『Sky 星を紡ぐ子どもたち』に込められた音楽のこだわり サウンドデザイナー・水谷立が音色にのせた作品のメッセージ

『Sky 星を紡ぐ子どもたち』に込められた音楽のこだわり

未経験ながらも挑んだ「ジャパン・ブランド・リード」のやり甲斐

ーーthatgamecompanyで水谷さんが担当されている“ジャパン・ブランド・リード”という役職について教えてください。

水谷:端的に言えば、『Sky』をもっとたくさんの人に知ってもらうため、そして体験してもらう機会を作るために色々な活動をしています。たとえば、ゲーム内外を含むイベントやコラボレーションなど、日頃から様々なプランニングを行っています。

 thatgamecompanyはアメリカ・カリフォルニア州に拠点があり、開発スタッフも世界各国から集まっていて、実にグローバルな開発会社です。そこで生まれたゲーム作品のテーマだったりメッセージ性を日本の方々へ届けるにはどのような言葉を使えばいいのか、どんな方法を取るべきかについて、日本固有のカルチャーを踏まえたアプローチを日々考えているわけです。


ーー日本の市場に向けたプロモーションについて、具体的に試行錯誤したポイントなどがあればお聞きしたいです。

水谷:一番最初に取り組んだのは「ゲーム内テキストの翻訳」です。そもそも『Sky』は感覚的にゲームが楽しめるよう、ゲーム内テキストを最小限にとどめた作品なんです。なのでテキスト量もそこまであるわけでもないのですが、それでも機能説明などで一定の文章が存在します。当初は、テキスト翻訳を外部に委託して日本語版を作っていました。ところがリリース前の段階でもう一人の日本人開発者と共にテキストをチェックしたところ、普段ゲームを遊ばない人を含めた日本人プレイヤーから見た場合、「文章の分かりやすさ」が基準を満たしていないだろうと感じられたんです。

 ここで幸いしたのが、自分も『Sky』の開発に携わっていたことです。実際にゲームをデザインする立場で、ある要素がどのような感情をもたらすのか、どういった意味を持つのか、ゲーム体験を通して何を伝えたいのかなど、あらゆる部分を何度もチーム内で話し合い、血肉としていった経験がありました。僕らが心がけたのは、それらを日本語へ置き換えるということ、それも、ゲームが制作された国を意識させないくらい、普段日本人が遊ぶゲームと比較しても違和感を感じない自然な日本語表現を用いることでした。それまで専門職としてローカライズ経験があったわけではないものの、結果的に親しみやすく不自然さを感じない日本語テキストになったと思います。

ーーでは、ジャパン・ブランド・リードという立場から見て、日本のゲーム市場に見られる特徴や海外市場との違いについて教えてください。

水谷:まず大きな特徴として、コミュニティの熱量の高さが挙げられます。特にTwitterなどのSNSを利用した「趣味の共有」が、他の国と比べても活発です。たとえば、アメリカではDiscordやRedditといったフォーラム内のコミュニティが活発なのですが、日本の場合はSNSが盛り上がっています。さらに、コミュニティ内でもクリエイティブなセンスを発揮される方がとにかく多い。イラスト・テキスト・手芸……など、各々が得意とする方法で自分の好きなものを表現するだけでなく、それらを受け入れる文化が深く根付いていると思います。

 ただコミュニティの熱量が高い一方、コミュニティ同士が独立しているようにも見受けられます。『Sky』が好きで応援してくださっている方々は、その想いを共有するため、ファン同士でつながり合うための専用アカウントを作ってコミュニケーションを取り合っています。別の作品について話し合う場合も、同じく独立したアカウントを作成する場合が多いのではないかと。

ーーSNSを中心にコミュニティが形成されつつ、一方でクローズな環境が特徴であると。

水谷:なのでコミュニティ内で大きく盛り上がった場合、その熱量が他のコミュニティへ伝播していくところに壁があるのかもしれないです。未体験の方々に『Sky』を知っていただくためにも、「コミュニティの壁をどうやって乗り越えるか」という部分にプロモーションの難しさとやりがいを感じますね。

サウンドとは作品に込められたメッセージとプレイヤーを繋ぐ「架け橋」

ーー『Sky』のサウンドデザインを掘り下げる前に、まずは水谷さんが音作りに興味を持った経緯をお聞きしたいです。何か影響を受けたゲーム作品はありましたか?

水谷:サウンドデザインに関心を抱くきっかけになった作品は、大きく分けて2つあります。1つ目はゲームボーイで発売された『テトリス』。みなさんご存知のようにピースを積み上げて消していくパズルゲームで、「ピコンッ」「ピキューン」といった単純な電子音が子供ながらに気持ちよかったんです。当時は小学生でしたが、効果音を聞きたいがために毎日『テトリス』で遊んでいました。

 そこから年月が経ち、自分の将来を見据える際に衝撃を覚えたのが、2000年に日本でもリリースされた『WIP30UT』(ワイプアウト3)です。イギリスの著名なスタジオ「デザイナーズ・リパブリック」がアートワークを手掛けたレースゲームで、近未来な世界観と洗練されたテクノミュージックが非常に高い相乗効果を生み出していたんです。自分も音楽がずっと好きで創作活動を行っていましたが、『WIP30UT』を遊んだことで、ビデオゲームが持つインタラクティブ性や幅広い表現手法に心を突き動かされました。

ーー音作りにおいて水谷さんが最も大切にしているこだわりを教えてください。

水谷:ゲーム作品が最も伝えたいテーマを正しく理解し、サウンドの面からプレイヤーへ伝達する手助けを行っています。『Sky』の場合は言語で表現される情報が少ない代わりに、世界中の人たちが音を聞いて時間や空間を共有し、感情だったりゲーム体験を分かち合うことができたりするようにデザインしています。さらに言えば、画面の向こう側にいる人がどこに住んでいて、どんな言葉を話すかに関わらず、心地よいゲーム体験だと思えるようなサウンド設計を心がけています。



ーー演出面が特徴的な『Sky』のなかでも、星の子の飛行要素は『Sky』を象徴するアクションとして知られていますが、サウンドデザイン面で特に力を入れた点をお伺いしたいです。

水谷:「『Sky』とは空を飛ぶゲームである」と言い換えることもできますので、その点について質問をいただけたことがすごく嬉しいです。飛行状態を再現するため、本作には少なく見積もって10個以上の音が用意されています。もっと言えば、空を飛ぶ際のスピードや地面からの高さだったり、プレイ中の情報に合わせて音をリアルタイムへ変化させたりしています。ほかにも「ケープが羽ばたく音」「キャラクターが回転する音」「揚力を失って落下する音」……など、キャラクターの状態をすべて反映するべく、物理的なシミュレーションをサウンド面で行っているわけです。

ーー単純にサウンドを切り替えているのではなく、現実の音色へ近づくように様々な要素が組み合わさっているのですね。『Flowery』や『風ノ旅ビト』など、過去作からサウンド面で踏襲した点はありましたか。

水谷:「そのまま踏襲した」という意味ではほとんど無いと思います。とはいえ、『Flowery』や『風ノ旅ビト』は、自分がthatGameCompanyに入るきっかけになった作品なので、「絶対に負けたくない」という気持ちで何十回もプレイした記憶があります(笑)。どんな場面でどのような音が使われているのか。「良い物を作る」という意気込みを掲げ、ひたすら分析の日々が続きました。どちらも世界とプレイヤーの結びつきを強く感じさせるので、『Sky』においてもプレイヤーと環境が結びつくサウンド面のデザインにこだわりましたね。

 また、『Sky』は「モバイル端末向けにリリースされたアプリ作品」という経緯があります。十字キーを押した方向にキャラクターが動く従来のコンソールゲームと違い、モバイル端末はプレイヤーが指で画面をなぞったり、タップやスワイプによってキャラクターを動かしたりします。よってサウンドデザインにおいては、プレイヤーの指の動かし方、画面をなぞる速さ、強さに合わせて様々な種類の音を適切に配分しなければなりません。タッチ操作は時にまったく異なるパターンを生み出しますが、プレイヤーの肉体的な動きと音が連動し、より一体感が感じられるよう制作を進めました。

ーーモバイル端末のタッチ操作はフィードバックの仕方も大きく異なりそうです。では、マルチプレイにおけるサウンドデザインについて工夫した点をお聞きしたいです。

水谷:他者の存在を感じること、ですね。他者がいることによって心地よさを感じる音作りを念頭に置いたうえで、一方で「マルチプレイにおける音の管理の重要性」は苦労した点です。これはリアルタイムで楽しむゲームというメディア特有のものですが、ある音が鳴る際、「すべてのシチュエーションをあらかじめ定義することができない」という問題を抱えているんです。たとえばある空間にプレイヤーAがいたとして、その周囲に何人、何十人も別のプレイヤーがいると仮定します。この時、別のプレイヤーたちが一斉に楽器を演奏したら、周りを囲まれたプレイヤーAはとても心地よいとは言えないですよね(笑)。これは端的な例ですが、複数人のプレイヤーが集まった状態で快適な音環境を保つためのデザインは苦労しますし、作品の発売前から発売後もずっと改良を続けている部分でもあります。

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