『英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-』レビュー 20年の歴史をまとめあげた“集大成”の根底に存在する、面白さへの貪欲な姿勢
9月26日に発売された『英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-』(以下、界の軌跡)は、日本ファルコムが展開する「軌跡」シリーズの最新作だ。本シリーズは「ゼムリア大陸」と呼ばれる世界を舞台としており、第1作『英雄伝説 空の軌跡 FC』が2004年に発売されてから『界の軌跡』発売までの20年のあいだ、時系列がつながったストーリーが展開されている。本作はシリーズ生誕20周年記念作品という集大成の側面も強く、過去作で主人公を務めたキャラクターも主役として据えられており、はっきり言ってシリーズファン以外にはおすすめできない作品になっている。
だが、20年越しにゼムリア大陸の根幹となる設定がようやく明かされたり、異なるタイトル同士のキャラクターの掛け合いが豊富に用意されていたりと、シリーズを熱心に追っていたファンにとってはご褒美と言える作品に仕上がっていた。本記事では全シリーズタイトルをプレイしている筆者が、“シリーズの集大成として”という観点を軸に、本作について触れていきたい。ストーリーが売りの作品のため、中盤以降の詳細なシナリオ内容には言及しないが、ストーリー構成や作品の閉じ方などには触れるため、何も情報を入れずにプレイしたいという読者は注意してほしい。
過去作のキャラクターが交差する集大成ストーリー
本作は2021年リリースの前々作『英雄伝説 黎の軌跡(以下、 黎の軌跡)』から開始された“カルバード共和国編”に属し、タイトルは「界」として仕切り直されているが、前作『英雄伝説 黎の軌跡II -CRIMSON SiN-』とストーリーが完全に地続きで、実質的に『黎の軌跡3』と言ってもよいほどの続編である。カルバード共和国はゼムリア大陸中央部に位置する大国家であり、大陸東部の荒廃によって増加した移民による治安悪化や、新大統領ロイ・グラムハートの政治改革の影響もあり、発展はしつつも不安定な社会という様相だ。
そのような一触即発の雰囲気で裏稼業がはびこる情勢のなか、民間人の安全と地域の平和を守る「遊撃士(ブレイサー)」や警察では解決しにくい案件を担当する「裏解決屋(スプリガン)」を営んでいるのが『黎の軌跡』シリーズおよび『界の軌跡』主人公のヴァンである。ヴァンはヒロインであるアニエスより依頼された曽祖父の遺産「オクト=ゲネシス」捜索の道中で、共和国という舞台らしく多様な人種や思想・背景を持つ仲間を集めながら、強大なマフィア「アルマータ」や謎の結社「身喰らう蛇(ウロボロス)」と対峙する様子が描かれていた。
『界の軌跡』ではグラムハート大統領が秘密裏に進めていた、宇宙進出を目的とする「スターテイカー計画」にまつわる出来事が中心に描かれる。本作のストーリー展開における最大の特徴は複数主人公制を採用していることだろう。過去作『閃の軌跡』主人公・リィンや『空の軌跡 the 3rd』主人公・ケビンが主役として復帰しており、本編第2部からはリィンルート・ヴァンルート・ケビンルートと分岐したストーリーを選択して、それぞれの視点から進めることができる。
以前「巨イナル黄昏」と呼ばれる事変を解決して英雄視されているリィンのルートでは、騎神とよばれる機動兵器(いわゆるロボット)操縦の腕を買われ、スターテイカー計画にて宇宙活動に使用する機体「エクスキャリバー」の調整のために極秘に共和国入りし、計画を内側から知ることができる立場。作中で信仰されている宗教組織「七耀教会」のトップ集団「守護騎士」の1人であるケビンは、教会からの依頼により“ある人物”の調査・暗殺のためカルバードに入国し、計画の外側で動く陰謀を見極めようと動く。
『黎の軌跡』より引き続き主人公をつとめるヴァンのルートでは、新たに登場したオクト=ゲネシスのレプリカ「アルターコア」を用いて暗躍する組織「残滓(レムナント)」を追うなかで、宇宙計画の全貌にも足を踏み入れることになる。三者三様の使命や思惑を持つストーリーが「スターテイカー計画」を内側・外側・狭間から見た3視点で交差する構成で、多角的に展開する物語の醍醐味を味わえた。
特にこれまで秘められていた作品設定の開示具合は、ファンとしても「ここまで明かすのか!」と唸るほどで、本作までの20年で描かれた設定が全体の60%だと仮定すると、体感では『界の軌跡』1作で20~30%進んだような感覚で、“「軌跡」シリーズにそろそろケリをつける”というファルコムの意思が伝わったような気がした。本作の中心となる“ある人物”や宇宙進出の裏で進行していたゼムリア大陸を揺るがすような計画が徐々に明かされていくことにより、章ごとに真実の一端が一枚ずつめくられていく非常にスリリングな体験が味わえる。さらにルートごとにキャラクターや展開が異なるため、80時間という長丁場のプレイでも「気持ちの切り替えポイント」が多く、テンポよく飽きる暇がないほどにストーリーが楽しめたのも好印象だった。
洗練されたコマンドバトルとアクションの融合はシリーズ最高峰に
「軌跡」シリーズはストーリー重視のタイトルであるが、バトルの仕上がりも注目すべき点だ。“カルバード共和国編”のバトルは、アクションバトルからコマンドバトルへとシームレスに移行できるシステムが特徴。コマンドバトルはコントローラーの方向キーや◯△□×ボタンに、各コマンドが割り振られたダイレクトかつスピーディーなバトルが楽しめ、キャラクター固有技の「クラフト」や魔法にあたる「アーツ」を使用しながら、必殺技「Sクラフト」を駆使して敵を倒していくのがセオリー。こちらのコマンドバトル部分は、『空の軌跡』受け継がれ進化してきた「軌跡」ならではバトル要素と言える。
だからこそ『黎の軌跡』からフィールドバトルという形で、アクション要素が導入された際は驚いたのだが、本作に至るまでの『黎の軌跡』シリーズにおけるフィールドバトルの立ち位置はあくまでオマケ。フィールドで攻撃をくり返し敵をスタン状態にすると、コマンドバトルに移行した際に先制攻撃できるため、あくまでコマンドバトルに至るまでの作業というイメージが強く、あくまで「アクションもできなくはない」という印象だった。
しかし『界の軌跡』では「Z.O.C(ゾック)」と一部キャラの「覚醒」が追加。「Z.O.C」効果中は敵のスピードが遅くなり、攻撃力と与えるスタンダメージが上昇し、防御力が高い敵に対してもスタンを狙いやすくなり、敵へ一方的に攻撃できる。「覚醒」は攻撃力やスピードが向上して強敵にもサクサクと攻撃を通すことができるシステム。両方を併用し、さながら「無双ゲーム」のように周囲の敵を倒すことも可能になった。この機能のおかげでバトル手段は実質コマンドバトルの1択だったのが、プレイヤーがフィールドバトルとコマンドバトルの好きな方法を選択することができ、ダンジョン攻略の作業感が大幅に解消された。
そしてコマンドバトルもフィールドバトルの進化に置いていかれているわけではなく、「B.L.T.Z.(ブリッツ)」「シャードコマンド」が実装されてブラッシュアップされている。「軌跡」はシリーズの歴史が長い分、登場キャラクターも比例するように増加してバトルにおいては戦闘メンバーよりも控えのほうが多いという事態に陥っているが、それを解決するのが「B.L.T.Z.」だ。本作のパーティーメンバーは8人を選出し、そのなかの先頭4人がスタメンとしてバトルに登場するという形だが、「B.L.T.Z.」は残り4人のサポートメンバーから追撃などの支援を受けられるシステムで、ゲームシステムとして直接的に仲間同士の絆が直接感じられる。
「シャードコマンド」は『閃の軌跡III』~『創の軌跡』で存在した特定のゲージを消費してパーティー全体にバフを付与する「ブレイブオーダー」が名前を変えて再実装されたもので、ストーリー面だけでなくシステム面も“集大成”と言えるものになっている。ストーリーの良し悪しや評価はプレイヤーによって変化する部分だろうが、とにかく戦闘が面白いタイトルをプレイしたいのであれば本作を勧めたいほどに、『界の軌跡』のバトルはシリーズとして極まっていると思えた。
“面白さ”に貪欲なファルコムの姿勢
個人的に「軌跡」シリーズおよびファルコムの開発で最も興味深いと考えているのは、ファンからは「秋の風物詩」と言われるように、毎年秋ごろに1作リリースすることでPDCAサイクルを高速で回していると思われることだ。たとえば前作『黎の軌跡II』で実装したものの、評判の芳しくなかったタイムリープ要素は本作において削除。本作からムービー中に作中用語を確認できるシステムを導入し、固さがあったモーションやバトル演出を一新している。そしてコマンドバトルに移行するまでの手段として位置づけられていたフィールドバトルを、アクションゲーム単体として遜色ないようにブラッシュアップしているなど、シリーズを重ねることで徐々にゲームが洗練されていく過程が楽しめる。
このスクラップ&ビルド感は1~2年に一度シリーズを更新できているからこそ。開発長期化が珍しくない昨今においては驚異的なスピード感でゲームをリリースし、その反省と経験を活かした次作を開発するというサイクルが出来上がっているのではないか。そのため同一シリーズであってもシステムの追加・改修は常に行われており、もしも瑕疵に感じてしまうシステムがあったとしても今後対策してくれるだろうという、“面白さ”に貪欲な姿勢はいちユーザーとしても信頼できるものだ。
また、本作のストーリーは解決を次作に任せる強烈なクリフハンガーで終了するが、展開が間延びしたのにも関わらずシリーズ全体としての物語がほぼ前に進まなかった前作『黎の軌跡II』と比べれば、『界の軌跡』は先述のように内容を詰め込みに詰め込んでいるため、続編へシナリオを持ち越しても一定以上の納得感は持てる。そして『空の軌跡 FC』『閃の軌跡I』『閃の軌跡III』に続き、累計4回目のクリフハンガーとなると、もはやシリーズの伝統というべきかファンとしても正直慣れたもの。
リリースペースから考えて来年・再来年には続編が出るだろうと予想も立てられるため、個人的には「本作で明かされた設定について考察しながら待つか……」とそこまで忌避感はない。一般的に想像されるゲームの続編展開とは異なり、1~2年に1回発売される「軌跡」シリーズという単行本の次巻を待つような気持ちで楽しめる(だからこそ1巻にあたる『空の軌跡 FC』以外から入りにくいのかもしれない)のも、本シリーズ独特の味わい方だろう。『界の軌跡2』の発売を待っています。
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