声優・森川智之、音だけの世界『The Sandman』で思い出した声優の原点を語る
アメリカの人気コミック『The Sandman』の日本語音声版が、Amazonオーディブルにて4月15日から配信されている。ダークで文学的なファンタジーとホラーの世界によって、世界規模の文化的現象を生み出し、ニューヨークタイムズでベストセラー入りした同作。その日本語版で主人公のモルフェウスを演じたのは、声優として活躍する森川智之だ。この記事では、森川に同作の収録を通して感じたこと、音声コンテンツへの思いをインタビュー。音声のみのコンテンツを通して思い出した、声優の原点とは。(編集部)
オリジナル版と同じ感動を与えるべく現場で作り上げた『The Sandman』
ーーオーディオドラマ『The Sandman』の主人公・モルフェウスを演じた感想を教えてください。
森川智之(以下、森川):こんなに大きな作品に携われるのは、すごく光栄だなと思いつつ、作品自体はおもしろいものだったので楽しんで演じました。オーディブルで配信されるオーディオドラマに出演するのは初めてだったもので、新鮮なことも多かったです。
ーーイラストや映像はなく、音声のみの本作。役づくりや作品のイメージは、どのように確立されていったのでしょうか?
森川:やはりオーディオドラマ用の台本なうえに、すでに完成されている作品なので、台本に目を通しただけでイメージを作るのは難しかったですね。作品の世界観は事前に落とし込んで、あとはオリジナル版の音源やSEを聞きながら台本と照らし合わせて、古くから付き合いもある音響監督のなかのとおるさんと一緒に作り上げていきました。
ーー特にこだわったシーンや、苦労されたシーンがあれば教えてください。
森川:哲学的なセリフをしゃべる場面では「これは大切なセリフだな」と印象づけるように意識しました。苦労したシーンは……全部難しかったです(笑)。
ーーどんなところが難しかったのでしょう?
森川:たとえば、台本には続けて書かれているセリフでも、本編では次のセリフまでの間が3〜4分あるということが多く、オリジナルの英語版を聴いて全体的な流れを想像しながら演じないといけないんですよね。それから、セリフの尺を合わせなければならないので、技術的に長さを合わせることはできても、その間に同じような表現ができるか、どういうお芝居をするかを考えながら収録するのは、結構大変でした。でも、自由にやらせてもらったので、楽しかった部分でもあります。
原作と同じ感動を与えることが声優の使命
ーー収録を通して意識したことがあれば教えてください。
森川:今回は1人ずつ収録するような方式だったのですが、相手がいてこそのセリフは、自分の感性だけでなく、相手のセリフをちゃんと聴いて作り上げていきました。ただ切り貼りしただけのドラマにはしたくなかったので。ほかの方の音声を聴きながら、英語を聴くので、耳の中が賑やかなこともあったのですが、自分なりのモルフェウスを演じられるかというのは大切にしました。
ーー英語版の音源も聴きながら収録をしたのですね。
森川:そうですね。やはり原作に忠実に、オリジナル版を聞いている人と同じ感動を与えることは声優の使命でもあるので、オリジナルに近づけようということはかなり意識しました。
ーーオリジナル版を聴きながら、日本語版の台本を見て差は感じましたか?
森川:日本語版の方が情報量が若干多かったですね。オリジナル版の翻訳を勝手に端折ってしまうと、翻訳家の方にも失礼ですから、なるべく翻訳台本の日本語の部分は削らず、忠実にその尺の中で表現するという技術が求められたような気がします。
ーーお話を聞いているだけで、スタッフさん、キャストさん含めた全員の努力が形になっている印象を受けます。
森川:そうですね。最初の収録をしたときは、相当時間がかかってしまって、あまり進まなかったので、初日の収録の進み具合を見た時に「これはスケジュール通りは無理かもしれない……」と焦ったでしょうね(笑)。でも、音響監督のなかのさんとは長い付き合いなこともあって、「どういうふうにすれば、うまく収録できるだろう」とアイデアを出し合いながら、試行錯誤を重ねるうちに、だんだんうまくやれるようになりました。