オンラインゲームに見る“メタバースの起源” 仮想空間の遍歴とこれから
現実世界と仮想世界が交錯する現代、その交点ともいえるメタバースは、新たな価値創造の舞台として期待されている。そして、その源泉ともいえる存在が90年代から2000年代初頭のオンラインゲームだ。そこで行われていた交流や独特の生活感は新鮮で魅力的な体験を提供し、現在のメタバースの原型を形成したといえる。改めていま、当時のオンラインゲームの中で育まれていたカルチャーについて考えることで、これからのメタバースの発展のヒントが見つかるかもしれない。
オンラインゲームが示した“生活とコミュニケーション”の楽しさ
2000年代に人気を博し、現在にまで続く多くのオンラインゲーム、特に3D MMORPGというジャンルのゲームは、ユーザーが自身のアバターを通じてゲーム内世界を探索し、他のプレイヤーと交流しながらクエストを達成したり、アイテムを集めたりすることを楽しむものだ。こうしたゲームには多くの場合「家」を持つ機能や、結婚の機能、モノを採取したり売買したりする機能が含まれている。一部のゲームやソフトウェアサービスはこのコンセプトをさらに推し進め、ユーザーが自分自身のユニークな仮想生活を作り上げる可能性を追求した。
たとえば『Second Life』は、2003年にリンデン・ラボが開発したMMOゲームで、従来のゲームとは一線を画していた。一般的なゲームが目的指向型のプレイを提供する一方で、『Second Life』はプレイヤー自身が自分の目標を設定し、実現するという、ユーザー主導型の体験を提供していたのだ。
また『Second Life』の大きな特徴として、実際の社会と類似した経済システムを持っている点が挙げられる。ユーザーは自分のアバターを通じて、物を作り、売り、買うことができる。その経済活動は、ビジネスの成功と失敗、貧富の差、さらには詐欺や犯罪といった現実世界と同じような問題を引き起こすこともあった。
『Habbo Hotel』(国内では『Habboホテル』)は、2000年にフィンランドの会社Sulakeにより開発されたオンラインの仮想世界ゲームだ。名前が示すように、その舞台は一種の豪華なホテルで、ユーザーはそれぞれ自身のアバターを作成し、そのアバターを通じてホテル内で自由に行動することができる。
『Habbo Hotel』の特徴的な要素は、ユーザーが自身の部屋をカスタマイズできる点だ。ユーザーは家具や装飾品を購入し、それを使って自分だけの部屋をデザインする。これらのアイテムは「Habboコイン」を使って購入し、このコインは実際のお金で取引されている。ユーザー間でアイテムの交換も可能で、一部のユーザーはこれをビジネスの一環として取り組んだ。
『Second Life』と『Habbo Hotel』の共通点として、SNS的な面を大きく持ち、交流自体がゲーム性を持つサービスだったという点がある。ユーザーはアバターを通じて他のユーザーとコミュニケーションを取ることが可能で、友達を作ったり、共通の趣味や関心を持つコミュニティに参加したりすることができた。また、ゲーム内での行動はユーザーに完全に委ねられており、特定のゲーム目標を追求するよりもむしろ、自己表現やコミュニティ参加が重視されていた。
これらのゲーム型SNSは、自由度の高さとユーザーの創造性を最大限に引き出す特性により多くの人々を引きつけた。しかし、『Second Life』も『Habbo Hotel』も現在に至るまでサービスを続けているものの、2000年代当時の流行後には急速に衰退してしまった。その一因として、「ユーザー管理の欠如」が挙げられる。たとえば『Second Life』では、ユーザー間でのいじめや詐欺が問題となった。
また、リアルマネートレーディング(RMT)と呼ばれる現実の通貨を使用した取り引き(原則オンラインゲームでは禁止されているが、『Second Life』は禁止していなかった)も広く行われ、ゲーム内の経済バランスが崩れることがあった。『Habbo Hotel』は若年層の間では今も一定の人気を保っているものの、日本でのサービスはすでに終了している。