「新しさと変わらなさ」の狭間でヒトとAIが共存するには 渋谷慶一郎と考える

渋谷慶一郎に訊くヒトとAIの現在地

"アンドロイドとの共演"は独特の団結が生まれる?

ーー客演のStephanie Poetriさんの起用は、いわゆる彼女のシンガーソングライターとしての魅力や可愛さといった要素ではない部分にフォーカスされているような印象でした。

渋谷:88risingと話した時に今回のプロジェクトやアンドロイドオペラについて「こういう文化こそ日本から発信する意味がある」というリアクションをもらったんです。彼らはアジアの文化、ミュージシャンをニューヨークから発信しているから、そういう感性があるんですね。それからプロジェクトを一緒にやろうという話になって、Stephanieを紹介してもらいました。ディレクションはWhatsAppで、あとは音源や歌はデータでやりとりして。

 直接会ったことはありませんが、彼女は非常にオープンでチャレンジングな印象でした。ただ彼女がInstagramで上げた「BORDERLINE」の動画は圧倒的にコメント数が少なかったたのは面白かった。多分ファンが付いていけないんだと思います(笑)。

ーー彼女とオルタ3の歌が混ざったメロディは、意外にも違和感がないように聴こえました。

渋谷:Stephanieの声にはそれほどエフェクトはかけてないですね。ダブルにしたりディレイを片方にかけたりとかはしていますが。実は最初にかなりエフェクトしたのですが「これは彼女らしくない」とか周りに言われて、やはり人間とやるのは面倒くさいなと思いましたね(笑)。

 

ーーまた今回のコード進行についてですが、音楽理論的に言うとベースの動きが<Ⅵ-Ⅴ-Ⅳ(-Ⅴ)>とシンプルなコード進行になっています。また渋谷さんの音楽は「Scary Beauty」や「Midnight Swan」における<Ⅳ-Ⅴ-Ⅵ>などのポップスでもよく使われる進行の楽曲がいくつかありますが、それについては何か意図があるのでしょうか。

渋谷:<Ⅳ-Ⅴ-Ⅵ>は多いですね。なぜかアンドロイドと相性がいい。僕の楽曲にそのパターンが多いから学習しているのかもしれないけど、即興でピアノを弾きながら歌わせる時もそのコード進行だとうまくいくことが多いです。

 作曲する時は全体で浮かんでくるので、あまりコードにフォーカスしませんが、色々な音色を使っているのでテンションを効かせすぎたりすると情報過多で音楽として耳に入りづらくなるんですよ。逆に言えば、コードの複雑化はいくらでもできるので、シンセやヴォーカロイドの音色情報を進化させる方に興味が行っているのかもしれない。

 ただ、70年代や80年代のように複雑なテンションコードや転調をノイズのように復活させてもいいかなと最近は思っています。こういうのは本当に気分でうつろいゆくものなんです。00年代の音楽を聴くと結構ラディカルだなと感じることが多いから、あのギザギザしたノイジーな音色はいま聴くと新鮮だったりします。先日リリースした『ATAK026 Berlin』も00年代のデジタルノイズを元にしたアルバムですが、当時より今の方がしっくり来る。

ーー「KAGUYA BY GUCCI」の音楽もそうでしたが、ベースの派手な音色もポイントになっている気がします。

渋谷:最近は珍しくエレベの音色を使っています。ここまでアンドロイドにしろAIにしろ人工的な制作が常態化してくると、人間の演奏というかバンドのシミュレーションみたいな音色の方が違和感があって面白いんです。フレーズも「細野晴臣さんとピノ・パラディーノをミックスしたAI」みたいなイメージで手弾きで入力してからエディットしました(笑)。人間的なものをテクノロジー側から見返して、再利用していくという感覚。今までは僕の音楽にエレベもアコギも入ることはほとんどなかったけど、それをシミュレーション的に入れるのがマイブームなんです。

 Native Instrumentsのソフトで、50年代のアビイ・ロード・スタジオで録ったドラムセットの音を組めるんですよ。しかも叩く強さのバラつき具合のパーセンテージを決められるランダム化機能があって、割合を上げすぎると滅茶苦茶な強さになりますが、少しかけると人間ぽくなる。古いドラムの音色も演奏のランダマイズもデジタルでコントロールできることに興奮しましたよ。そういうことが本当に好きなので、いくら時間があっても足りない(笑)。

Kaguya by Gucci

ーー普段の作業時間はどれくらいなんですか?

渋谷:長いです。全部自分で作業するから睡眠の6時間以外、1日18時間制作している時もあります。「BORDERLINE」も途中に作ったものをボツにしていたり、かなり時間をかけました。

ーーMV撮影時の話も聞きたいです。オルタ3を地下に運び込んだ時はどんな感じだったのでしょう?

渋谷:アンドロイドと世界中に行きましたが、今回もプログラマーや照明やPAなども含めたクルーでせーの、と運び込むんです。現状のチームというかクルーは控え目に言って最高です。

 中心がボーカリストや僕だったら「なんだあいつ」とか思うときも多々だと思うんだけど、真ん中にいるのがアンドロイドだからなのか、団結力が独特ですごい。あと、初めて一緒に働く劇場のスタッフとかも2〜3時間でアンドロイドに共感を持ち始めるんです。

ーーAIによる作詞の著作権について、渋谷さんの立場から意見したいことなどはありますか?

渋谷:コンセプチュアルな行為として著作権をロボットに帰属させる流れはあり得ると思いますけど、作品を制作した個々の問題だから統制立ててこう、という流れにはあまり興味がないです。

 それとはちょっと違うけど、石黒浩さんのアンドロイドはハリウッドの映画エージェンシーに俳優として契約したという話は聞いたことがあるし、オルタも超有名なハリウッドのプロダクションから「歌手として契約したい」というオファーがあったけど条件が合わなくてやめました。つまり現状は近くにいる人間の意志によるんでしょう。

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