『ゴースト・オブ・ツシマ』の“源流”となる超能力アクション 「インファマス」シリーズの魅力とこだわり
日本国内でも100万本を達成する大ヒットを記録したオープンワールド時代劇アクションアドベンチャーゲーム『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』。その完全版、『Ghost of Tsushima Director's Cut(ゴースト・オブ・ツシマ ディレクターズカット)』のPC版がSteam、Epic Games Storeで5月17日から販売中となっている。
それから5日が経つ5月22日は、『ゴースト・オブ・ツシマ』を開発したサッカーパンチプロダクションズの代表作のひとつで、オープンワールド超能力アクションアドベンチャーゲームの3作目『inFAMOUS Second Son(インファマス セカンドサン)』(以下、セカンドサン)の発売から10年を迎える日となった。
『ゴースト・オブ・ツシマ』の大ヒットで、日本国内でも知名度を得たサッカーパンチプロダクションズ。そんな同作の前は、「inFAMOUS(インファマス)」シリーズ、「怪盗スライ・クーパー」シリーズといったアクションゲームを代表作としていた。
なかでも『インファマス』は、オープンワールドを題材にしていることから、作品的にはある意味、『ゴースト・オブ・ツシマ』の源流とも言える。
ただ、『インファマス』シリーズは『セカンドサン』とその前日譚を描いたスピンオフ、『inFAMOUS First Light(インファマス ファーストライト)』(以下、ファーストライト)を最後に新作展開が中断。気づけば、発売から10年の年月が経ってしまった。
あわせて『ゴースト・オブ・ツシマ』の大ヒットで、『インファマス』の存在感は国内外でも影が薄まっている。それどころか、2022年にはサッカーパンチプロダクションズ自ら、『インファマス』の新作は開発していないと公言してしまっている。
Upcoming inFAMOUS 2 UGC maintenance and an update on legacy franchises https://t.co/at8G33uDUb pic.twitter.com/PDAVTy3OTK
— Sucker Punch Productions (@SuckerPunchProd) July 1, 2022
仮にも後の『ゴースト・オブ・ツシマ』につながった作品がこのまま忘れ去られていくのはどうなのか。正直、日本国内ではそんなに大きなヒットを記録した作品ではないものの、本作の超能力アクションに魅了された人間のひとりとして、『インファマス』というアクションアドベンチャーゲームのシリーズが存在した証をここに残したく思う。
爽快なアクション、ヒーローの苦悩を追体験できるシステムとストーリーが売りの『インファマス』シリーズ
初代『インファマス』は2009年5月26日、PlayStation 3向けタイトルとして欧米先行で発売された。日本は欧米から約半年後となる11月5日、『INFAMOUS 悪名高き男』の邦題で発売されている。
内容としては、オープンワールドの広大なフィールドを駆けまわり、各地で発生するミッションを攻略していくアクションアドベンチャーゲームとなる。プレイヤーが操作するのは「コール・マグラス」(以下、コール)というメッセンジャーの男性。ある日、コールは差出人不明の荷物が大爆発を引き起こす事故に巻き込まれるのだが、奇跡的に一命を取り止め、電気を自在に操る超能力を手にした。
ほどなくして、コールが暮らしていた「エンパイアシティー」は爆発事故の反動による伝染病が発生し、政府判断で全ライフラインを遮断するロックダウンが実施。同時に武装ギャングたちが市内で台頭し、混沌とした状況に陥ってしまう。そんな状況下で超能力を操る者、「コンジット」となったコールは親友で相棒のジークにアドバイスされる形で、市民を守るため、武装ギャングたちとの戦いに身を投じていくのだが、これが超能力者となった彼の苦悩の始まりだった……というのが冒頭で語られるストーリーとなっている。
オープンワールドのアクションアドベンチャーゲームとしての作りは、発売当時、世界的に注目を集めていた「アサシンクリード」シリーズなどに近いが、本作がそれらとは異なる個性としていたのが人間離れしたアクション。高層ビルから落下しても無傷、地上の歩行速度が速いなど、超能力者ならではのハチャメチャな機動力と耐久力を活かしたオープンワールド巡りが楽しめるようになっている。他社の作品でたとえるなら、(細かいところで差異があるものの)カプコンの『ロックマンX(エックス)』ばりの機動力で楽しめるオープンワールドのアクションゲームといった具合である。
戦闘も超能力者の設定にちなんで、扱う武器もすべて能力由来。電撃や衝撃波などの技を駆使して、敵対する武装ギャングたちなどと戦っていく。技を使う際には専用のエネルギーを消費するのだが、この補充もフィールドにある電光掲示板を始め、電力を用いているものから直接吸収するなど、武器を用いず戦う設定を活かしたものになっている。
そして「カルマシステム」なる、善か悪のどちらかの行動を選んだかによって、コールの能力、外見が変化するシステム。本編には節々に善行、悪行のどちらかを選ぶイベントが用意され、そのどちらかを選んだかによってコールのヒーローとしての未来像が変わってくるのだ。選択次第で戦術に大きな変化が生まれるやり込み要素としての面白さと、望まぬ形で強大な力を手にしてしまったコールの苦悩を追体験させるユニークなシステムとして完成されている。
全体的に『スパイダーマン』などに象徴される、アメリカン・コミックス(アメコミ)のヒーロー作品を強く意識したゲームデザインがストーリーも含めて徹底され、独自のなりきり感を味わえるアクションアドベンチャーゲームに仕上げられている。特に縦横無尽を体現したアクション周りは、ただキャラクターを動かしているだけでも楽しいなど、ジャンルの醍醐味を知り尽くした仕上がりが異彩を放っている。
また、本作はCEROレーティングがZ(18歳以上のみ対象)なのだが、過度な暴力・出血表現は控えめ。そのため、苦手な人も安心して遊べる稀有な特徴を持つ。
ただ、これは日本語版だけの特徴で、海外版は13歳以上対象と低めのレーティングが設定されている。なぜ日本語版だけ高いレーティングになったかの背景は公式に明らかにされていないが、作中では非武装の一般市民を攻撃したり、倒すことが可能なことから、そこが影響を及ぼした線が推察される。ちなみにこれは本稿のメイントピックである『セカンドサン』(ファーストライト)も同様。実際に遊んでみれば、「これで18歳以上のみ対象なの!?」と不思議に思ってしまうこと請け合いである。
そんな日本国内では宣伝がしにくいハンデに加え、日本語ローカライズも音声は英語のみ、字幕のみ翻訳と必要最小限。同じくソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント/SIE)から2009年当時、発売されていたアクションアドベンチャーゲーム『アンチャーテッド』シリーズとは明確に差を感じさせられる仕上がりだった。
しかしながら、特に海外では好評を博し、2年後の2011年に続編『inFAMOUS 2(インファマス2)』が発売。日本でも同年に海外版と同じ名称で発売されると同時に、必要最小限だった日本語ローカライズも音声込みで完全な日本語化を実施。主人公コールには『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし(初代)役で知られる故・藤原啓治氏を起用するなど、声優ファンの注目を集めやすいキャスティングも図られた。
ゲームとしても近接攻撃の刷新、プレイヤー独自のミッションを作成できるクリエイト機能の実装、グラフィックの大幅な強化、ストーリー分岐周りの強化などが図られ、より完成度に磨きがかかった。ストーリーでもコールの最後の戦いを描くと同時に、前作で残された伏線も回収し、一定の区切りを迎えている。
それは実質、『インファマス』の完結を意味するものだったが、その発売から3年がたった2014年。「デルシン・ロウ」なるアウトローの青年を新たな主人公に据えた新作、『セカンドサン』がPlayStation 4向けに発売されたのである。
新章開幕の1作で、ゲームとしての基礎を確立させた『セカンドサン』。しかし、その続きは……
『セカンドサン』のストーリーは前作からさらに数年後を舞台とし、超能力者ことコンジットとして覚醒したデルシンが、彼らの収容と監禁を目的に活動する政府機関「統一保護局(D.U.P)」に戦いを挑むというストーリーになっている。
実際はさまざまな人物たちの思惑と事情が入り混じる始まりが描かれるのだが、その辺はゲーム本編で確かめてほしいということで割愛する。
基本的には前作『inFAMOUS 2』で確立されたゲームデザインを継承しているが、主人公交代に伴って扱う超能力が変更。デルシンの超能力は、他者の能力を自分のものにする「コピー」で、全3種類の能力を扱えるようになった。能力自体も「スモーク」「ネオン」「ビデオ」と前作から一新されると同時に、個々の技も大きく一新。よりハチャメチャな立ち回りが楽しめるようになっている。
なお、能力はストーリーの進行と同時に解禁されていく仕組みで、最初から3種類すべてが使えるわけではない。また、1度に使える能力は1種類だけで、切り替えはそれぞれの能力のエネルギー源を吸収する上書き形式となっている。
善か悪かを判断するカルマシステムも継承し、それによるストーリー分岐の仕掛けもさらなるパワーアップが図られた。最終的なエンディングもこれまで通り2種類用意され、デルシンを含む登場キャラクターたちの未来までもが善か悪かで大きく変わる、1作で2つのストーリーを楽しめるお得な作りになっている。
ほかにグラフィックもPS4への移行に伴い大きく進化し、特にキャラクターたちは人間さながらの豊かな表情を見せてくれるようになった。この表情変化はPS4のハード性能を活かしたものとして、日本語版の宣伝においても大々的にアピールされていた。舞台も前2作の架空の都市からアメリカ・シアトルという実在の土地になったことで、観光気分も味わえるように。実際は敵のD.U.Pに占拠されている土地のため、ところどころ”魔改造”されてもいるのだが、おかげで現実と虚構が入り混じった不思議なシアトルの光景を楽しむこともできる。
ストーリーも主人公を始め、登場キャラクターたちが若返った影響から、ティーン・ドラマチックな軽妙さもプラスされた。しかし、超能力を持った人間の責任と代償もきちんと描かれており、とりわけ悪の判断を下し続けた末に訪れるエンディングはそのテーマを色濃く表している。前作同様、ローカライズも音声を含めて完全な日本語化がされ、一連のストーリーを実力派の声優陣の演技と共に楽しめる。
全体としては前2作からさらに完成度を高めた新作に仕上げられており、本作をもって『インファマス』のゲームデザインは完成形に達した形だ。特にアクション周りの進歩は目を見張るものがあると同時に、今回は空中ダッシュも可能になって、ますます『ロックマンX』っぽさが増している。
ロードの短さ、現実と虚構が入り混じった実在都市モデルのマップなど、発売から相当な年月がたった現在に見ると、後の『ゴースト・オブ・ツシマ』にも形を変えて継承された要素も多い。特にロードの短さは『ゴースト・オブ・ツシマ』において、さらなる進化を遂げていることから、いかにその短縮にサッカーパンチプロダクションズがこだわり続けてきたのかを実感させられる次第だ。
発売約4ヶ月後にも、本編の前日譚を描いた『ファーストライト』を配信するなど、新章開幕を実感させる精力的な展開を見せた『セカンドサン』は、先行発売された欧米では発売9日で100万本を売り上げる大ヒットを記録している。日本は静かなヒットに留まったものの、総合的な成果は「インファマス」シリーズ史上最速とも報じられたことから、今後のさらなる新展開にも期待がかかった。
しかし、結果的にこの新章開幕がどうなったかは『ゴースト・オブ・ツシマ』の発売が物語る通りだ。結局、デルシンのストーリーはコールと違って続くこともなく、発売から10年の年月を迎えてしまった。
新作の開発は否定されるも、いつかの新展開を夢見て
シリーズを重ねた作品において、主人公の交代と新章開幕というのは一種の博打だ。もし、中身が悪ければ新作展開が長期に渡って中断し、酷ければシリーズ自体が終わりを迎えてしまう恐れすらある。
その点では「インファマス」は交代、新章の開幕いずれも成功したケースと言える。だが、「怪盗スライ・クーパー」シリーズの頃より、サッカーパンチプロダクションズは1作品の展開に集中する傾向があった。
それを踏まえれば、『セカンドサン』以降の中断は過去の流れに沿った結果でもあり、止むなき定めだったのかもしれない。だが、3種類の超能力を使いこなせるシステムにストーリー分岐など、さらなる進化を見込める要素を示しながら、それを発展させずに停止させてしまったのは、プレイヤー側の意見としては「もったいない!」の一言に尽きる。
いつまでも同じ作品を作り続けるわけにはいかない事情は理解できるが、せめてあと1作、この路線を継承して発展させた新作を見せてほしかった。前日譚『ファーストライト』も、文字通りの超音速でオープンワールドを駆け抜ける爽快感が異彩を放つ仕上がりで、ことさら“次”がなかったことへのもったいなさが際立つ。
冒頭で触れたように、最後の新作となった『セカンドサン』から10年がたったいま、新作が出る可能性については公式から否定されてしまっている。
だが、サッカーパンチプロダクションズは決して「インファマス」シリーズのことを忘れたわけではない。現に第1作の発売から10年を迎えた2019年には、Twitter(現X)において数々の制作秘話をツイート。
inFAMOUS turns 10 years old today! From Cole, Trish, Zeke and the team at Sucker Punch, thanks for a decade of being the best fans we could ask for!
As we craft Ghost of Tsushima, we thought it would be fun to look back at 10 inFAMOUS facts in honor of 10 years: pic.twitter.com/lxJEx9P2eM
— Sucker Punch Productions (@SuckerPunchProd) May 26, 2019
また、2022年にはパッケージ版とダウンロード版の早期(予約)購入特典だったダウンロードコンテンツ「コールの遺産」の配信を開始している。そもそも、2022年の新作開発を否定する声明自体が、忘れたわけではないことの証明とも言えるだろう。
2021年に『ゴースト・オブ・ツシマ ディレクターズカット』発売して以降、サッカーパンチプロダクションズの次の新作にまつわる話題は出ず、沈黙が続いている。
次の新作が『ゴースト・オブ・ツシマ』の続編になるのか、完全新作になるのかは定かではないが、「インファマス」に「怪盗スライ・クーパー」と、遊んだファンから根強い支持を得ている作品を展開し続けているスタジオ。次なる新作もそのような長く愛されるタイトルになることを願うばかりだ。
そして、2024年現在も『セカンドサン』と『ファーストライト』の2作はPlayStation Storeにてダウンロード版が販売中。最新のPlayStation 5でもプレイ可能なことにくわえ、4K画質&60fpsによる、美しく派手な映像も楽しめる(※『ファーストライト』は4K画質、60fpsに対応していない)。廉価版の発売で定価も引き下げられているので、『ゴースト・オブ・ツシマ』でサッカーパンチプロダクションズを知ったプレイヤーは、その源流にもあたる本作も遊んでみるのも一興である。
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