新規VODはなぜ伸び悩む? データから見えた成熟した市場で生き抜く“成長ドライバー”とは

新規VODはなぜ伸び悩む理由とは

 コロナ禍の巣ごもり需要により、大きく成長を遂げた国内動画配信市場。NetflixやAmazon Prime VideoといったVODは、いまや私たちの生活に定着したといっても過言ではない。

 事実、映像産業向けのデジタルマーケティングやデータを提供しているGEM Partnersが発表した2023年の国内動画配信市場の推計値によると、2023年度は、前年比8.2%増の5,740億円と、コロナ禍後でも堅調に成長率を維持している。さらに、同社は2028年までに動画配信の国内市場は7000億円にまで達すると予測している。つまり、今後もまだ日本の動画配信には成長の余地があるということだ。

(参考:GEM Partners『動画配信(VOD)市場5年間予測(2024-2028年)レポート』

 しかし、この市場もかなり成熟してきていて、サービス終了や買収によって合併される事業者も出てきており、徐々に優勝劣敗がはっきりしてきている。VOD市場、特に主流となっている定額動画配信サービス(SVOD)はある程度のユーザー数を獲得できないと利益を出せないため、すでに大きな加入者を持つ事業者と新規参入組ではどうしても格差が生まれる。

 そんな新規参入組、あるいは市場シェアが低い事業者に未来はあるのか、そして動画配信市場の成長を促す次のドライバーはなにかを考えてみたい。

動画配信は統廃合で淘汰のフェーズに

 動画配信市場をリードするのはNetflixやAmazon Prime Videoなどアメリカ発のプラットフォームだ。しかし、2023年は国内企業が運営するU-NEXTが存在感を高めた年だった。U-NEXTは、TBSやテレビ東京のドラマやバラエティー番組を中心に揃えたParaviとの統合を発表。テレビ局が運営する動画配信サービスは日本テレビのHuluやフジテレビのFOD、テレビ朝日のTELASAなどがあるが、どこも伸び悩んでおり、なかなか大きな利益に結びついていない。U-NEXTはこの買収や積極果敢なコンテンツ調達によって、ユーザー数を伸ばし、国内市場ではNetflixやAmazon Primeと肩を並べる存在となっている。

 GEM Partnersの調査によると、動画配信国内市場でのシェアは、2023年度の一位はNetflixで2位がU-NEXT、3位がAmazon Primeとなっている。ただ、1位のNetflixは前年比-0.6%に対し、U-NEXTは+2.4%と大きく伸長しており1位との差を縮めている。

(参考:GEM Partners U-NEXTがシェア拡大し5年連続首位のNetflixに迫る、成長続く定額制動画配信市場は5,000億円超え(前年比12.1%増)

 ただ、このシェアランキングは、ユーザーの支払った金額をベースにしており、契約者数のランキングではない。U-NEXTの月額料金は2189円と他のサービスと比べて高めに値段を設定し、無料ポイントで還元するという施策を展開しているために、金額ベースでは上位になりやすい。

 利用者数ベースでは、2位以下を大きく引き離してAmazonがトップだろうと推察される。年会費5900円という低価格で金額ベースのランクで3位につける同サービスは、利用者アンケートなどではNetflixすら引き離して圧倒的トップとなることが多い。実際、インプレスの2023年度版動画配信サービスの市場レポートでも、Amazonは競合を大きく引き離してトップを独走している。

(参考:インプレス総合研究所 【2023年度版】動画配信サービスの市場レポート(市場規模、トレンド)

 市場の成熟とともに競争は激しくなっている。U-NEXTの堤天心社長が「生き残る配信業者は3つ」と取材で発言している通り、これから寡占化が進む可能性があり、Paraviの合併のようなことは今後も起きうる。

(参考:東洋経済オンライン 「生き残る配信事業者は3つ。そこに入りたい」

 動画配信市場は、ユーザー数のスケールが事業の成否を決めると言ってよい。ユーザー数が多ければ売上も大きくコンテンツの調達資金も潤沢になるため、結局のところ、多くのユーザー数を抱えるところが圧倒的に有利だ。そのため、生き残る配信事業者は3つくらいという堤社長の予測は的外れではないと思う。アメリカでも動画配信市場でも競争は激化しており、コムキャストのPeacockとパラマウント・グローバルのParamount+に合併の噂が出ている。

(参考:コムキャストとパラマウント・グローバル、PeacockとParamount+の合併について協議か

 日本もアメリカも、徐々に生き残れる配信事業者と生き残れない事業者がはっきり分かれつつあるのだ。

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