考えるのは常に「鋭利な刃を心にブッ刺す」こと “泣きゲー”のパイオニア・麻枝 准が貫く創作の信念

麻枝 准が貫くゲーム創作の信念

「鋭利な刃をブッ刺したい」

――麻枝さんの作品をずっとプレイしてきた人間からすると、「転生」とか「記憶の修復」とか、そういったゲームシステムについた名前も意味深で考察を誘うんです。これらも麻枝さんのアイデアなんですか?

麻枝:いや、そこはあくまでシステムの都合ありきで、ネーミングに関してもライトフライヤースタジオさんにお任せしていますね。やり込み系のエンドコンテンツについても同様です。

――なるほど。これをお聞きしたのは、麻枝さんの作品はそれこそ『AIR』のプレイヤー=主人公が最後の周回でカラスに転生するとか、『CLANNAD』だったら分岐する各シナリオで光の玉を集めて、すべて集めると2つの世界がつながるとか、ゲームシステムと連動した設定が多くあるなと思ったからなんです。

『AIR』 オープニングムービー (高解像度)

麻枝:いろいろなインタビューで昔から言っているんですけど、要は作品をプレイしたときに、その人の心にブッ刺さってほしいわけです。消費されるものであってほしくない。一生心に残る、なにかふとした瞬間に思い出すみたいな、そういう物語を作れないと自分が人間として生きている価値がないと思っていて。じゃあどういうお話だったらいいかっていうと、やっぱりそういうインパクトであったり驚きであったり、誰もが体験したことがない物語を、自分は書かないといけないと思っているんです。

 いまおっしゃられたような例にしても、たとえばミステリー小説でもそういうトリック的なことってできると思うんですよ。前半と後半でガラリと変わって、構造上すごく凝った作りになっている小説というのは世の中にはいっぱいあります。自分に文才があれば、小説という形でそれを成し得ることができたのかもしれないですけど、自分には文章力がないので、ゲームという媒体でそういうトリッキーなことをさせてもらっているというか……。逆に言えば、ゲームだからこそ自分の文章力でもできている、というのがあると思います。

――おそらく「忘れられない」にも種類があって、たとえばキャラクターがいかにも現実にいそうな感じで、「このキャラクターはまるで自分のようだ!」みたいな形で忘れられなくなる作品というのも、世の中にはたくさんあると思うんです。でも、麻枝さんの作品には――自分はそこも大好きだという前提で言わせていただきますが――言動や行動が突飛すぎて、とても共感できないようなキャラクターもたくさん出てくる。にもかかわらず、そうした仕掛けとセットになることで、決して忘れられなくなるところが唯一無二だなと思っています。

麻枝:答えになるかわかりませんが、自分はいかに鋭利な刃を相手の心にブッ刺すかということだけを考えてやっていて、多分それは時に毒にもなるんですよね。ライトフライヤースタジオさんから「もっとマイルドにしてもらえませんか」という相談もよくいただくんですけど、マイルドにすることで、本来刺さるべき人にも刺さらないようになってしまったら本末転倒。妥協したくないんです。

――麻枝さんが『ヘブバン』の開発現場を「戦場」にたとえる一端が垣間見えた気がします。本作はスマホネイティブな若い世代のユーザーも獲得していると思いますが、「若い人に刺さるように」ということは意識しますか?

麻枝:さすがにこの年齢で若い人は意識できないです。寒いと言われ続けているギャグを書き続けるのも、自分の筆を走らせるための、いわば必要悪ですね。

――とすると、麻枝さんにとってテキストはあくまで物語を伝えるための媒体であり、テキストそれ自体による表現欲求は薄いのでしょうか。

麻枝:そうですね。もし伝わるなら、音楽だけでもいいんです。ただ、物語を伝えるには圧倒的にテキストという媒体が伝わりやすいから、それに頼っているというだけで。

 シナリオライターと紹介されることも多いですが、自分の認識としてはあくまでゲームクリエイターです。シナリオライターを専門的に仕事にしている人たちのことは、常々すごいなと思っています。

――主にストーリーイベントなどで、ほかの方が書いたものを監修される立場になることもあると思います。その際にはどういったスタンスで臨んでいますか。

麻枝:自分がピンと来ないシナリオでも、世に出してみれば絶賛されることもあるので、とにかく自分のセンスを信じてはいけない、ということは意識しています。

 ……と言いつつ、ごく最近まで上がってきたシナリオを自分がまず読んで、ここはこういう風にしたほうがいいと伝えつつ、結局自分が全部に手を入れるということが続いてきたんです。『ヘブバン』のシナリオはビジュアルアーツの方針として――新人育成のためだそうですが――自分も誰が書いたかわからない状態で「テキストだけを読んで評価するように」となっていて。

 でも、それを書いたのが自分が会ったこともない新人だったりもするなかで、その手直しを全部自分がするというのは、直すほうにとっても直されるほうにとってもメリットよりデメリットのほうが大きいという話になったんです。

 なので、水瀬すもものストーリーイベント「丸い幸せに祈りを込めて」は自分が手を入れることは基本的にせず――命吹雪っていうブッ飛んだキャラクターのセリフは自分にしか書けないので、そこだけは直したんですけど――、今後に関しても自分は手を加えず感想を伝えるだけで済ませるというスタンスを、現社長の天雲(天雲玄樹氏。2023年7月よりビジュアルアーツ代表取締役。丘野塔也名義でシナリオライター、ディレクターとしても活動)も交えて決めました。すもものイベストから、シナリオライターとシナリオディレクターの名前がエンドロールで出ているのは、そういうターニングポイントがあったということなんです。

【ヘブバン】ストーリーイベント「丸い幸せに祈りを込めて」プロモーションムービー

『ヘブバン』と「麻枝 准」のこれから

――『ヘブバン』について過去のインタビューを読むと、麻枝さんのなかでは描きたい結末が決まっていると。一方、スマホゲームはプレイしている側からすると終わりが見えないんですよね。シナリオが完結していなくても、サービス終了という形でゲーム自体がなくなってしまう可能性もあります。

麻枝:「“打ち切りエンド”みたいになるのではなく、ちゃんとこのエンディングに到達できるんだろうか……」という意味では、ユーザーのみなさんとまったく同じ気持ちだと思います。もちろん各章のクオリティは、自分がそのとき出せる一番のものをお届けしているつもりです。

――先日開幕した第五章中編は、Part1・Part2と2回に分けての配信となっています。

麻枝:こういう形になっているのは自分以外のところで時間がかかっているからだと感じています。自分はシナリオの納期を一度も破ったことがないですし、リテイクを受け付けるためにも早めに納品していて。とにかく待ちの時間が長いんです。

下田:弊社の開発面で時間がかかっている部分もあり、申し訳なく思っています。フルボイスで、新しいフィールドや敵も多く、カットシーンもあり……と、コンソールゲーム的なボリューム感になっている『ヘブバン』なので、どうしても時間がかかってしまうところもあるのですが、今後のリリースにも期待していただければなと。

【ヘブバン】メインストーリー第五章中編「世界の終わりと白の呪文」ローンチトレーラー

――グローバルにご自身の作品が届くということについての考えもお聞きしたいです。『ヘブバン』は日本でのリリース後、かなり早い段階で中国語版や韓国語版がリリースされ、最近は英語版のリリースも発表されました。

麻枝:自分は日本語しかわからない人間なので、感想も国内の日本語の感想しか調べることができないし、海外展開していることを意識したことがないんですよね。クライマックスの感じ方はもしかしたら万国共通なのかもしれないですけど、日常パートだとパロディネタをはじめ、日本語文化圏でしか通用しないネタとかが山のようにある。「海外じゃ滑りまくってるんだろうな」と勝手に予想しつつ、それを気にしていたら一番に届けたい国内のユーザーに届くものが歪んでしまうので、意識しないようにしています。

――では最後に、2025年には50代を迎える麻枝さんが、今後どういう風に人生を燃やし尽くしていきたいのか、というところをお聞かせいただきたいと思います。

麻枝:いま、あらためて思うのは、自分は本当に呼吸のように何かをクリエイトしていないと生きていけない人間なんだな、ということです。たとえば、自分は『アサシン クリード』や『ヴァンパイアサバイバーズ』のような、ひたすら敵を倒し続けるタイプのゲームをプレイしていても楽しいとは感じつつ、それ以上プレイし続けても何も得られないという焦りを必ず覚えて、見たことのない世界観を持ったゲームや、SF小説に手を伸ばします。

 小学生のときからそういう創作につながるものだけを求めて生きてきた人生であり、これからもそうなんだろうな、と思います。

 自分がすごく嫌いな感想に「こういうのでいいんだよ、こういうので」というのがあって、なぜなら、これって要は「プレイヤーの想像できる無難な内容だった」ことを意味すると思うからです。自分は常に新しいものを届けたい。それは良い意味でも悪い意味でも期待を裏切る何かで、それが時に受け手を不愉快にもさせるんだけど、“誰かにとっては毒でも、誰かにとっては特別刺さる”というものだけを紡いできたのが自分の人生で、これからもそれを貫いていくことでしょう。

『ヘブンバーンズレッド』 を2章と言わず、4章までやってくれ

2022年2月、『アナザーエデン』を開発・運営するWFSと麻枝准を擁するKeyによって『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる