作曲AIは音楽家の仕事を奪わず、“地位”を向上させるーーagehasprings・玉井健二とPARTY・梶原洋平が語り合う「AIと創作」

作曲AIは“音楽家の地位”を向上させる?

 音楽とAIについては、近年でさまざまな技術的進歩が起こっている。

 とはいえ、それはテクノロジードリブンのものも多く、実用面や商業音楽のフィールドに持ち込むに値するクオリティの音源を生み出せるのかといった課題も山積みだ。そんな状況のなか、蔦谷好位置、田中ユウスケ、百田留衣、飛内将大、横山裕章など、今や日本を代表するヒットメーカーが多数在籍し、近年ではライブプロデュースやレーベル設立、AI開発など、音楽業界の未来を見据えるクリエイティブカンパニー・agehaspringsの代表をつとめる音楽プロデューサーであり、株式会社TMIK代表を務める玉井健二がプロデュースした作曲AI『FIMMIGRM(フィミグラム)』が面白い。

 『FIMMIGRM』は、卓越したヒットソングのトラックを分析・学習させた「AIトラックジェネレーター」で、AIが自動で作曲し、ハイクオリティなオリジナル曲をメロディの類似なく作成することができる。興味深いのは、このAI自体は音楽家の仕事を奪うためではなく、音楽家の地位を向上するために作られたものというところだ。

 音楽プロデューサーであり、音楽業界において成功を収める玉井が、ともすれば自身の領域を脅かしかねない作曲AIを手がけた動機とは。玉井と株式会社TMIKのCTOである梶原洋平(PARTY)の二人に話を聞いた。

若手音楽家がぶつかる「アレンジをするための曲自体を作るのが大変」という課題

agehasprings・玉井健二

ーー様々なヒット曲に関わってきた玉井さんですが、なぜ作曲AIである『FIMMIGRM』の事業を始めることになったのでしょうか。

玉井:2004年にagehaspringsを立ち上げて以降、若く優秀なクリエイターがたくさん集まってくれたおかげで、音楽業界の中で様々な分野で作品を提供させていただいたり、そこで生まれた関係性からいろいろなお仕事をいただけるようになりました。

 ただ、そのなかで若手の仕事の実績を作るために、彼らのアレンジ力を上げ続ける、という避けては通れない課題も出てきました。音楽クリエイターは、自分の曲を自分なりにアレンジするということは問題なくできます。でも、他人の曲をアレンジできるようになれば、早い時期にたくさん仕事がくるようになり、そこから少しずつ実績を積み上げていき、信頼度を高めていくと、コマーシャルな曲を託されるようになる。この流れが音楽クリエイターの成功のストーリーのひとつとして定着してるんですよ。

 それで若手は、なんとかアレンジのバリエーションを増やそうとしますが、それがどうにもうまくいかないみたいで。そこでその理由を聞いてみたところ、「そもそもアレンジをするための曲自体を作るのが大変だ」と言われて、たしかにそうかもしれない、と思ったんです。

ーーいわゆる「人に提供する曲を作る」のではなく、そういった仕事をしながら「自分のためにアレンジ用の曲を作る」というのは難しいと。

玉井:僕は音楽制作を俯瞰で見るポジションを多くやっていることもあって、メロディーを作るのがすごく早いので、サクッと作って、「これでアレンジしてみて」と渡したりもしてきました。ただ、それを数十人だけに渡すのであればなんとかなるのですが、いまは関連各社含め抱えているクリエイターの数が数百人規模になっていることもあって、僕の手が回らなくなってしまうという問題も発生してしまったんです。そんなとき、クリエイターがアレンジ力を上げる教材として、作曲AIを使うことはできないかと考え、AIについて勉強したり、詳しい人に教えてもらっているうちに、FIMMIGRMの原案となるイメージができました。

ーー梶原さんはどのような経緯で『FIMMIGRM』の開発に関わることになったのでしょうか?

梶原洋平(以下、梶原):僕は元々ミュージシャンだったのですが、その時のバンドがソニーからメジャーデビューするタイミングで、玉井さんにプロデュースしていただく機会があったんです。その後バンドは解散しましたが、幸運にもスタッフとしてagehaspringsにジョインさせていただくこととなり、色々と勉強させていただきながら、お仕事させていただいていました。

 その後、テクノロジー関連の会社に入ったあとも、ずっとお仕事をご一緒させていただいていたのですが、玉井さんから作曲AIの開発に誘われたことで、このプロジェクトに参加することになりました。

 ちなみに僕がその話をいただいたのは、いまのようにAIが話題になり出したタイミングより5年ぐらい前ですね。そのころ、海外では弁護士の判例や医師のガン判定にAIが使われることが話題になりだしていましたが、当時の段階で作曲AIを作るという玉井さんの発想はめちゃくちゃ進歩的な発想だったので、その話を聞いた時にすごく驚きました。でも、専門家のノウハウにはAI化しやすいという面もあるので、玉井さんが持っている作曲ノウハウは、AI化にピッタリだと思いました。

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