生成AIは誰かの著作権を侵害しているのか?  弁護士・柿沼太一が語る“日本の著作権法とAIの関係性”

弁護士・柿沼太一が語る著作権法とAIの関係性

著作権侵害かどうかの鍵を握るのは「依拠性」

——ここまでは主にAIの「学習」について伺ってきましたが、AIの「利用」についても詳しく教えてください。AIで生成した画像の利用が著作権侵害にあたるのは、どのようなケースでしょう?

柿沼:たとえば、Image to Imageの手法で、他人が撮影した写真をAIに入力し、それをイラスト風にレタッチした画像をAIで生成してネット上で公開したら、それは著作権の侵害にあたるでしょう。これはAIに限らず、誰かの写真を無許可でイラストとして描きおこす行為が、複製権や翻案権の侵害に該当するおそれがあるのと全く同じです。
その意味で、「人間が行えば著作権侵害に該当する行為が、AIを使ったからセーフになるケース」というのはありません。

 判断が難しいのは、学習に利用した著作物にそっくりな画像がたまたま生成されてしまったケースですね。著作権法においては、ある作品が既存の著作物に偶然一致しているというだけでは、権利侵害を問えないようになっています。というのも、偶然の一致まで著作権侵害としてしまうと、創作活動全般が困難になってしまうからです。したがって著作権が問題になるのは、作品Aと作品Bの表現が「類似」していて、かつ作品Aに「依拠」して作品Bが創作されたと証明できるケースに限られています。

——つまり、もしも自分が描いたイラストにそっくりな画像をAIが生成しているのを見つけたとしても、それだけでは権利侵害を主張できないということですか?

柿沼:もちろん、当該既存の著作物を知りつつ、それと類似した画像を生成した場合には著作権侵害に該当します。それ以外にも、既存の著作物に類似した画像を生成できるよう、意図的に特別な学習をさせたモデルを使っていたり、プロンプトで既存著作物に類似させるような指示を出しているのであれば、依拠性は認められると思います。著作権侵害も主張できるでしょう。けれどそうではなく、本当にたまたま、それまでユーザーが接したことのない、既存の著作物に類似した画像が生成されたケースだと、依拠性があるかは明らかではありません。学説上はこのような場合でも依拠性があるとする先生が多いとは思いますが……。また、そもそも生成AIのほとんどが、その学習に用いたデータセットを公開していません。本当に自分の作品がAIの学習に利用されたのか、まずはそこを明らかにするのが難しいと言えます。

——特化学習やプロンプトでの指示によって、既存の著作物のタッチや作風を再現する行為についてはどうですか?

柿沼:タッチや作風は、著作権の保護対象外です。つまり「ピカチュウを描いて」とAIに指示を出して、ピカチュウのイラストを生成することは著作権法に抵触しますが、「新しいポケモンを考えて」という指示で、すでに存在しているどのポケモンにも似ていない、「ポケモン風のキャラクター」を生成することは著作権の侵害にはあたりません。

有名人のイラストをAIで生成したら?

——著作権とは別の、人物の肖像等に関連する権利として肖像権やパブリシティ権があります。こういった権利とAIの関係性については、どう考えればいいのでしょう。たとえば生成したイラストが現実に存在する誰かに酷似していた場合、肖像権を侵害していることになりますか?

柿沼:法律で明文化された権利である著作権とは違って、肖像権は裁判で認められた権利です。これまでの裁判例で肖像権の侵害が認められたケースは、他人を無断で盗撮した場合や、名誉毀損的な記事と共にその人格を貶めるような創作物と共に人の顔写真を利用したケースに限られます。こうした判断は恐らく生成AIにも適用されるでしょう。つまり、AIで生成した画像を、特定の個人を貶めるような表現と共に利用した場合には肖像権の侵害にあたる可能性があります。

——なるほど。けれどそれも常識の範囲での利用であれば問題はなさそうですね。

柿沼:そう思います。たとえばAIを使ってゲームのNPCを生成したとして、それが誰かにそっくりだったとしても、そのキャラクターが明らかに不適切な場面に登場するのでなければ、肖像権の侵害にはあたらないはずです。

——有名人にそっくりな画像が生成されたとしたらどうですか? その場合は、肖像権だけではなくパブリシティ権も絡んできますよね。

柿沼:それを商業利用したらアウトですね。逆にどんなにそっくりでも、商業利用しなければパブリシティ権の侵害にはあたりません。とはいえ個人の人格を貶めるような表現をすれば、今度は肖像権に抵触するので、やはり常識の範囲内での利用が求められると思います。

 肖像権やパブリシティ権に加えて、気をつけてほしいのは商標権です。たとえばAIを用いてロゴを作成したとして、それが商標登録済みのロゴと類似していた場合は、それが偶然の一致であったとしても商標権の侵害に問われます。そこが著作権との大きな違いですね。ただ登録済みの商標はweb上のデータベースで検索できるので、事前にチェックすればそういった事態は避けられるはずです。

——人が制作したせよ、AIが生成したにせよ、類似した商標がないかのチェックは欠かせないということですね。ちなみに背景にロゴが入り込んでいるような場合はどうですか?

柿沼:それは問題ありません。たとえば「2023年の渋谷」というプロンプトを入力して生成された画像に実在の有名ブランドに類似したロゴが書き込まれていたとしても、それだけでは商標権の侵害にはあたらないので安心してください。

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