『崩壊:スターレイル』で描かれた「永遠に続く日曜日」とは 「週休7日」を掲げるサンデーのモチーフと今後

週休7日を掲げたサンデーは“復活”するのか

 5月8日にバージョン2.2が公開された、HoYoverseのスペースファンタジーRPG『崩壊:スターレイル』。バージョン2.2では、メインストーリーの「ピノコニー編」が完結するということもあり、物語の行く末に注目が集まっていた。舞台となる惑星「ピノコニー」は、別名「宴の星」とも呼ばれるリゾート地で、多くの人々が(文字通りに)夢の世界で享楽に興じる場所だ。

 今回のメインストーリーでは、ラスボスとして「サンデー」という人物が立ちはだかった。本稿では、このサンデーが持つ「週休7日」を理想とする考え方や、モチーフとなっている要素や引用元について整理・考察しつつ、今後の展開についても考えてみたい。

「週休7日」を理想とするサンデーの信仰

 今回登場したサンデーは、ピノコニーを管理する「ファミリー」の一員だ。『崩壊:スターレイル』の世界には、星神(アイオーン)と呼ばれる強大な力を持つ存在がおり、作中に登場する人物・組織はたいていの場合、どれかの星神を奉っており、その考えや指針に強い影響を受けている。「ファミリー」とそこに属する人びとは「調和」の星神を信仰しているのだが、今回のメインストーリーでは、サンデーがじつは「秩序」の星神の信徒であることが判明した。

 「調和」と「秩序」というふたつの星神。字面を見れば、意味としては似通ったものにみえる2つだが、スターレイルにおいては「互いに相容れない概念」であると表現されている。

 これがどういうことかといえば、ざっくり言うと、「調和」はみんなで支え合っていくこと、「秩序」はトップを据えて支配することであると考えられているからだ。当然、この考えはサンデーの行動原理にも反映されている。

 サンデーとともにピノコニーを管理する妹・ロビンは、ピノコニーの人びとに「夢の中で人生を学び、現実で生きることを学んでもらいたい」と思っており、一方でサンデーは「弱肉強食の現実よりも安全な夢の世界で暮らし続けるべきだ」と考え、ふたりは反発しあう。

 「秩序」の考えを聞くと、サンデーが「支配的な考えを持った悪役」のように見えるかもしれない。理想を叶えられる夢の世界(ピノコニー)に人々を閉じ込めるのは、自由意志を奪う行為だ。

 しかし、サンデーはあくまで博愛精神を持つ人物であり、それ故に歪な行動原理を持っている。ストーリー内の会話で、サンデーは「週休7日」が理想の社会制度であると発言した。サンデーの計画が完遂されると、人々は夢の世界に住み着き、「永遠の日曜日」を過ごすこととなる。

 ただし、その暮らしを維持できるのはサンデーただひとり。彼は徹底して「秩序」のもたらす利益を信じており、すべての人びとにそれを享受してもらいたいと考えているが、「秩序」の考えに照らせば、サンデー自身は宇宙が終わるまでピノコニーの支配者として「週休0日」の日々を過ごすこととなるだろう。利他的かつ献身的でありながら、非常に独善的な人物なのである。

「永遠に続く日曜日」は「暗黒の木曜日」への否定か

1926年のニューヨーク(画像:パブリック・ドメイン)

 しかし、なぜサンデーは「週休7日」を掲げるのだろうか。「永遠に続く日曜日」を、ピノコニーのモチーフになっている「ジャズ・エイジ」と照らし合わせると、少し見え方が変わってくる。

 「ジャズ・エイジ」とは、「狂騒の20年代」とも呼ばれ、好景気に沸いていたころの1920年代・アメリカ合衆国の世相を指す言葉だ。今回の舞台となっているピノコニーが「ジャズ・エイジ」をモチーフにしていることは当初から語られており、享楽的な雰囲気はもちろん、クロックボーイやスラーダ(※)といった当時から続く文化をオマージュした要素がふんだんに盛り込まれている。

(※「クロックボーイ」「スラーダ」:クロックボーイはミッキーのオマージュ。アメリカのカートゥーンアニメを意識したPVや、白手袋の4本指などデザインに共通点がある。「スラーダ」は、コカ・コーラをオマージュしたゲーム内の飲み物。アイテムの説明文に「スラーダはレシピの変更を3回試みたが、3回とも顧客に激怒され元に戻すことになった」とあり、ニューコーク騒動を想起させる)

 「ジャズ・エイジ」といえば、大戦が終結し大量生産によって自動車やラジオの普及が進んだ時代だ。人や情報の移動・伝達手段が一気に確立された時代でもあり、音楽シーンで台頭してきたジャズがラジオを通じて全米に広がった。また若者文化や大衆娯楽が一気に成長した時期でもある。

 証券取引による取引が一般化したことや大量消費を背景にした景気の好調により、市民の間でも自由に使えるお金が増えた時代でもあった。こうしたバブル状態で、人びとは楽観的な思想のもと娯楽に多くの支出をするようになったり、投機的な投資に積極的になったりもしていたという。

 しかして、「ジャズ・エイジ」は、世界恐慌の先駆けである「暗黒の木曜日」、つまりバブルの大崩壊によって終わりを告げる。永遠に続くと思われていた平和で豊かな日々が終わり、世界情勢が目まぐるしく変わる動乱の時代へ突入していくこととなる。

1929年の大暴落の後でウォール街に集まる群衆(画像:パブリック・ドメイン)

 サンデーの掲げる「永遠に続く日曜日」は、運営(そしてシナリオを担当した焼鳥氏)が込めた永遠に続く豊かな日々への願いであり、「暗黒の木曜日」の否定であるとも読み取れる。

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