連載:あなたを作る10曲(第一回)
水溜りボンド・カンタの盟友、映画監督・竹中貞人を作る10曲とは? 映画を耳から感じるプレイリスト公開

竹中貞人のプレイリスト
1. AIMEE MANN - ONE
小学生の頃に映画『マグノリア』を観て、出会った曲です。当時はタイトルがわからなかったけど、ずっと「カッコいい曲だな」と強く印象に残っていました。この映画のサウンドトラックは、脚本を書くときに聴いていることが多いです。
『マグノリア』って、空からカエルが降ってきたりする変な映画なんです。自分が映像制作をするときも「変なことが起きる」というのは大事にしているので、同作の監督であるポール・トーマス・アンダーソンから受けた影響は大きいと思います。
2. Dark Rooms - I Get Overwhelmed
僕が作品を撮るときは真っ先にお願いしている作曲家の大橋征人という友人がいるんですが、彼と一緒にたまたま観た映画が『A GHOST STORY』でした。そんな映画の主題歌となっているのが、この「I Get Overwhelmed」です。
僕は自分の作品の中で音楽をすごく大切にしていて、観てくださった方々からも「音楽が印象的だった」と感想をいただくことが多いのですが、それは僕と一緒に作品を作ってくれる大橋くんがいるからだと思っています。
3.moderat - A New Error
これはグザヴィエ・ドラン監督の映画『わたしはロランス』の中で流れる曲です。大学院在学中に『羊と蜜柑と日曜日』という映画を撮ったのですが、それが完成した頃、大学院卒業後にどうしていくかをまだあまり考えていなくて。そんなときに参加したのが「夜空と交差する森の映画祭」でした。
その映画祭はキャンプ場で行われて、僕は自分の映画のキャストやスタッフと焚き火を囲んでお酒を飲み、映画を観ながら過ごしていました。ふとこんな時間がずっと続いたら最高だなと思ったんです。一生懸命みんなで作品を作って、それを多くの人に観てもらい、そんな日々を振り返りながら仲間と過ごす。それは幸せだろうなと。
そのときに観ていたのが、『わたしはロランス』でした。だからこの「A New Error」は、自分がこの先、映画監督として生きていけたらいいなと思ったときに流れていた曲です。自分の沸々とした想いを思い出させてくれます。
4.スパークス - So May We Start
レオス・カラックス監督の『アネット』という映画のオープニングに使われている曲です。これから映画が始まるというときに「始めるよ」とただ伝え続けている曲なんです。映画が始まるときにそれ自体を曲にするなんて、すごい発想ですよね。
『マグノリア』もそうですけど、僕は自分の作品においても遊び心を忘れないようにしたいと思っていて、単純にそういうのが好きなんです。既存の価値観を壊すような、そんなことを感じさせてくれる作品を観ると元気が出ます。
5.Justin Hurwitz - Voodoo Mama
この曲が流れる『バビロン』は、ハリウッド黄金期の映画制作の壮絶さを描いている映画です。僕もスタッフやキャスト大勢で集まって映画を撮影していると、ゾーンに入るときがあるというか、「この画を撮るためならなんでもする」みたいな気持ちになることがあって。
でもたとえば街で撮影をしていて、周りの迷惑を考えずにそんな状態になってしまったら、ダメじゃないですか。だからもちろん「なんでもする」なんてことはありませんけど、そのくらい熱量がぶつかり合うような現場は楽しいし、この世界にいられることがありがたいと感じます。そんな気持ちを思い出させてくれるのが、この曲です。
6.ナット・キング・コール - L-O-V-E
曲としてはだいぶ古いし色んな映画にも登場する曲ですが、僕の中では矢口史靖監督の映画『スウィングガールズ』の曲という印象が強くて。エンドロールで流れる曲で、多幸感にあふれているところが好きです。
子供が大人になるために踏み出す一歩が映っていることが、青春映画の見せ場だと思っていて、『スウィングガールズ』は最後のシーンでサックスを吹き終えた上野樹里さんのやり切った顔が映るところが、まさにそのポイントだと思います。
あと、映画を観て初めて恋に落ちた人が上野樹里さんなんです(笑)。だから単純に、僕が恋に落ちた瞬間に流れていたラブソングともいえます。
7.マイケル・ジアッチーノ - Married Life
映画『カールじいさんの空飛ぶ家』といえば、観た人の多くが頭に思い浮かべるシーンがあると思います。そこで流れている曲です。二人の出会いから始まり、一曲の中で人生を描き切る。それを実現しているのがまずシンプルにすごいなと。
人生を楽しむ軽やかさだけでなく、単調な日々や悲しい出来事、それを乗り越えて進む勇気みたいなところも全部詰まっていて、この曲を聴くと僕の場合はなんだか「死ぬことは怖くない」と思えるようになります。
8.ニーノ・ロータ - La Strada
イタリアの巨匠であるフェデリコ・フェリーニ監督の映画『道』の表題曲です。これは純粋に好きな曲でもあるんですけど、僕の監督作品『少年と戦車』も影響を受けている曲なんです。作中で戦車の上でキスをするシーンがあって、そのときの風景はけっこう物悲しい夕暮れで。そのシーンを撮る前から、なぜかこの曲が頭にずっと浮かんでいたんです。作品を作るときは映像を先に作るのですが、不思議なことに、映像を作る前に音楽のイメージがあるということがよくあります。
とはいえ「フェリーニの道みたいな曲を作ってくれ」と作曲家の大橋くん(2曲目のエピソードに登場)に伝えるわけにもいかないので、あれこれ言葉を尽くして相談したところ、「わかった、フェリーニみたいな感じね」と言われて……それはもう、ありがとうございますという気持ちになりました(笑)。
また、『少年と戦車』の劇場公開のときにカンタさんをはじめ、忙しい中、チームのみんなで劇場に観に来てくれてすごく嬉しかったです。
9.久石譲 - 旅路
ジブリ映画『風立ちぬ』で流れる曲ですが、前提としてこの映画のサウンドトラックは全曲好きです。どの曲にも好きな音が詰まっていて、僕が脚本を書くときにもよく聴いています。
特にこの曲は、音を極限まで削ぎ落としたようなところが好きで、品格が感じられて、戦時中に凛と立つ女性の力強さのようなものが表現されているように感じます。曲中でずっと「カナカナカナカナ……」と鳴っている音があって、その音がすごく好きです。大橋くんに「あれはなんの楽器の音なのか」と聞いたんですけど、なぜか教えてくれないんです。
僕の監督作品『羊と蜜柑と日曜日』の最後、山中湖の湖畔に藤田弓子さんが佇むシーンがあるのですが、そこで流れる曲でも同じ「カナカナカナカナ……」という音が鳴っていて、僕が好きだと言ったから大橋くんが入れてくれたと思うんですけど、いまだにそれがなんの楽器の音なのかはわかっていません(笑)。分かる人がいたら是非教えてほしいです!
10.ランディ・ニューマン - さよなら
これは僕がプレイリストを作るときに、いつも最後に入れている曲です。映画『トイ・ストーリー3』で、大学生になるアンディが親戚の少女ボニーにおもちゃを譲るシーンで流れている曲なんですけど、ウッディを渡すときだけは躊躇してしまうのとか、思い出すだけでも涙が出そうになります。
この映画が公開された当時、僕はアンディと同じくらいの年頃だったので、自分と重なるところが多かったんです。アンディは実家を出ることになって、自分の部屋を片付けるんですけど、アンディのお母さんがその部屋を見て感極まってしまうんです。まるで自分の出来事のように思えて泣いてしまいます。
この曲はそんな自立の頃を思い出して、ちょっと勇気をもらうような気持ちになる。だから今回のプレイリストでも、絶対に最後に入れようと思っていました。
普段あまり映画を観ないという方にも、このプレイリストをきっかけに「ちょっと、映画観てみようかな」と思ってもらえたら、すごく嬉しいです。
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