巨大なゲームコミュニティはどう発展し、維持されるのか? 2つの“成功例”に見る「身内ノリ排除」と「トラブル防止」の重要性

Discordによる「ゲームを通じたオンラインコミュニケーションの変革」をテーマとしたトークセッションが、昨年12月に開催された。登壇したのは、Discordで日本人を中心にそれぞれ数万人規模のゲーム関連サーバーを運営しているコミュニティマネージャーのベックスドラ氏(Valorant-JP オーナー)とみずイロ氏(Overwatch 2-JP 管理人、GAMEZINE編集長)、そしてDiscordにてユーザー・エクスペリエンスリサーチャーを務めるアレックス・リー氏。巨大なコミュニティを管理・運営するノウハウや日本におけるオンラインコミュニティの現在などについて議論した。
Discordとの出会いはベックスドラ氏が『マインクラフト』のオンラインサーバー、みずイロ氏がeスポーツのコミュニティ大会開催にあたっての運営ツールとしての登録と、それぞれに違いはあるものの、「僕の作った世界であるサーバーで、知らない人同士が仲良くなって、すぐに友だちになっている。そうした光景を見るとテンションが上がる」(ベックスドラ氏)「ゲームが長く続いて、より長く私がゲームを楽しめるようになったらいいなという思い」(みずイロ氏)と、現在のサーバー運営に対するモチベーションはコミュニティ発展への思いだ。そして、そうした情熱を持つユーザーにとって、Discordは便利なツールであり続けているということでもある。

「当初は大会用のツールとしてIRC(インターネット・リレー・チャット)でチャンネルを作っていましたが、『ボイスチャットとテキストチャンネルが一緒の方が楽』ということになり、Discordを選ぶことになりました。大会運営の都合でチャンネルを大量に作る必要があるときに、Discordはかなり自由度が高いんです。
もうひとつお話しておくと、大会運営のいわゆる“身内サーバー”のようなものがあって、そちらもDiscordを利用しています。チャンネルを自由に作れて、かつ無料。ゲームユーザーとしてすごく使いやすかったっていうのが大きいですね」(みずイロ氏)
それぞれのサーバーでは、どちらも一緒にプレイする人を探すことに主眼を置いている。特に協力対戦をメインとするゲームでは、ソロでプレイしてもうまくいかず、プレイ意欲が削がれてしまうという事態が(特に初心者には)往々にして発生する。そうした理由による機会損失を避けるという意味でも、彼らのサーバーがゲームの継続的な発展に寄与している側面は非常に大きいと言えるだろう。
また、サーバー運営における悩みを問われたベックスドラ氏は「参加してくださるユーザーの方に自主的に動いてもらうことが難しい」としつつ、「コミュニティにおける村社会というか、身内が固まってしまうと新規の方が入りづらい環境になってしまう」と、表裏一体の現象も指摘。「村社会や身内話が発生しないようにルールを決めたりした方が、新規の方も会話に参加しやすくなるし、話が盛り上がる」と、対策についても語っている。一方でみずイロ氏も「本来は運営がなにかやるというよりは、(参加者から)自主的になにかが巻き起こっていくのがコミュニティのいいところ」と理想的な運営について持論を述べていた。

運営について気になるのが、巨大なコミュニティになるほど避けられない、参加者同士のトラブルの解決法だ。ベックスドラ氏は「僕には小学生の小さい妹がいるんですが、その妹が参加してもいいくらいのコミュニティを作っています。『家族が入っていい』はかなりハードルが高いです」とポリシーを明かし、「暴言や不適切発言には厳しくしていて、まずはbotで97%くらいは自動削除できるんです。残りの3%はボランティアの運営スタッフの方が数十分以内に対処しています」と、発生を未然に防ぐ、あるいは即座に対応する重要性を強調。さらに、ルール違反者報告用のチャンネルも設け、ルールの抜け穴やギリギリの発言・行為をするユーザーへの対処も行うことで、治安を保っているとのことだ。
みずイロ氏も「基本的に同じ仕組み」としたうえで、「ボイスチャットの暴言も結構増えている」と昨今の傾向に言及。その際の対処については「基本的には喧嘩両成敗。両方にちゃんとペナルティを課す。私たちの場合は一発でBANではなく、まずタイムアウト(一時利用停止)にしています。1週間のタイムアウトで様子を見て、復帰後に2度目があったら“2枚目のイエローカード”としてBANします」とし、さらに「XのDMで反省文を書けば復帰できるシステムもあります 」と、常に更生の余地を残すシステムを採用している。まさに両者の色が出るところでもあり、完全な正解がないからこそ、手腕が問われる部分なのだろう。
今後もDiscordがゲームコミュニティの発展に果たす役割は大きくなっていく一方だと予想され、そのなかでコミュニティの運営を担う個人の存在感も増していくことだろう。Discordサーバーでゲームを楽しむときには、そうした運営側の努力に少しでも思いを馳せるようにしていけば、ひとつひとつのコミュニティがより長く存続していくのではないだろうか。
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