若者は有料コンテンツに何を求めるのか 『Netflix』月額790円の“広告プラン”から考える

若者は有料コンテンツに何を求めるのか

 動画配信サービス『Netflix』は11月4日から、月額790円で利用できる広告付きプラン「広告付きベーシック」を開始した。

 このプランでは、平均して1時間の番組につき4分程度の広告が流れるという。作品の再生中にも広告が流れるということで、ネット上では様々な意見が見受けられた。しかし、今までの『Netflix』で一番安いプランだった990円の「ベーシックプラン」に比べて、200円ほど安く作品を視聴できる点は魅力的である。

 一方で世界的にみると、『Disney+』などストリーミング戦略に拍車をかける企業が増えたことで、『Netflix』は低迷傾向にあるとされている(※1)。

 そこで今回は、ネトフリの広告プランは成功するか世界全体と日本の動画市場の比較も踏まえて考えていく。また、現在のサブスクの広告事情とともにこれからの動画配信サービスの位置づけについても考察していく。

『Netflix』を脅かす『Disney+』の追い上げに続いて登録者数を伸ばしていくサブスクの戦略とは

 まずは、ここ1年の世界的な動画配信サービスの現状について見ていく。

 動画配信サービスは、コロナ過で巣ごもり需要が高まったことにより加入者が急増したといわれている。なかでも、『Netflix』は世界で最も加入者が多く、『愛の不時着』や『ストレンジャーシングス』などのオリジナル作品の評価も高い。一方で2019年にサービスを開始した『Disney+』も会員数を伸ばし続けており、2026年には『Disney+』の会員数が『Netflix』の会員数を上回ると米The Hollywood Reporterは予測している(※2)。

 『Disney+』の会員数が増加しているのは、Disneyの作品が見放題であるほかにも、『Disney+』でしか視聴できないオリジナル作品の配信、さらに韓流ブームに伴い、注目度の高い韓国作品の日韓同時配信に力を入れている点も理由に挙がるだろう。

 迫りくる『Disney+』の脅威からも、『Netflix』は配信作品以外のところでもより多くの会員数を獲得するために、広告も取り入れた新たな料金プランの導入にいち早く踏み込んだのではないだろうか。

広告を見ることで安く視聴するという選択肢

 現在、日本国内で広告を取り入れた代表的な動画配信サービスと言えば『TVer(ティーバー)』や『ABEMA』などがあげられる。これらのサービスは無料で動画を視聴することができるが、それには広告視聴が必須となることが特徴だ。たとえば『ABEMA』は、広告なしで動画視聴したい場合、有料会員になる必要があるというような仕組みとなっている。一方で『Netflix』が発表した「広告付きベーシック」は「広告を加え、既存のプランよりも安い価格帯の有料プランを提供する」という逆転の発想。動画配信サービスがいままで踏み出せずにいたプランともいえる。

 インプレス総合研究所が発表した『動画配信ビジネス調査報告書2022』(※3)によると、「利用している有料の動画配信サービス」のトップは『Amazonプライム・ビデオ(以下、アマプラ)』で次に『Netflix』が続く結果となった。さらにほとんどの有料動画配信サービスが昨年に比べて利用者数を増やしている。


 『アマプラ』が圧倒的に支持されているのは、そもそも大元の『Amazonプライム』の年間費が4900円であるというコスパの良さや、『Amazonプライム』の会員であれば自動的に『アマプラ』の会員となって視聴することができるというシームレスな登録方法などが考えられる。2位につける『Netflix』は『アマプラ』に差をつけられながらも、他配信サービスとは一線を画しており、オリジナル作品の充実度をいち早く日本国内に印象付けた「Netflixブランド」の強さも感じられる。

 興味深いのは、年代別の「よく視聴する映像・動画の種類」の調査結果だ。「無料の動画配信サービス」「有料の動画配信サービス」で比較したところ、20代男女、30代女性だけが「無料の動画配信サービス」より「有料の動画配信サービス」のポイントが上回っているのだ。

 また、「無料の動画配信サービスのうちよく利用するサービス名」を調査した結果、『TVer』の利用者数は昨年より7.0ポイントも増加する結果となった。好きな時間に作品を視聴したいという人が増え、広告を受け入れながらも「無料の動画配信サービス」を支持する人が全体的に増えたことに合わせ、上述した年齢層は「有料の動画配信サービス」を支持しているのだ。

 今回『Netflix』がこうした低価格の広告付きプランを打ち出したことは、20代〜30代の若い層が有料動画配信サービスを支持している点では、日本国内でいえば相性がいいのかもしれない。

 しかし、すでに有料配信動画サービスに加入しており、「有料であれば広告は流れない」という意識が定着している若者たちが、すんなりと『Netflix』の広告ありプランに入るとは考えにくい。しかし新規ユーザーであれば、YouTubeやTverなどの動画配信サービスだけでなく、SNSでも広告がありきサービスとの付き合いが長い現代の若者は、広告が流れることに“違和感”を感じないからこそ、『Netflix』の広告ありプランに加入する人も多いと予想することもできる。若者も手を伸ばしやすい低価格で『Netflix』が視聴できるという魅力が会員数にどのように影響していくのかは注目したいところだ。

 広告に作品視聴を妨げられずに、自分の好きな作品を好きなタイミングで視聴できるということが有料動画配信サービスの醍醐味のように感じていたが、『Netflix』の新プランが覆す形となった。『Netflix』に続き“広告ありプラン”を打ち出す動画配信サービスが出てくるのかも注目が高まる。

※1:優等生に異変?急速に進む「Netflix離れ」のなぜ | The New York Times | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
※2:Disney+の会員数、2026年にNetflixを超える見込み ─ 米企業が予測データ発表、収益額はNetflixに軍配 | THE RIVER
※3:有料の動画配信サービス利用率は28.9%に続伸、コロナ禍で動画が生活に深く浸透 『動画配信ビジネス調査報告書2022』6月23日発売 | インプレス総合研究所 (impress.co.jp)

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