洋ゲー界の雄・Obsidian Entertainmentとは何者か? 『Avowed』『The Outer Worlds 2』を手掛けるディベロッパーの軌跡

Obsidian Entertainmentとは?

 今年、Xbox Game Studiosからふたつの大作RPGが発売される。謎の疫病の正体を追いかける王道ファンタジーRPG『Avowed』と、メガコーポが牛耳る銀河系を舞台にしたブラックジョークまみれのスペースオペラ『The Outer Worlds 2』だ。

 どちらもPCゲーマーやXboxファンから注目を浴びているタイトルだが、これらの開発を手掛けているのがObsidian Entertainmentである。

 『Fallout: New Vegas』などで知られているディベロッパーだが、一体彼らはどんなクリエイター集団なのか? 彼らの経歴を追ってみよう。

参考:https://www.youtube.com/watch?v=9VoPWGTlwxc&t=397s

Obsidian Entertainment結成まで

 彼らの来歴を語る前に、Interplayというゲーム会社について語らなければならない。

 Interplayは1983年に設立された会社で『The Bard's Tale』『Wasteland』『Neuromancer』などの作品を世に送り出してきたが、もっとも有名なのはなんといっても『Fallout: A Post Nuclear Role Playing Game』(1997)だろう。

 のちにBethesda Softworksに買収されることとなるこのフランチャイズは、当時Interplayの下部組織だったBlack Isle Studiosが開発を担当した。『Wasteland』に影響を受けた独創的なRPGである本作の評価はとても高かったものの、Interplayは経営難に陥っていた。

 開発中のタイトルがキャンセルされ、自分たちのキャリアが危ぶまれていると感じたBlack Isle Studiosに在籍していたクリエイターたち(ファガス・アーカート、クリス・アヴェローネ、クリス・パーカー、ダレン・モナハン、クリス・ジョーンズ)は、独立を決心する。そうして、2003年6月、Obsidian Entertainmentが誕生した。

 彼らの始まりは非常に慎ましく、オフィス代を浮かせるため、ファガス・アーカートの家の三階に屋根裏部屋を作り、そこで最大7人がゲーム開発をしていた。しかも、ファガスの妻はこのころ妊娠中だったという。

処女作のリリース――『Star Wars Knights of the Old Republic II: The Sith Lords』(2004)

 彼らはまずLucas Artsに、ライトセーバーを用いたアクションRPGを打診するが断られる。その時点でBioWareが『Star Wars Knights of the Old Republic』の続編を製作するつもりがないことが判明し、Obsidianが開発を任されることとなった。

 『Star Wars Knights of the Old Republic』は、BioWareらしいカルマの選択が問われるRPGだ。ジェダイになることも、暗黒面に堕ちることもできる点など、あらゆる意味で現代まで評価されている作品である。彼らがのちに制作する「Mass Effect」シリーズなどにつながる要素はすでに確認できる。

『Star Wars Knights of the Old Republic』

 そして、Obsidianは15か月の開発期間を経て『Star Wars Knights of the Old Republic II: The Sith Lords』をリリース。レビュアーにも好意的に受け入れられた。この時点で開発は30人以上に膨れ上がっていた。これによってObsidianは並み居るゲーム開発会社と肩を並べたことになるが、それは同時に彼ら自身も自虐している“大作の二番手”としてのキャリアがスタートした瞬間でもあった。

『Star Wars Knights of the Old Republic II: The Sith Lords』

挫折したオリジナルタイトルとベセスダとの出会い――『Fallout: New Vegas』(2010)

 スターウォーズのRPGによって勢いづいた彼らは『Neverwinter Nights 2』(2006)の企画を任され、これをリリースする。その後もいくつかのパブリッシャーから企画が流れ込んできたが、そのなかで彼らは『Alpha Protocol』という作品を売り出すことに決めた。販売は日本のゲームパブリッシャーであるSEGAだ。

 Obsidianとしては初のオリジナルタイトルになったが、スパイフィクションという彼らが得意ではないモチーフを選んだことについて、初期メンバーのクリス・パーカーは難色を示していた。彼の予想通り、作品は賛否両論で、商業的な成功は収められなかった。

『Alpha Protocol』

 『Alpha Protocol』の開発が難航していた2009年、彼らのキャリアを決定的に変える出会いが訪れる。Bethesda Softworksとの出会いだ。

 もともとBlack Isle Studios時代に『Fallout 3』を開発するチャンスが訪れていたが、Interplayの財政難でこれは叶わなかった(彼らが作ろうとしていたタイトルは『Fallout 3 (Van Buren)』として知られている)。

 Bethesda Softworksの完全なバックアップの下、彼らは『Fallout: New Vegas』を完成させる。現在に至るまでもObsidianのもっとも素晴らしいタイトルだと豪語するプレイヤーも多く「Fallout」シリーズのなかでもファンの多い一本だ。

『Fallout: New Vegas』

財政難とオリジナルタイトルへの再挑戦――『Pillars of Eternity』(2015)

 ある日、ファガス・アーカートのもとに電話がかかってきた。South Park Digital Studiosの人物だと名乗ったが、彼は最初ただのいたずら電話だと思った。しかし、それはいたずら電話などではなく、サウスパークのRPGを作ってほしいという依頼だったのだ。

 紆余曲折あり、彼らはTHQをパブリッシャーとして『South Park: The Stick of Truth』(2014)をリリースしようとするが、THQが2011年に倒産。資金提供ができなくなってしまった。代わりにUbisoftが名乗りを上げてくれたが、サウスパークのRPGというビッグタイトルは何とも不安定な状況でリリースせざるを得なくなってしまった。

『South Park: The Stick of Truth』

 このころには『Fallout: New Vegas』の売り上げも尽きており、Bethesda Softworksからのボーナスも期待できない状況にあった。経営難に陥りかけていた彼らは、もう一度オリジナルタイトルの制作に乗り出すことに決める。

 当時流行り始めていたKickstarterで出資を募り、彼らは長年作りたいと考えていた『Baldur's Gate』の後継作を作り始めた。そして完成したのが『Pillars of Eternity』(2015)である。

『Pillars of Eternity』

 彼らが得意とする王道ファンタジーRPGは批評家やユーザーに受け入れられ、Obsidianは再び業界に返り咲くことになる。

 ちなみに「Pillars of Eternity」シリーズは今年(2025年)発売がアナウンスされている彼らの最新作『Avowed』と世界観がつながっているので、予習のために遊んでおくのもありだ。公式には日本語版が出ていないが、有志の日本語化MODがあるので、そちらを導入するのをオススメしておきたい。

 なお、このクラウドファンディングの成功体験からか、彼らは「Fig」という資金調達プラットフォーム事業を展開し始めることになる。ゲーム開発会社が自分たちでそういった事業を展開するのはかなり異例ではないだろうか。

Microsoftとの提携と現在――『GROUNDED』(2019)

 引きも切らせぬ巨大ディベロッパーとなった彼らは、2018年、Microsoft Studios(現Xbox Game Studios)に買収されることとなる。クリス・パーカー曰く、2012年にキャンセルとなった『Stormlands』というゲームはMicrosoftがパブリッシャーについてくれるはずだったので、そんな会社に買収されるのはいったいどうなのかという意見もあったようだが、結果としてObsidianは買収に合意することとなった。

 これにより、Obsidianの多くのゲームがXbox Game Passで遊べるようになったので、ユーザーとしては非常にありがたいところではある。

 同じ年の『The Game Awards』にて、Obsidianは『The Outer Worlds』(2018)を発表。彼らが得意とするRPGであり、メガコーポがあらゆる惑星をテラフォーミングしている遠未来を舞台に、シニカルなブラックジョークが光る作品である。本作は宇宙版『Fallout: New Vegas』と称されることもあり、彼らの新しい代表作となっている。

『The Outer Worlds』

 また、2019年には体が小さくなってしまった少年少女が虫たちと戦うオープンワールドサバイバルクラフト『GROUNDED』を、2022年には中世のバイエルンを舞台にしたナラティブADV『Pentiment』をリリース。RPG以外のオリジナルタイトルでも高評価を受けるという非常にバラエティ豊かなスタジオへと急成長しているのだ。

『Pentiment』

Obsidianのゲームはどれから遊べばいい?

 と、Obsidianの20年以上にわたる歴史をかいつまんで説明させていただいたが、ではこのスタジオのゲームは一体どれから遊べばいいのか?

 筆者の独断でいくつかピックアップさせていただいたので、ぜひとも参考にしていただきたい。

『Fallout: New Vegas』

 言わずと知れたObsidian製フォールアウト。核戦争後の社会を生き残るのが目的のオープンワールドRPGである。

 派閥クエストや、主人公の出自が自由に設定できる点、煌びやかなニューベガスのビジュアルなど、他のFalloutにはない魅力が詰まっている一本である。

 もともとFalloutシリーズはBlack Isle Studiosが開発していたわけなので、ある意味ではこれこそがオリジネーターの創作であるといえなくもない。ほぼ同時期に出た『Fallout 3』『Fallout: New Vegas』……あなたはどっちが好き?

『The Outer Worlds』

 メガコーポが支配する銀河系を冒険するオープンワールドRPG。指名手配中のマッドサイエンティストにコールドスリープから起こされた主人公が、コロニーを救う、あるいは滅亡させる選択をする壮大な作品だ。

 本作はオープンワールドではなく、いくつかの狭いマップを行ったり来たりするデザインになっており、グラフィックこそとても綺麗だが、スーパーファミコンやPlayStationのRPGを遊んでいるような懐かしい気分に浸れる。その点を評価する人も多い。

 最初から最後までしょうもないブラックジョークがてんこ盛りなので、ついつい笑ってしまうことだろう。本作はAmazon Prime Videoで配信されているアニメ『SECRET LEVEL』にも登場しているので、併せて楽しんでほしい。

『GROUNDED』

 体が小さくなってしまった少年少女が、虫と戦いながら家の庭を冒険するオープンワールドサバイバルクラフトゲーム。一本道のRPGが多いObsidianにしては珍しく、最大四人でワイワイガヤガヤと遊べる『Minecraft』ライクのタイトルである。

 アリやクモといった虫に襲われながら、夜露を飲み、草で家を建てるという『ミクロキッズ』や『スターシップ・トゥルーパーズ』のような遊びが楽しめる。彼らはなぜ小さくなってしまったのか、というストーリーもしっかりと用意されているので、RPGとしても面白い一本だ。

 以上、Obsidian Entertainmentについてまとめさせていただいた。彼らの最新作に期待が高まってきたのではないだろうか。

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