『ロックマンX8』発売から20年を機に思う、「ロックマンX」シリーズのカオスなストーリー事情

「ロックマンX」のカオスなストーリー事情

 「とうとう、20回目の3月10日を迎えてしまったのか……」

 3月10日というのは、20年前の2005年に『ロックマンX8』が発売された日である。カプコンの人気アクションゲーム『ロックマン』の派生作「ロックマンX(エックス)」シリーズの8作目で、PlayStation 2、Windows PC向けに展開された。

『ロックマンX8』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション2』より)

 その発売から20年が経ち、筆者は侘しさを覚えている。なぜかと言えば、『ロックマンX8』をもって「ロックマンX」シリーズのナンバリング展開は中断してしまったからだ。

 厳密には同じ2005年の12月、PlayStation Portable向けに『イレギュラーハンターX』という『ロックマンX』1作目をリメイク(リブート)した作品が出ており、それを最後に「ロックマンX」シリーズは新作が13年近く出なくなった。

『ロックマンX DiVE オフライン』より

 2025年現在は、過去8作品を現代の環境で遊べるようにした2018年発売の『ロックマンX アニバーサリーコレクション1+2』と、2020年から2023年までサービスが展開されたのち、Windows PC向けにオフライン版が展開されたスピンオフ作品『ロックマンX DiVE(ダイブ)』の登場もあって、「ロックマンX」シリーズは一応の再起動を果たしている。

 しかし、肝心のナンバリング新作は『ロックマンX8』から20年音沙汰がないため、本格的に再起動したとは言えない状況だ。そうした実態もあって、「ロックマンX」シリーズの新作発売を願う声はいまなお根強い。

 筆者も新作を待ち望んでいる人間のひとりである。ただ一方で、新作を出したらストーリーが再び混迷の一途をたどるのでは、という懸念も抱いている。

 というのも「ロックマンX」シリーズは、数ある派生「ロックマン」シリーズのなかで、群を抜くレベルでストーリーの全容が混沌(カオス)と化してしまっているからだ。

第1作から連続性を持ったストーリーを描いてきた「ロックマンX」シリーズ

 「ロックマンX」シリーズは、限りなく人間に近い思考回路を持ったロボット「レプリロイド」と人間が共存する近未来の世界を舞台に、電子頭脳に異常をきたしたレプリロイド「イレギュラー」を取り締まる組織「イレギュラーハンター」に所属する主人公の「エックス」と、ライバルで親友の「ゼロ」の戦いの物語を描いている。。

 シリーズを通して、2人の宿敵として立ちはだかるのがイレギュラーと化した元イレギュラーハンター隊長の「シグマ」。第1作『ロックマンX』では、人類抹殺とレプリロイドだけの世界を創造する野望を目論んで大規模な反乱を起こすと同時に、それを阻止するために立ち向かったエックスとの壮絶な戦闘を演じた。

『ロックマンX』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション』より)『ロックマンX』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション』より)

 最終的にシグマは倒されるものの、『ロックマンX』のエンディングでは、完全に倒されていなかったことが明かされる。そして次作『ロックマンX2』を皮切りに、シリーズでは復活を繰り返すシグマに何度も立ち向かうストーリーが描かれていくことになる。

 もともとの初代(あるいは元祖、本家)「ロックマン」シリーズのストーリーは基本1作完結型で、連続性は薄くされていた。実際のところ、『ロックマン4 新たなる野望!!』以降のシリーズ作のストーリーには連続性があるのだが、前作を知らないと理解困難な高いハードルはなく、途中から始めても問題なく楽しめる作りに落ち着かせている。

『ロックマンX2』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション』より)

 対照的に「ロックマンX」シリーズはやや強めの連続性を持ち、作品を重ねるたびに新たな謎が浮上すると同時に、今後の展開を匂わす仕掛けと演出が強化されていった。

 とりわけ象徴的なのがゼロにまつわる謎。『ロックマンX2』で彼の素性を知る生みの親と思しきキャラクターが登場したり、初代「ロックマン」シリーズとの関連を匂わせる“ある用語”をシグマが口にするといったものが描かれた。

『ロックマンX4』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション』より)

 この『ロックマンX2』で示された謎は、後の『ロックマンX4』である程度ながら語られている。

 また、その前の『ロックマンX3』では、エックスとゼロが将来、敵対する未来を予見するようなメッセージがエンディングに存在。そして『ロックマンX4』のエンディングにおいては、次の作品でその時を迎えると思しきことが示唆されている。

 このように「ロックマンX」シリーズは1作目より、連続性のあるストーリーを描いていた。まさに言葉通りの「続編」である。『ロックマンX』という派生「ロックマン」は、そのような歯車を回し続けつつ、時計の針を進めていったのである。

 だが、その歯車は大きく狂うことになった。

『ロックマンX5』を機に始まった迷走期がゲームのみならず、ストーリーの連続性も乱した

 歯車を狂わせた要因というのが迷走期(あるいは低迷期、暗黒時代)である。

 「ロックマンX」シリーズは、2000年発売の『ロックマンX5』を皮切りに、アクションゲームとしての仕上がりに詰めの甘さが際立つようになっていった。同時にシリーズファンの不満が蓄積され、人気と支持も徐々に失われていくという負のスパイラルに陥ったのだ。

『ロックマンX5』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション2』より)

 迷走期に陥った背景には、制作チームの変更と制作スケジュールの厳格化、価値観のズレといったものが設定資料集『R20 ロックマン&ロックマンX オフィシャルコンプリートワークス』のスタッフコメントなどにおいて示唆されている。

 特に制作チーム変更は最も影響が大きかったらしく、これが『ロックマンX4』まで連続性を持って描かれてきたストーリーにも悪影響を与えてしまった。

 それが『ロックマンX6』以降の続編の発売である。『R20 ロックマン&ロックマンX オフィシャルコンプリートワークス』(156ページ)によれば、『ロックマンX4』までシリーズに携わった当時のプロデューサーは、『ロックマンX5』の制作チームに「これでシリーズ終わらせて」と伝えていたという。「ロックマンX」シリーズは当初、『ロックマンX5』で完結することが想定されていたのだ。

『ロックマンX5』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション2』より)

 それもあって『ロックマンX5』のストーリーは終末観が漂うと同時に、それまでの「ロックマンX」シリーズでおぼろげにされていた初代「ロックマン」シリーズとの関連性にも迫る、興味深い内容になっていた。さらにエンディングも3種類用意され、そのいずれもが「ロックマンX」シリーズの完結を意識したものとされている。

 ところが『ロックマンX6』発売で、完結したはずの「ロックマンX」シリーズは続くことになってしまう。しかも、前作とつながっているようでつながっていない奇妙な時系列が設定され、新たな謎まで足されたことにより、それまでの連続性もねじれる。その後の『ロックマンX7』も前作とのつながりが不明瞭なストーリーが展開され、ついには『ロックマンX8』で過去作との致命的な矛盾が生まれることになってしまった(※1)。

※1 『ロックマンX5』の事件が作中には一切登場していないキャラクター「VAVA」によって起こされた、というものにされている(本当は「ダイナモ」というキャラクターが事件を起こした)

 極めつけに『ロックマンX8』では、次回作につながると思しき新たな伏線がとあるエンディングで張られている。この伏線が以降、回収されたのか否かは歴史が物語る通り。20年にもわたって放置され続けている状況だ。

 こうした迷走期を挟んだことにより、「ロックマンX」シリーズのストーリーはカオスなものになってしまったのである。

『ロックマンX7』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション2』より)

 『ロックマンX5』での完結を要望したプロデューサーは「自分としてもコントロールできない方向に、シリーズが行き始めていたね」とのコメントを『R20 ロックマン&ロックマンX オフィシャルコンプリートワークス』(164ページより一部引用)で残している。いかに『ロックマンX6』以降のシリーズが意図しないものであったかを匂わせている感じだ。

『ロックマンX8』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション2』より)

 迷走期自体は、外伝作品でRPGの『ロックマンX コマンドミッション』と『ロックマンX8』の2作で改善の兆しが見えたのち、『イレギュラーハンターX』で完全に脱するに至っている。ただし、それはゲームとしての迷走期であって、ストーリーの迷走期は2025年現在のいまもずっと続いたままである。

 むしろ2025年現在は、当時の攻略本、設定資料集などに記載&公表されたことがないボスキャラクターの名称(通称)が『ロックマンX アニバーサリーコレクション1+2』『ロックマンX DiVE』でそのまま公式のものとして採用されたり、本来は設定の違いから関連性がまったくないはずの『イレギュラーハンターX』収録のOVAエピソードが『ロックマンX』1作目の前日譚として扱われるなど、より混迷を深めているような状況だ。

混沌を脱せるか否かは、混沌具合にどこまで向き合うかにかかってくる?

 『ロックマンX アニバーサリーコレクション1+2』などで起きた状況の詳細は、解説すると長くなってしまうのと、さらなる調査と検証が必要な事柄が多数あることから、本記事では割愛する。ただ、ここまでの時点でも「ロックマンX」シリーズのストーリーがいかにカオスな状況にあるのかは察せたかと思う。

『ロックマン11 運命の歯車!!』より

 正直、初代「ロックマン」シリーズのようにストーリーの連続性を最小限にし、本当の意味でシリーズとして展開しやすい作りにしていれば、ここまでこじれて次回作での懸念が生じることはなかっただろう。だからこそ、初代「ロックマン」シリーズは時間が経っても新作を出しやすい強み(※2)があった。2018年の『ロックマン11 運命の歯車!!』は、まさにその強みを示した一例だ(シリーズ作品における連続性の是非についても考えさせられる)。

※2 『ロックマンDASH』『ロックマンエグゼ』『ロックマンゼロ』『流星のロックマン』『ロックマンゼクス』といった他シリーズのストーリーにも連続性がある。このうち『ロックマンエグゼ』『ロックマンゼロ』『流星のロックマン』のストーリーは完結を迎えている(『流星のロックマン』には若干の伏線が存在)

 むしろ『ロックマンX6』以降は、そうした続編ではない“シリーズ”として歩める状況を生み出す狙いがあったのかもしれない。だが、肝心のまとめ方が荒っぽく、新たな伏線を張るようなこともしたため、余計に混沌としたものになってしまった。

 その事情を踏まえると、新作を出すにしても「さらに混沌としてしまうのでは」という懸念がある。正直、『イレギュラーハンターX』が試みた設定のリセットおよび新解釈を加える形でのストーリー再起動が、「ロックマンX」シリーズの今後にとって最良の選択肢ではないのかと思うほどである。

『ロックマンX6』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション2』より)

 ただ、ここまでいろいろ言ってはきたものの、そもそも「ロックマンX」シリーズにとってストーリーは(少々きつい言い方になるが)ある種、二の次に当たる存在。真の顔はアクションゲームとしての面白さと、シリーズ特有の並外れた躍動感とスピード感であって、そこがちゃんとしているならストーリーなんて別にどうでもいい、と考えるシリーズファンやプレイヤーは少なくないだろう。「変なことさえしなければ大丈夫では?」とも。

 だが、その変なこと、設定管理の混迷を『ロックマンX アニバーサリーコレクション1+2』『ロックマンX DiVE』がやってしまっているのがいまの実態だ。それに20年目を迎えた『ロックマンX8』も、次回作が出せるかも分からないなかで新たな伏線を張ってしまい、結果、回収されず放置という事態を招いてしまっている。

 結局のところ、どうしても変なことが起こり得る可能性は否定できないのだ。よほど、このカオスな事情をどうにかしなければという危機感を持てない限り。

『ロックマンX8』(『ロックマンX アニバーサリーコレクション2』より)

 ナンバリング最終作『ロックマンX8』の発売から20年、その作中で張られた次回作の伏線が未回収のままになって20年。これから「ロックマンX」シリーズの本格的な再起動があるのかはまったく読めない......いや。2023年発売の『ロックマンX DiVE オフライン』のエンディングにおいて、非常に意味深な演出が仕込まれていたことからして、何かが水面下で動いているのかもしれない。

 それが新作なのかは分からないが、どちらにしても迷走期からかれこれ20年以上も続いたままになっているこの問題。もし再起動を前向きに考えているなら、真剣に向き合って整理整頓を考えてみていただきたく思うこのごろである。

『ロックマンゼクスアドベント』(『ロックマン ゼロ&ゼクス ダブルヒーローコレクション』より)

 それにしても、「ロックマンX」シリーズはまだ再起動の可能性が残るなか、同じく次回作への重要な伏線が回収されず、18年近く放置され続けている「ロックマンゼクス」シリーズの明日はどっちなのか。

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