お絵かきAI『Stable Diffusion』による「AIの民主化」の衝撃と課題

お絵かきAIがもたらした衝撃と課題

 AI(人工知能)の進化がたびたび話題になる昨今だが、今年一番注目されたAIといえば、「お絵かきAI」だろう。英語では「Text-to-image model(テキストからの画像生成モデル)」と呼ばれる機械学習モデルで、テキストを入力するとそのテキストにマッチする画像を出力できるのだ。

 今年7月に公開されたお絵かきAI『Midjourney(ミッドジャーニー)』はSNSで大きな話題となった。たとえば「beautiful winter night(美しい 冬 夜)」などと入力するだけで、美しい冬の夜を描画した画像を生成できるのだ。また、特定の画家風のタッチを再現することにも対応しており、「ゴッホの描いたハワイの海とバナナ」のように、存在しない絵をリクエストすることもできる。予想通りの、あるいは予想もつかない画像が一定のクオリティで出力されること自体が楽しく、今年の7月ごろには多くのユーザが同AIで出力した画像をSNSにアップしていた。

Midjourneyが生成した「アールヌーボー調の花の下に座っている女性のAI生成画像」(パブリック・ドメイン)
Midjourneyが生成した「アールヌーボー調の花の下に座っている女性のAI生成画像」(パブリック・ドメイン)
お絵かきAI『Stable Diffusion』による「AIの民主化」の衝撃と課題
お絵かきAI『Stable Diffusion』による「AIの民主化」の衝撃と課題

 そしてMidjourneyのあとを追うように、8月に公開されたのがStability AI開発のお絵かきAI『Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)』だ。Midjourneyがフリーミアム(一定の機能を無料で提供し、特別な機能は有料で使えるというビジネスモデル)なプログラムだったのに対して、Stable Diffusionは無償公開、さらにオープンソースプログラムとしてリリースされ、Midjouney以上に注目されることとなった。

 オープンソースプログラムとは、プログラムの改変・再配布を可能として無償で公開されるプログラムのことをいう。開発者たちが寄り合ってプログラムを公開し、より良いアプローチや新たな機能の実装について議論を交わしながらプログラムに改良を加えていくためには仕様の公開・共有が不可欠だ。そのため、ソフトウェア開発のコミュニティには自身の開発したプログラムを再配布可能な形で公開する文化がある。また、あるプロジェクトが新たなプロジェクトに派生(フォーク)することもあり、プロジェクトの中で意見が割れたときなどに派生プロジェクトが生まれることも多い。

 ちなみに反語となるのは「プロプライエタリ・プログラム」だ。プロプライエタリとは「独占的な状態」を指す形容詞で、仕様や規格が公開されておらず、特定の企業や団体がその権利を保有するプログラムを指す。

 つまり、Stable Diffusionがオープンソースプログラムとして公開されたその瞬間、お絵かきAIのテクノロジーは「特定の企業にお金を払わなければ使えないテクノロジー」ではなく、「手間と時間をかければ誰もが無料で使えるテクノロジー」になったのだ。すでにStable Diffusionを活用したサービスは数多くリリースされており、LINEで簡単にお絵かきAIを楽しめる『お絵描きばりぐっどくん』や、キャラクターイラストの生成に特化した有料サービス『Nobel AI』などが人気を博しているほか、既存のソフトウェアにプラグインとしてStable Diffusionを組み込むようなアプローチも盛んに行われている。

 Stable Diffusionは8月の公開以降、世界中の20万人以上の開発者によってダウンロードされているという。Stability AIは先月1億ドル以上の資金調達を発表、同社CEOのエマド・モスク氏はStable Diffusionの展望について「AIは人類最大の課題を解決することを約束します。しかし、この可能性を実現できるのは、技術がオープンで誰もがアクセスできる場合のみです」と語り、この技術がオープンソースで公開されることの意義を強調した。同社に資金を提供した投資会社のコメントも、この「AIの民主化」について称賛する内容だ。こうした先端技術が専門的な知識を必要とせず、誰もが使えるような形で公開されることは意義深いことであり、新たな表現として活用するアーティストの登場にも期待が持てる。Stable Diffusionによって作成された画像の著作権はユーザが持ち、商用利用することも可能だとされている。

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