ゲームの元ネタを巡る旅 第15回
「アンチャーテッド」や「インディ・ジョーンズ」で描かれるトレジャーハンターは実在するのか? 埋蔵金に人生を懸ける男たちの物語
多種多様な販売形態の登場により、構造や文脈が複雑化し、より多くのユーザーを楽しませるようになってきたデジタルゲーム。本連載では、そんなゲームの下地になった作品・伝承・神話・出来事などを追いかけ、多角的な視点からゲームを掘り下げようという企画だ。
企画の性質上、ゲームのストーリーや設定に関するネタバレが登場する可能性があるので、その点はご了承願いたい。
第15回は「アンチャーテッド」や「インディ・ジョーンズ」シリーズに登場するトレジャーハンターについて調べてみた。
大昔からフィクションの花形として登場するトレジャーハンター。未開の地を冒険し、財宝を追い求めるものという共通理解はあるが、実際のところはどういう存在として定義されているのか、また現代においても存在している職業なのか? そのあたりについて今回は深掘りしていこうと思う。
トレジャーハンターとは何か?
トレジャーハンターというのは、海底・廃墟・山林・遺跡などに出向き、遺された財宝を探し出すことを目的とした人のことを指す。
そのほとんどは沈没船の財宝であり、次に多いのが出所が不明の財宝、そして海賊や盗賊による略奪品と続いていく。キャプテン・キッドやヘンリー・モーガンといった大物海賊が死の間際に自身の財宝をどこかに隠した旨を言い残したという伝説は、いまなお多くのトレジャーハンターの興味を惹き付け、尾田栄一郎の漫画『ONE PIECE』でもサンプリングされた。
広義の場合は、トレジャーハンターとは「王墓に侵入して安置されている財宝を盗んでくるもの」も該当するが、昨今はそれら墓荒らしとは区別され、私有地を調べる場合に国や個人に許可を取るなどして、合法的に活動する人物を指すことが多い。
つまり、狭義の意味では「アンチャーテッド」のネイサン・ドレイクや「トゥームレイダー」のララ・クロフトは、ゲーム内でこそそう形容されているものの、実はトレジャーハンターとは言い難いのかもしれない……。
現実のトレジャーハンターたち
では、現実のトレジャーハンターたちにもスポットを当ててみよう。
まずはリアルサウンドテックでも紹介した「DALLMYD」。YouTuberにしてトレジャーハンターだ。
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彼はいわゆる歴史的な大財宝は狙わず、重機や装備を見せながら、アメジストなどを掘るのがメインのようだ。昨今では海底で銃やXbox 360を拾うなど、スキューバダイビング系の動画を投稿することも多い。財宝探索までの過程をYouTubeで見せるというあたりが、非常に現代人らしいトレジャーハンターである。
日本人のなかで紹介しておきたいのは、八重野充弘である。
彼は50年以上にわたってトレジャーハンターをしている人物であり、自身の職業を「埋蔵金ハンター」だと自称している。「24時間テレビ」(日本テレビ)などにも出演していたので、なんとなく覚えているという人も多いだろう。最近では「クレイジージャーニー」(TBS)にも出演していた。
徳川の埋蔵金や、旧日本軍の隠匿物資など、多くの財宝を狙っている人物である。まだ財宝の発見には至っていないが、彼の見識と努力は凄まじいものがあり、トレジャーハントを健全なレジャーとして広める活動にも従事している。
彼の著作『埋蔵金発見!』(新人物往来社・2010年)は、日本で小判などの財宝が見つかった事例と、その後の法的な処理、浮かび上がってきた財宝を隠した人物たちのドラマに至るまでが書かれた素敵な読み物だ。
過去に行ってきたトレジャーハントの実例だけでなく、トレジャーハンティングがいかに頭脳で勝負するものなのか、どれだけお金がかかるものなのかというリアルな話から、取得した財宝に関して日本の法整備が間に合っていないのではないかという当事者だからこそ見えてくる問題点まで、多岐にわたる情報が載っているので、ぜひとも読んでみてもらいたい。
ゲーム文化的には、糸井重里も忘れてはならない。かつてTBSが放送していた「ギミア・ぶれいく」内での徳川埋蔵金プロジェクトのリーダーとしてお茶の間を賑わわせていた。彼自身がトレジャーハンターとして長く活動していたことはないだろうが、こちらも覚えている方がいらっしゃることだろう。
なお、このときのプロジェクトの全貌は『あるとしか言えない: 赤城山徳川埋蔵金・発掘と激闘の記録』(集英社・1993年)という新書にまとまっている。
ゲームと現実をブリッジするトレジャーハント「ARG」
財宝探しとゲーム文化をつなぐものとして注目しておきたいのは、代替現実ゲーム(Alternate Reality Game:ARG)である。
こちらは、ゲームのプロモーションや、ゲーム自体に隠された秘密を当てる際に用いられるワードであり、非常に定義があいまいではあるが、ゲーム文化黎明期から連綿と続いている遊びではある。基本的には、日常生活の一部を切り取ってゲーム内に落とし込んでいるものを指すのだが、いくつかの共通項が存在する。
・プレイヤーたちが謎解きをしたり、アクションを起こしたりすることで展開が変化
・プレイヤー同士のコミュニケーションが必要
・ネット、テレビ、ラジオなどとのクロスメディア展開
・断片的な情報が少しずつ判明していき、一本の大きなストーリーにつながる
1988年のプレイバイメール(郵便やインターネットを通じて情報をやりとりして遊ぶゲーム)である『ネットゲーム’88』に始まり、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『A.I.』のプロモーションとして行われていた『The Beast』などもこれに属するものだ。
昨今では、Devolver Digitalが販売するインディーゲーム『Inscryption』がわかりやすい。本作は一人称視点のカードゲームだが、ゲームを進行させることで、途中で実写の映像に切り替わり、とあるYouTuberが地中に埋まったフロッピーディスク『Inscryption』を手に入れるシーンが展開される。
ゲーム内に巧妙に仕掛けられた暗号や、制作者が以前に公開したゲームに秘められた謎などを解読していくと、ゲーム本編が補完されるようなストーリーが展開される。ここまでディープにゲームを追い掛けたプレイヤーに対するご褒美のようなものだ。(なお、これら『Inscryption』のARGについては日本人のボードゲームクリエイターである上杉真人がnoteにて謎の全貌を追いかけているので、併せて読んでみていただきたい)。
また、大作ゲームのARGについては『サイレントヒル2』が行ったものが記憶に新しい。
『TGS 2024』のKONAMIブースにて「サイレントヒル歴史資料館」というパンフレットが配られた。このパンフレットに書かれているURLにアクセスすると『Red Reaper ~死者からの犯行声明~』なるゲームにチャレンジすることができた。
このARGについては期間限定での提供だったが、のちに「サイレントヒル歴史資料館」がホームページとして公開された。数多の隠しリンクが秘められたホームページなので、『サイレントヒル2』を遊んだ方はぜひこちらもチャレンジしてみてほしい。
ARGは、ゲーム本編で完結してくれない謎に対する不完全燃焼感や、実際の土地に出向く難しさなどから否定的な意見が出ることも多いコンテンツだが、上手くやればこれ以上ないほどゲームに没入できる仕掛けにもなりえる。現実世界でお宝を探しているような感覚を、ゲームを通して味わってみるのも面白い。
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