果てしなく続く空の旋律――『グラブル』オーケストラコンサートが改めて示した「物語」

『グラブル』オケコンが改めて示した「物語」

 オーケストラコンサート『GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-』が、9月21日・22日に東京ガーデンシアターで開催された。2日とも昼と夜に分かれ、計4回の公演が行われた。本稿では21日の夜公演の模様をお伝えする。この日は『グランブルーファンタジー』のサウンド・コンポーザーの成田勤のほか、ステージMCとしてダーント役の星野貴紀、ユイシス役の立花理香らが壇上に立った。

 また、会場内では本公演のキービジュアルに登場しているキャラクターたちをイメージしたメニューが販売され、ルリア&ビィのほかサンダルフォンやガレヲンらをモチーフにした全7種のコラボドリンクなどが並んでいた。

 開演前になるとルリアやビィ、サンダルフォンにオロロジャイアなどの声が場内に響き、何やらライブ前の興奮を盛り上げる。今年3月にリリースから10周年を迎えた“グラブル”はいまだにその勢いに陰りが見えない。

 コンサートが始まる前からコンテンツの歴史と厚み、創意工夫へのあくなき探求を感じた。驚くべきは、この4回の公演はすべて異なるセットリストだったという点である。

 1日目・夜公演の1曲目は「フレイメル島 -太古の工廠- 」。そして「天に散りし覇者との邂逅」、「人間との戦い」、「バトル4」と続く。主にメインクエスト第1部「蒼の少女」編の楽曲で、まるでストーリーをなぞるような趣があった。「人間との戦い」、すなわち黒騎士戦のBGMのことだが、該当クエストの実装は2016年。実に8年も前である。しかしここまで演奏された楽曲はいずれもゲーム内で聞くときとはまた異なるアレンジで新鮮に感じられ、名手・栗田博文の指揮のもと、圧巻の音世界が展開された。

 とりわけ「人間との戦い」では黒騎士が経た物語がバックスクリーンに映し出されており、その過程を知っている観客は抗いようもなくアポロニアの人生と荘厳かつ繊細な音色を重ねてしまう。ちなみに“人間との戦い”というタイトルは、本作のクリエイティブディレクターである福原哲也が名付けたそうだ。MCで成田が「それまでは星晶獣との戦いがメインだったが、この一戦は人間との戦いであることが直接示唆されたことで一気にテーマ性が明確になった」と明かしている。「人間との戦い」は全4公演で演奏されたことから、やはり相当思い入れのある楽曲であったと見られる。

 続いて「バトル4」を挟み、「ライヒェ島 -人住まう魔窟- 」、「ナル・グランデの罪」、「アウライ・グランデ」、そして「Lyria」へと続く。「バトル4」の原曲は曲中にロック調のテクスチャーが随所にみられるが、本公演では連綿と続くオーケストラの一部として機能していた。「コンサートピースとしての連続性、あるいは一体感」への意識については、成田からたびたび強調されていた。その影響もあり、特に「アウライ・グランデ」は静謐な魅力が十二分に引き出されていたように感じる。ストリングスやフルートの旋律が、我々をこの物語の深層部へと誘っていくようだった。

 コンサート第1部は「Lyria」によって幕を閉じたが、ここまでオーケストラが紡いできた物語を優しく包み込むようなニュアンスがあった。このときゲストボーカルとして参加したルリア役の東山奈央は、まさにヒロインの品格と輝きで本楽曲を歌い上げた。リリースから8年を経てもなお、「Lyria」はグラブルのストーリーを語るうえで重要な歌であることを再認識した。

 第2部は「命のカタチ」で開幕する。8周年を記念したシナリオイベント「星のおとし子、空のいとし子」のバトルBGMとして実装されたこの曲をはじめとして、第2部は近年登場した楽曲が主に演奏された。「Last Advent」の前奏が始まったときは身震いする感覚があった。なにせこのゲームで最初に引いたSSレアキャラが土属性のユーステスなもので、「組織」シリーズには思い入れがあるのだ。それゆえグラブル7周年記念シナリオイベント『STAY MOON』のメインBGMである「Last Advent」は個人的に特別だ。ドラムンベースばりに刻むスネアドラムのビートが、身を奮い立たせた。

 「ユグドラシル・アルボスマグナ」「Dragon’s Circle -Hexachromatic-」に続いて演奏された10周年記念シナリオイベント『HEART OF THE SUN』のフェニックスとの戦闘BGM「天と光、死と生」は、本公演で演奏された楽曲の中では比較的新しい。フェニーの飛び立つシーンがバックスクリーンに映し出されたとき、またしても本作の重厚なストーリーの存在を感じた。他のゲームのオーケストラコンサートと比較しても、グラブルはビジュアルにギミックをさまざま用意しているように感じる。映像はシンプルなのだが、映し出されるタイミングや順番でコンテクストを紡いでゆく。フェニーの一連のシーンはその最たる例なのではないだろうか。

 第2部ラストを飾ったのはシナリオイベント『ロボミ』のBGM。栗田マエストロが観客を煽ると、客席は会場を揺らすような手拍子で応える。それまで紡いできたファンタジーの中に、突如として現れた圧倒的なロボットアニメの世界。その異色のスケール感は本編の最後を彩るにふさわしかった。

 そして迎えるアンコールでは、「アウギュステ列島 -白沫の瀑布-」や、サプライズ登場となったゲストシンガーの霜月はるかが参加した「ローズクイーン」が演奏されたあと、星野の「アサルトタイム!」という掛け声でラスト2曲に突入した。ルシフェルの独白、「どうして空は蒼いのか。私は思った、問いは願いなのだと。私の問いは…」が会場内に響き、そして屈指の人気シナリオイベント『どうして空は蒼いのか』のメインテーマが演奏される。観客を物語の世界へ引き込む。実に3年をかけて紡がれた物語をなぞるように、カナンの神殿などの重要なシーンが多数スクリーンに映し出され、「天司」を巡る物語が紡ぎだされる。ラストシーンのアンサーのようなルシフェルの描き下ろしイラストも公開され、このシナリオイベントの壮大さと素晴らしさを思い知った次第だ。

 最後は「メインテーマ」でしめくくり、本公演は大団円を迎えた。騎空士(『グラブル』プレイヤー)であれば節目節目で何度も耳にしてきたこの曲と共に10周年を記念するオーケストラコンサートを締めることに、目頭が熱くなった参加者もいたようだ。

 帰りの電車の中、グラブルを起動してあらためてタイトルに目が向いた。『グランブルーファンタジー』、すごく良い名前なのではないだろうか。空には一見何もないが、それゆえに我々の想像力を委ねることができる。アポロニアの奮闘も、サンダルフォンの存在証明も、「雄大なる青(空)」にはインスピレーションを投影できるのだ。プレイヤーはそれほどのスケール、広い空の世界にそれぞれ存在する正義の様を、このゲームを通して体験してきた。

 それを思い出す夜だった。

セットリスト

- 第1部 -
1. フレイメル島 -太古の工廠-
2. 天に散りし覇者との邂逅
3. 人間との戦い
4. バトル4
5. ライヒェ島 -人住まう魔窟-
6. ナル・グランデの罪
7. アウライ・グランデ
8. Lyria

- 第2部 -
9. 命のカタチ
10. Last Advent
11. ユグドラシル・アルボスマグナ
12. Dragon’s Circle -Hexachromatic-
13. 天と光、死と生
14. ロボミ

- アンコール -
15. アウギュステ列島 -白沫の瀑布-
16. ローズクイーン
17. どうして空は蒼いのか
18. メインテーマ

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