のさまざまな作品が一堂に会する壮観な映像になったのではと思います。

――ジャンルを問わずさまざまな作品が集っている点で、カオスな作りになっているのですね。

平元:美麗なグラフィックが目を引く3Dアクションゲームもあれば、『コーヒートーク』のように2Dドットが主体のインディーゲーム作品も出てきますし、一概に同じ印象を受けることはないと思います。もちろん番組の制作サイドとしても、それぞれ異なるメッセージを織り込みつつ、ワンカットも見逃せないような映像作りを心がけました。

 あとこれは裏話になりますが、このスタジオの映像制作には「Unreal Engine 5」が使われているんです。

――ゲーム制作に用いられる開発エンジンが、『ゲーム×人類』の要になっていたと。

平元:自分も、このスタジオのイメージを技術局のCGスタッフに伝え、作られたデモを見せてもらったときに驚いたんです。番組内でもゲームエンジンにまつわる話が出てきますが、我々のようなテレビマンが新しい映像表現を試みたいと考えたときに、ビデオゲームが培ってきたテクノロジーが番組制作につながることに感慨を覚えました。聞けば今回に限らず、テレビ番組のCGを作る際にゲームエンジンが使われるのは当たり前のようですね。ゲームエンジンに汎用性があったり、機能が段々とアップグレードされたりしている点を鑑みても、ビデオゲームは本当に身近で力強い存在だと思いました。

――では最後に『ゲーム×人類』の見どころについて、総合演出を努めた平元さんからお聞かせいただければと思います。

平元:これはNHKに限らず全てのテレビマンが抱いている覚悟だと思いますが、どんな番組であれ、まずは「伝える価値があるものを一生懸命に視聴者へ届ける」ことにチームで魂を懸けて作りました。そうした前提がありながらも、昨今はテレビそのものが厳しい時代に入って久しい。この問題はきっとさまざまな要因があって簡単に解決することではないと思うのですが、それでも「やっぱり一人でも多くの人に番組を見てほしい」と常日頃から考えています。

――平元さんの髪色がピンクと水色になっているのも、そうした覚悟の現れなのでしょうか。

平元:そうですね(笑)。覚悟というほど大したことでもないですが、「もうここまでしないと見てもらえないのではないだろうか」と。この記事を読んでいただいた方が少しでも番組に興味を持ってもらえたら、という感じでしょうか。ギョッとされてしまうかもしれませんが(笑)。ただ決してテレビ業界やNHKを卑下しているわけでもなく、何かがフックになって番組を見ていただけるのであれば、自分は何でも挑戦するという姿勢です。

 これは単に視聴率がどうとかそういう問題ではなく、『ゲームゲノム』でも論じたように文化的視点から見たビデオゲームの素晴らしさだったり「ゲームはもうここまで来ているんだ」という驚きや可能性も含め、みなさんに知っていただきたいからなんです。そのために我々は番組を作っていると言っても過言ではありません。

――『ゲーム×人類』とは、平元さん自身が衝撃を受けたビデオゲームの現在を、番組を通して多くの人々に掴んでもらいたいといった意思の結晶だという風に感じました。

平元:僕だけでなく、チーム全員の衝撃ですね。そういった意味では、手前味噌ではありますが、『ゲーム×人類』は49分×2本という限られた時間ながらもかなりドキドキするような構成になったと自負しています。ゲームが好きな人やそうでない人、たとえば何年間もビデオゲームを遊んでいない方にこそ見ていただきたくて。

 あらゆるメディアに勝るとも劣らないビデオゲームが、どのような人々によって作られ、いかにしてプレイヤーの心を動かしているのか、そして人間の可能性にどんな形で影響を及ぼしているのか。先ほどもお話したとおり驚きの連続だと思いますので、純粋に「見逃してほしくない」と感じております。『ゲーム×人類』という番組名にならい、全人類……とは言いませんが、とにかくたくさんの方に視聴していただきたいですね。

番組情報

NHKスペシャル 「ゲーム×人類」 PARTⅠ 30億人の熱狂と未来
総合 1月25日(土)午後10時~10時49分
NHKスペシャル 「ゲーム×人類」 PARTⅡ 変貌する人間と社会
総合 1月26日(日)午後9時~9時49分

※各放送から1週間は「NHKプラス」で見逃し配信を行います。

PARTⅠ
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2025012531019?playlist_id=1dbd6864-93b3-4f23-8af6-8b8a1e455af3

PARTⅡ
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2025012631994?playlist_id=1dbd6864-93b3-4f23-8af6-8b8a1e455af3

NHKが手がける“異色のゲーム番組”に込められた創意工夫 『ゲームゲノム』総合演出兼ディレクター・平元慎一郎が目指す「『ゲームは文化』が当たり前の未来」

『ゲームゲノム』で総合演出を務める平元慎一郎氏にインタビュー。制作時のこだわりや作品の選定基準、視聴者から寄せられた反響に対する…

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