遊びやすく、酔いにくい――意欲作にして挑戦作だった『ワリオワールド』のすごさと“もったいなさ”
あらためて遊んでみても、当時の3Dアクションゲームとしては頭ひとつ抜けた遊びやすさがある。だけども……すごく「もったいない」。
そんなことを『ワリオワールド』を久しぶりに遊びながら思ったりした。
『ワリオワールド』は2004年5月27日、ニンテンドーゲームキューブ向けに発売されたワリオ主演のアクションゲームだ。海外版は2003年6月と、日本より約1年先行して発売されている(そのためか、タイトル画面のクレジット表記も「©2003 Nintendo」となっている)。
携帯ゲーム機中心に展開されたアクションゲーム『ワリオランド』の流れを汲む本作は、『メイド イン ワリオ』を含むワリオシリーズ初のフル3D作品にして、2024年現在においても、唯一の存在である。
それまでの「ランド」から「ワールド」へとタイトル名のグレードが上がり、据え置きゲーム機で展開されたことから、当時は本作をもって、新たなワリオのシリーズが始まっていくことが予感された。だがその後、どうなったかは今日までの歴史が示す通りである。たった1作で終わると同時に、ワリオシリーズただひとつのフル3D作品となってしまった。
筆者自身、初めて遊んだときにも思ったことだが、本作は単発で終わらせずに独自のシリーズとして続けていく意義と価値を秘めた作品だった。
それはなぜか? 当時としても珍しく、発売から20年を迎えた現在においても異彩を放つ、酔いにくくて遊びやすい3Dアクションゲームだったからだ。ワリオのライバルたるマリオが『スーパーマリオ3Dランド』、『スーパーマリオ3Dワールド』で見せた、遊びやすさ重視の3Dアクションゲームに挑んだ、先駆者的存在でもあったのである。
同時にもっと磨けばさらに良くなったであろう、”もったいない”部分があった。もし、それらがなければ、現在もやり込み周りで末永く遊ばれ続ける傑作となり、マリオの一歩先を行く存在として当時、スポットライトを浴びていたのではと思うのだ。
錚々たる名作で知られる実力派開発会社が生み出した、2D感覚で遊べる3Dアクション
しかし、なぜ据え置きゲーム機でワリオ主演の3Dアクションゲームが作られたのか?
もともと、『ワリオランド』に代表されるワリオ主演のゲームは、携帯ゲーム機を中心に展開がされていた。『ワリオワールド』と同じアクションゲームとしての前作にあたる『ワリオランドアドバンス ヨーキのお宝』が発売されたのも、その名の通りゲームボーイアドバンス……携帯ゲーム機であり、横スクロールの2Dアクションゲームだった。
その次の新作が3Dで、据え置きゲーム機で発売されるのだから、当時、シリーズを追いかけていた人なら思わず「なにごと!?」とビックリするのも無理はなかっただろう。そもそも筆者も当時、初報を見たときはビックリした。「ワリオ様、3D進出!?」と。
このような新作が出た背景にあるのは、本作の開発を担当した株式会社トレジャー。トレジャーは『ガンスターヒーローズ』、『エイリアンソルジャー』、『斑鳩』など数多くの名作を手がけたことで知られるゲーム開発会社。2000年には任天堂とタッグを組み、『罪と罰 ~地球(ほし)の継承者~』なる新作アクションシューティングゲームを手がけている。
以降は『Nintendo DREAM vol.116』(毎日コミュニケーションズ 現在絶版)84ページ記載の『アドバンス ガーディアンヒーローズ』(※2004年、ゲームボーイアドバンスで発売された『ガーディアンヒーローズ』の続編)のインタビューにおける、トレジャー代表取締役社長・前川正人氏のコメントからの要約になるが、元は『罪と罰』と同じ、オリジナルのアクションゲームとして提出された企画だったという。
しかし当時、オリジナルの作品が売れにくいご時世にあったことから、任天堂からワリオを提案され、「マリオと違ってワリオはなにをやっても構わん」とのお墨付きを貰ったことから、その新作として作られたようだ。据え置きゲーム機での発売になったことも、当時のワリオシリーズが携帯ゲーム機を中心としていて、据え置きゲーム機向けにはあまり展開されていなかったこともあるという。
そんな流れを経て生まれた本作は、ワリオを操作してステージごとに設けられたエリア(コース)を順番に攻略していく3Dアクションゲームだ。
見た目は当時、ニンテンドーゲームキューブで発売されていた3Dマリオシリーズの新作『スーパーマリオサンシャイン』に近い。だが、根幹の遊びは昔ながらのアクションゲームそのものであり、基本的に様々な仕掛けや敵を乗り越えながら、エリア最深部で待つボスを倒すことを目指す、王道かつ定番のものになっている。
そのため、遊び心地としても3Dアクションというよりは2Dアクション寄りで、進行方向に沿って進めばゴールまで辿り着ける、分かりやすさ重視のゲームデザインがされている。
ただ、ひたすらボスが待つ最深部を目指して進んでいけばいいわけでない。エリア内の至るところに設けられた「扉」の先にある地下空間で、「ボス扉」を開錠させるのに必要な「赤いダイヤ」を集めるなど、ちょっとした探索要素もある。その扉にも木製と鉄製の2種類があり、前者は小部屋での謎解き、後者は特別なアスレチック(『スーパーマリオサンシャイン』における「ヒミツコース」みたいなもの)の攻略に挑むなど、ダイヤを手に入れるための課題も異なる。
ワリオのアクションもそれまでの『ワリオランド』シリーズとは異なり、パンチや頭突きといった格闘攻撃が主体。ただし、複雑なコマンド入力は求められず、基本ボタンとスティックとの最小限の組み合わせで繰り出せる設計となっている。
新アクションもあり、中でも「ジャイアントスイング」と「パイルドライバー」は、周りにいる敵を巻き込む効果もあったりと、単純に決めるだけでもバツグンの爽快感が味わえる点で異彩を放つ。
ほかに本作では『ワリオランド2 盗まれた財宝』以降、廃止されたゲームオーバーが復活している。しかし、手持ちのコインを支払えば、その場から体力全快の状態で再開できるなど、ペナルティが事実上ない。
しかも、これはボス戦でも同じ。なので、アクションゲームが苦手なプレイヤーも、コインが十分にあれば文字通りの金の力での解決も通る、大変に”ゆるい”難易度に設定されている。高難易度のイメージがある、トレジャーの作品としては極めて稀有なバランスとも言えるだろう。
マリオに先んじて“酔わない3Dアクション”を提示 今なお光る「遊びやすさへの工夫」
そんな本作『ワリオワールド』は、3D酔いを発症しにくい、遊びやすくて取っつきやすい3Dアクションゲームに仕上げられていることが最大の特徴となっている。
2024年現在、すでにそのような3Dアクションゲームは『スーパーマリオ3Dランド』、『スーパーマリオ3Dワールド』というマリオの主演作にも存在すると同時に、同じ任天堂発売タイトルでも『星のカービィ ディスカバリー』がある。
それらの作品に先んじて、なかでもマリオよりも先に遊びやすい3Dアクションに挑んでいただけでも、本作の史料価値の高さと先見性は特筆に値するといってもいいだろう。しかも、本作には後続の作品にはない、遊びやすさへの工夫が見られる。
とりわけ大きいのは操作感。3Dアクションはアナログスティックでキャラクターを動かすのが基本で、微細な入力も受け付ける手触りが特徴だ。だが、裏を返せばそれは、僅かな入力が意図しないミスを招くことも意味する。特に本作発売当時には、そうした微細な入力が命とりになりうる3Dアクションが比較的多く見られた。
ワリオはどうしたのかと言えば、2Dアクションの手触りを採用した。微細な入力があまりミスに直結しない仕組みである。なので、止まりたい時はちゃんと止まって、入力の判定も細かくしない。まさに「キビキビ」という表現が似合う操作感にしているのだ。
おかげで3Dアクション特有のアナログな手触りもなく、気持ちよくキャラクターを動かせる。「鉄製の扉」にあるアスレチックは、この操作の強みがいかんなく発揮されている部分だ。操作が正確に判定されるからこそ、ミスしても納得感が残るのである。
また、カメラ操作も本作は角度のみ変更する形式で、あまりグリグリ動かして細かく調節することが要求されない。なので、視点が悪くてミスに繋がるようなことも少ない。
これはボス戦も同様で、画面内から極力消えないよう、常にボス当人に焦点を合わせて追従し続けたり(相手によっては追従しないタイプもいるが、位置は把握しやすい)、固定時でもボス本人が必ず映るようにカメラワークを調整している。そもそも、ボス戦ではカメラを操作する必要自体がなく、純粋に戦闘だけに集中できる設計となっている。
このあたり、特に操作感は後続の作品にはない本作ならではのもので、発売から20年が経った現在に見ても興味深い作りをしている。アスレチックとボス戦は最たる部分で、遊びやすさと手応えをバランスよく両立させた好例とも言えるだろう。
格闘攻撃を主体にしたワリオの攻撃アクションも、3Dアクションゲームとしての遊びやすさ、取っつきやすさを象徴する部分だ。基本、繰り出せば確実に敵に命中し、その判定も広めに設定されているので、なかなか当たらずストレスが溜まることがない。敵にも接触判定がないことからダメージを受けにくく、安心して接近攻撃を仕掛けられるのも遊びやすさを引き立てている。
そして、散らばったコインなどを回収するのに役立つ、カービィもドン引き必至の吸い込みである(※敵は吸い込めない)。
これも3Dアクション特有の細々と動く手間を軽減させるアクションとして機能しており、見た目の無茶苦茶さとは裏腹な利便性が際立つ。同時にワリオの強みと懐の広さも表しており、マリオなら絶対に許されないうえ、真似できない絵的な面白さも確立している。
このような特色の数々を見ても、まさしく本作『ワリオワールド』は、安心して遊べる3Dアクションを目指した意欲作にして挑戦作だったと言える。むしろ、2024年の現在に見ても3Dアクションゲームの入門編としては非常に優れているのにくわえて、アクションゲームが苦手な人でも気軽に遊べる点で傑出している。アクションの手触り、演出もまったく古臭さはないどころか、ワリオシリーズ屈指の快適さも表している。
特にボスを倒した際の大爆発はこれぞトレジャーと言わんばかりに派手。そもそも、相手は魔物なのにわざわざ爆発する演出にしている(しかも、効果音までやたら重々しくて圧がある)時点で非常にトレジャーらしく、こだわりを感じるばかりである。
ボリューム不足が際立ち、傑作にあと一歩及ばずだった”もったいない”作品
しかし、あらためて2024年の現在に遊んでみても思う。本作はすごくもったいない作品だった。3Dアクションとしての遊びやすさは傑出しているのだが、いかんせん……全体のボリュームが擁護できないほど不足しているのである。
そもそも、本編に用意されたエリア総数は全8つ(あとは最終ボスを含む大ボス戦が5つ)。その分、1つ当たりの規模は大きく、隠しアイテムの収集といったやり込み要素も用意されているのだが、コンプリートを目指しても、だいたい7~8時間以内には終わってしまう。時系列上の前作『ワリオランドアドバンス』でクリア後特典としてあった高難易度もなければ、アスレチック、ボス戦を限定的に遊べるモードもない。
難易度もゲームオーバーの緩さもあってかなり低い。一応、ノーダメージクリアを目指すとそれなりに歯応えは出るのだが、それでも回復アイテムを大量にばら撒く最終ボスの弱さは据え置き。実は日本語版は先行した海外版とは違い、戦闘に第2フェーズが追加されている(さらにそれ専用の新しい戦闘曲も流れる)見どころがあるのだが、そもそも回復アイテムが常時手に入ることから、負けること自体がまず起こり得ない。ある意味、最終ボスとしてはあるまじき弱さになってしまっている。
ただ、登場するボスには使いまわしの個体が1体もおらず、そのデザインもマリオシリーズのイメージに捉われない、不気味さと得体の知れなさが混在した作りになっているのが異彩を放つ。グラフィック、音楽の作り込みにも妥協がなく、とりわけ先に触れた爆発やマグマが飛び散るエフェクトは、2024年現在見ても派手で美しい。
そんな手の込んだ部分に先見性や見どころがあるからこそ、遊び込める余地に乏しいのが本当にもったいないのだ。ステージが増やせないなら、せめてアスレチックだけ、あるいはボス戦だけを楽しめるモードだったり、高難易度を用意してほしかった。とりわけ高難易度は、トレジャーの作品らしさが出せることから、アクションゲーム好きも唸る作品としての魅力がプラスされたのではないかと思う。
逆にそのおかげで手軽に遊べる作品にもなっているが、やはりアクションゲーム好きを満足させるためのなにかが欲しかったところ。そして、こういう作りだからこそ、ディレクターズカット版的なものを出せないのかと思ってしまう。
だが、その望みは薄い。開発を担当したトレジャーは、2014年発売の『ガイストクラッシャー ゴッド』(ニンテンドー3DS)を最後に家庭用ゲーム機の新作開発から遠ざかり、2024年現在は『斑鳩』を始めとする旧作の復刻を中心にするなど、活動規模を縮小している。所属クリエイターの離脱も一部、メディアの報道やインタビューなどから判明しており、リメイクや続編も望めないだろう。
そして、本作を現行の環境で新たにプレイする場も存在しない。ニンテンドーゲームキューブかWiiの本体と、ゲームソフトそのものが必須だ。
非常にもったいない面はあれど、遊びやすくて酔いにくい点が光る3Dアクションゲームでもある本作。後続の『スーパーマリオ3Dランド』、『スーパーマリオ3Dワールド』といった、ワリオのライバル作品にはない見所を持った意欲作なのは確かなので、いつの日か、最新の環境で遊べるようになることを願うばかりだ。
究極的には、現行機版『レイディアントシルバーガン』のように、別の開発会社によって作られたリマスターが出てほしくもある。
ただ、それ以上に臨むことは、3Dにせよ2Dにせよ、久しぶりにワリオのパワフルアクションが楽しめる作品の発売。……ワリオ様、たまにはゲーム開発から離れて、お宝探しで大暴れしてみませんか?
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