サービス開始から6年半で配信終了は初 任天堂の“異例対応”が浮き彫りにしたデジタル所有の功罪

任天堂の異例対応に見るデジタル所有の功罪

 任天堂は2月28日、Nintendo Switch Onlineのタイトルラインアップから、『スーパーフォーメーションサッカー』を3月28日午前10時をもって削除すると発表した。

 本稿では、『スーパーフォーメーションサッカー』の配信終了を入り口に、コンテンツをデジタル所有することについて考えていく。

任天堂のサブスクリプションサービス『Nintendo Switch Online』

Nintendo Switch Online 紹介映像

 Nintendo Switch Onlineは、任天堂がNintendo Switch向けに提供するサブスクリプションサービスだ。加入によってユーザーは、インターネットを通じてオンラインプレイを楽しんだり、セーブデータをクラウド上にバックアップしたりすることができる。価格は、1か月(30日間)306円から。同機で日常的にゲームを遊ぶフリークの多くが利用する、複合的なオンラインサービスである。

 本稿で取り上げているNintendo Switch Onlineのタイトルラインアップとは、上述の内容とあわせて提供されているゲーム機のエミュレーター機能に関するもの。サービス内では、『ファミリーコンピュータ』や『スーパーファミコン』『ゲームボーイ』『NINTENDO 64』『ゲームボーイアドバンス』『セガ メガドライブ』といった往年の名機が、Nintendo Switch上で動く仮想ハードウェアとして提供されており、各機で発売された一部の人気タイトルたちが専用に復刻されている。

 3月28日付で削除となることが発表された『スーパーフォーメーションサッカー』は、2019年9月から配信されていた。ラインアップからタイトルが削除されるのは、2018年9月のサービス開始以降、はじめてのこと。こうした経緯もあり、今回の対応はファンのあいだで話題を集めている。

 なお、任天堂は2017年ごろより、過去に発売したゲーム機を小型化し、一部のタイトルをプリインストールした「クラシックミニ」シリーズを展開しており、そのスーパーファミコン版には『スーパーフォーメーションサッカー』が収録されている。こちらを購入すれば、引き続き同作を遊ぶことが可能だ。

ファンが求める続編の配信と買い切り型での販売。実現の可能性は?

 いったいなぜ任天堂は、『スーパーフォーメーションサッカー』の配信を終了するのだろうか。本当の理由は関係者にしかわからないため、憶測にはなってしまうが、可能性があるのは権利や採算などの問題だ。任天堂の作品を中心に構成されているNintendo Switch Onlineのタイトルラインアップだが、『スーパーフォーメーションサッカー』はヒューマン(1998年に倒産)によって開発/発売され、現在はスパイク・チュンソフトによって提供されている。おそらくは配信の継続に不可欠な外部との連携のどこかに、やむにやまれぬ事情ができたことが、打ち切りの引き金となってしまったのではないか。

『スーパーフォーメーションサッカー』(スーパーファミコン Nintendo Switch Online)

 任天堂の発表を受け、一部のファンからは、続編の収録や買い切り型での販売といった新たな対応を求める声も上がっている。しかしながら、(推測にはなるものの)上述の点に問題が生じているとしたら、そうした次なる展開への望みは薄いと考えるのが自然だろう。ここには需要と供給の問題も絡んでくる。

 ゲームタイトルの移植や発売、配信(さらには扱うプラットフォームやサービスの仕様にあわせるための開発やデバッグ)には、小さくないコストがかかる。ここでいう「コスト」とは、単に資本のみを指すものではない。時間や人的リソースなど、さまざまな種類の“出費”を含めた表現である。外部との連携が必要であるとなれば、負担はさらに大きくなる。それでいて、投資に見合うだけの利益が回収できるかと言われれば、見通しが立たないケースがほとんどであるだろう。

 つまり、ファンから続編の収録や買い切り型での販売を求める声がいくらかあったとしても、メーカー側がそうした対応に踏み切るハードルは決して低くない。一部からの需要では、ビジネスとしてゴーサインは出せないのが実情であるというわけだ。ここにサブスクリプションサービスの一部として提供されることと、単体のパッケージとして発売されることの大きな違いがある。

気軽に遊ぶ ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online

 Nintendo Switch Onlineがサブスクリプションサービスであることを考えると、任天堂は各タイトルごとのコストと利益をそれほど追い求めてはいないのかもしれない。どちらかといえば、サービス全体を通じてのユーザーの満足度を重視しているのではないか。そのような仮説は、おなじく同サービスに含まれる『Nintendo Music』をめぐる対応にも裏付けられている。

 だからこそ、(絶対数がそれほど多くないとしても)結果的に一部のユーザーを切り捨てることとなってしまった今回の対応は、苦渋の決断であったと推測する。ユーザー目線を大切にする任天堂であるだけに、そうしなければならないほどの背景があったであろうことは、容易に察することができるのではないか。こうした点には、再配信を含めた新たな対応の難しさを感じ取ることもできる。残念ではあるが、配信終了後もプレイを継続したい場合には、実機、あるいは先述した『ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン』を用意するしか方法はないのかもしれない。

デジタル所有の限界を浮き彫りにした任天堂の異例の対応

 つまるところ、今回の『スーパーフォーメーションサッカー』をめぐる一連の動向は、デジタル所有のデメリットが顕現したひとつの典型なのではないか。ダウンロード販売が出始めたばかりのころは、部屋から一歩も出ることなくゲームソフトを購入できるなど、メリットばかりが語られていたが、広く浸透した現在では、そのデメリットも少なからず言葉にされるようになった。「永久に続くものは存在しない」ということを頭では理解しながら、利便性に代表される特有の性質に惹かれ、私たちは今日もデジタルサービスを利用し続けている。

 私たちがデジタル所有しているコンテンツは、提供元のプラットフォームやサービスの対応ひとつで、はじめから何もなかったことになる危険性をはらんでいる。昨今続くモバイルゲームのサービス終了であらためて実感した人も多くいるのではないか。2024年8月には、2017年のリリースから約7年にわたり、年齢・性別を問わず幅広い層に遊ばれてきた人気作『どうぶつの森 ポケットキャンプ』がサービスの終了を発表し、話題となった。同作においては、2024年12月よりセーブデータの引き継ぎが可能なオフライン有料版『どうぶつの森 ポケットキャンプ コンプリート』が配信となったが、あらゆるデジタルコンテンツが同様の道をたどれるわけではない。

ポケ森を遊んでいる皆様へ『どうぶつの森 ポケットキャンプ コンプリート』のご案内

 私は2024年10月、Steamの購入画面に表示されるようになった警告文を入り口に、フィジカル所有とデジタル所有の違いに関するコラムを執筆している。そのなかで、「おなじ金額を支払って手に入れたおなじコンテンツならば、フィジカル/デジタルにかかわらず、ユーザーは同様の価値を得られるべきである」と論じた。

 現実的な仮定ではないと理解しつつ、もし『スーパーフォーメーションサッカー』をプレイするために、Nintendo Switch Onlineに加入し、現在も継続し続けているユーザーがいたとしたら。ここにデジタルサービスの明確な限界点が存在しているのではないか。

 界隈を賑わせた任天堂の異例の対応。デジタル所有に等しく訪れる可能性がある“最悪の事態”を、私たちはあらためて想定しておかなければならないのかもしれない。

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