キズナアイ、ピーナッツくん、KEIJUの事例から解説 バーチャルライブ制作における「Unity」と「Unreal Engine」の違いって?

バーチャルライブ制作はソフトでどう変わる?

多数手がけたバーチャルアーティストのライブ事例

ーー時系列を振り返ると、『Serial experiments huez』の後に『Kizuna AI Virtual Fireworks Concert』を手がけられていますね。

ayafuji:はい、僕はテクニカルアーティストと言う立場で関わっております。Virtual Fireworks Concertは「花火」というのがテーマにあったので、演出では花火のエフェクトをかなり豪華にするためにソフトウェア全体での最適化にかなりの工夫が入っています。なので、各アーティストの人たちに色々と相談しながら、要素を削ったりと調整を重ねていきました。

ーーバーチャルライブだと、今年の2月に入ってからピーナッツくんのXRライブ『#ONAKAnoNAKA』も手がけていましたね。

ayafuji:僕はテクニカルディレクターとして携わり、ワールド制作や演出内容はMoment Tokyoさんが担当していました。このXRライブは盛り上がりを感じましたね。最初は客演演出として招聘されたんですが、色々と関わっていくうちにできる限りのところまでやりたくなってしまって。結局、テクニカルディレクターという立場でお仕事をさせて頂きました。

ーーこの時期はほかにもXRライブを並行して手がけているようですが、同時に進行できるものなんでしょうか?

ayafuji:正直、余裕を持って見ていくことが大事なので、スケジュールはいっぱいいっぱいでした(笑)。

ーーその後行われたKizuna AIさんのラストライブ、『Kizuna AI The Last Live “hello, world 2022”』では、ayafujiさんはテクニカルアーティストとクレジットされています。前述のテクニカルディレクターとの違いはなんですか?

ayafuji:僕のなかでは、テクニカルディレクターとテクニカルアーティストの違いを明確に持っています。テクニカルアーティストは、もともとゲーム業界において、エンジニアやCGアーティストなどのクリエイターの間に立つ橋渡し役(ブリッジ)として開発領域の中心に位置するポジションのことを指すようです。一方で、僕が関わるXRライブやバーチャルライブプロダクションにおいてのテクニカルアーティストは、カメラマンやエフェクトアーティスト、CGアーティストなどの方々にテクニカルの部分をそれぞれ橋渡ししていく役目を担い、かつそれぞれのアーティストが思いっきり遊べるような環境づくりを心がけています。

「テクニカルの部分は最悪、僕がなんとか取り持つので、アーティストの皆さんはやりたいことをやってください」というような。そして時には僕からもテクニカルの視点で表現方法を提案していく。要するに、アーティストたちの「やりたいことを膨らませていく」みたいなイメージです。

ーーなるほど。わかりやすいですね。

ayafuji:テクニカルディレクターは、「ちゃんと本番で求められる要件を満たしつつシステム全体が動くこと」を担保する役割を担います。なのでどちらかというと、「膨らませる」のではなく「抑える」方向の仕事だと考えています。いつまでに演出の調整を終わらせるなど、XRライブが滞りなく完結できるような整備や設計の仕切り役として立ち回る役職ですね。

まとめると、テクニカルアーティストはクオリティを上げることに責任を持ち、テクニカルディレクターはXRライブを問題なく終わらせることに対して責任を持つ立場だと考えています。

ーーayafujiさんは両方の役目を担うことがあるゆえ、葛藤も生まれそうですね。

ayafuji:僕はどちらかと言うと、テクニカルアーティストをやる方が好きなんですよ。アーティストとして遊びながら面白い表現を模索することに楽しさを感じるんです。でもプロジェクトの全体を見る人がいなければ回らないので、テクニカルディレクターという立場も非常に重要なポジションだと思っています。

ーーKizuna AIさんのラストライブは、いかがでしたか?

ayafuji:個人的な感想としては、ものすごく感動しました。以前huezとMoment Tokyoさん、REZ&さんの3社で作った『Virtual Fireworks Concert』のライブをKizuna AI Inc.さんがすごく評価してくれたというか。そのライブはUnreal Engineで作ったのですが、普段Kizuna AI Inc.さんではUnityで制作されているので、演出部分で「こういうライブの雰囲気でやりたい」というのが伝わってきたんですよ。

ーーVRライブを見るだけで、使われている技術ってわかるんですか?

ayafuji:はい。ソフトウェアの選択自体にさまざまな戦略的意思決定があります。いま世の中にある多くのVRライブはUnityで作ることが多いです。Unityはプログラマーフレンドリーなゲームエンジンなので、C# という使いやすいプログラミング言語で仕組みレベルのことを素早く出来る。僕の所感としては、Unityは演者さん中心の演出やステージづくりに向いていると思います。演者さんの服や肌の色味が余すことなく出てくるような絵作りだったり、ギミックが多めだったり。マテリアルに関してもトゥーンレンダリングというか、アーティストのトーンに合うようなステージの設計が基本になっていると思います。スマホゲームやソーシャルゲームはUnityで作られていることが多く、市場には圧倒的にUnityエンジニアが多いと感じています。

 対して、Unreal Engineは実際の光の挙動や反射の性質などを取り入れた表現を得意とするのが特徴で、Unreal Engineで作るなら、CGアーティストやディレクターはどうしても光の表現を入れたくなってしまう(笑)。いわば、演者さんとステージの迫力が拮抗していると言えるかもしれません。

 Unreal Engineだとスクリプト言語がC++なのですが、これは難解な言語なので、Unreal Engineにはノードベースの仕組みがあるんです。機能を線で繋げていき、最終的に一個の大きな機能を作っていくというような仕組みです。複数人で制作していてもノードで管理されていると読みやすいので、ありがたい機能です。

 一方、Unityのスクリプト言語はC#なんですが、これがかなり書きやすいのでエンジニアとしてはC#を書きたくなっちゃうんですよ。ただ、プログラムって書いた人以外の人には読みづらいものなので、CGアーティストやカメラマンなど非エンジニアが多い僕らのチームでは、ノードベースのほうが向いているかもしれません。こういう違いがあるため、ソフトウェアのメンテナンス性や最終的なアウトプットの形も大きく異なってくるんです。自分たちがどういうプロダクションをしているのか、どんな作業の流れを構築しているのかで、選択するソフトウェアが変わってくると思いますね。

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