新規VODはなぜ伸び悩む? データから見えた成熟した市場で生き抜く“成長ドライバー”とは
「ユーザー獲得」と「作品を育てる意識」の共存 独占配信のジレンマ
SVODは、とにかく加入者を増やさないことにはどうしようもない、そういう事業モデルである。加入者獲得のためには、競合と差をつけねばならず、その方法は、価格か、UIの使いやすさか、コンテンツぐらいしかない。価格を削るのは利益を削ることでありなるべくやりたくないとすると、コンテンツで差をつけることが必ず必要になってくる。
Netflixは国内外で多数のオリジナル作品を持っており、コンテンツの差別化という点で一日の長がある。ディズニー・アニメーション、スター・ウォーズ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)などを独占的に抱えるディズニープラスも同様だ。こうした大資本の海外事業者に対抗するには、国内事業者も独占的に配信するコンテンツを持たねばならない。実際に、そういう動きは活発で、各社様々な独占配信を提供している。
しかし、独占配信は諸刃の剣でもある。先に挙げたインプレスの動画維新サービスの市場レポートでも、この点について触れている。単一のVOD事業者に独占的に配信させると、大ヒットが生まれづらいという弊害があり、コンテンツホルダーから「独占配信の功罪」を問う声が聞かれているという。インプレスは『鬼滅の刃』が国民的大ヒットとなった背景には、多くのSVODで提供されたことがあるとし、SVOD事業者はユーザー数獲得だけでなくコンテンツを育てる意識が必要だと指摘している。
筆者は後発としてVOD市場に参入したDMM TVの山田昇氏に昨年取材したが、独占配信について「嫌がられますよね」と正直に語っていたことが印象に残っている。そのために、DMM TVは長期的に独占し続けるのではなく、「弊社はたとえ独占配信しても、1年ではなく半年でどうですかとか、3カ月ならどうでしょうかという形で作品にとってベストな方法」を模索するため権利者とコミュニケーションを取っているのだそうだ。
(参考:新作アニメ配信数No1を獲得、後発の動画配信サービス「DMM TV」がアニメに本気な理由とは)
一般視聴者にとってはどこでも観られる方が良いだろう。だが、作品を配信するプラットフォームも成長せねばならない。そこは持ちつ持たれつな部分があり、数社の寡占状態が常態化すると今度はコンテンツホルダーの立場が弱くなることだってあるかもしれない。競争原理を保ちつつ、ユーザーの利便性を損なわず、権利者と一緒に成長していこうという姿勢が配信事業者には求められてくるだろう。
配信市場の次の成長ドライバーは“スポーツ”
しかし、動画配信市場の競争は、アニメやドラマなどのフィクション作品から、ライブで楽しむコンテンツへと軸足を移していく可能性が高い。おそらくそのなかでもスポーツ中継が大きな成長ドライバーとなるだろう。
Netflixがアメリカのプロレス団体「WWE」と契約し、U-NEXTも野球・サッカー・ゴルフなどスポーツ分野の配信を強化しているし、Amazon Primeもボクシングなどスポーツ分野の強化を始めている。また、特にABEMAに関しては、大谷翔平が所属するドジャースの開幕戦を含む2024年のMLBの324試合を配信したり、“欧州5大リーグ”が無料視聴可能になる「ABEMA de DAZN」を提供したりするなど、スポーツを軸に拡大を狙っている印象だ。
元来、スポーツの中継はリアルタイム性が強く放送向きのコンテンツで、VODとは相性が良くないと思われていた。実際にNetflixはリアルタイム配信よりもユーザーが好きなときに視聴できる形でコンテンツを提供し、即時性にはこだわってこなかった。しかし、コンテンツの獲得競争が激化し、アメリカではハリウッドの脚本家と俳優のストライキで映画もドラマも制作が滞ったりもしたので、別のところで勝負する必要が出てきたことも背景にある。
しかし、人気スポーツの権利は巨額だ。DAZNが度々の値上げで批判されているが、巨額な配信権料に対応するためにはある程度の資金が必要となる。市場シェアが小さい事業者にはますます参入することが難しい。
配信競争の中心がスポーツに移っていくのなら、配信事業者の統廃合はますます加速すると筆者は思う。大手以外の事業者にとって、今年は正念場となるかもしれない。
若者は有料コンテンツに何を求めるのか 『Netflix』月額790円の“広告プラン”から考える
動画配信サービス『Netflix』は11月4日から、月額790円で利用できる広告付きプラン「広告付きベーシック」を開始した。 …