ポッドキャストシーンに起こっている急激な変化とは? 『JAPAN PODCAST AWARDS』運営のニッポン放送・永井翔&石井玄に聞く

ポッドキャストに起こっている急激な変化

回を重ねるごとに、ポッドキャストとして面白い作品が際立ってきた

ーー今回の大賞5作品や、そのほかのノミネート作品をみても、正直どれが選ばれてもおかしくないというか、本当に質の高いものが多い印象でした。また、大賞5作品のうち3作品が Spotifyオリジナルのポッドキャスト番組だったのも時代を表していますよね。

永井:テック系プラットフォーマーのポットキャストに対する本気度が上がりすぎていて、それが作品やコンテンツにも反映されているのをものすごく感じました。初回から見ている身からしても、これからさらにレベルが上がってくるのではと予想しています。

石井:“ラジオへの憧れ”から、全然違うものになったなと。今回の作品もそうですが、ポッドキャストとして面白い作品を作るというのが際立っていた。そこが初回と比べて大きく変わったことだと思っています。どのコンテンツも、ラジオではないと言えるものが増えてきていて、僕の選考の基準も完全にそこなんですよ。要は、ラジオでできるものではなく、ポットキャストとしての完成度がどうなのかを見るようにしています。

『ゆる言語学ラジオ Yuru Gengogaku Radio』や『奇奇怪怪明解辞典 玉置周啓/タイタン』は、話している内容は違えど、ワンテーマで長い尺を喋るとか、地上波ではちょっと触れづらい部分も切り込んで話すとかは、ポットキャストならではだと考えています。あとは、地上波だと1回の放送に向けて作るコンテンツに対し、プラットフォームで何回でも聞くことのできるコンテンツは、飽きのこない面白さや尖ったものが質の担保につながっていると思っていて、両者の作品のクオリティに大きな差が出てきたなと感じていますね。

ーープラットフォームが色々と存在していることは、「発信したい、吐き出したい」と思うクリエイターやパーソナリティーの受け皿になっている部分もあり、心の拠り所にもなっているなと感じます。

石井:いろんな人を見ていると、すごく使い分けていると思っていますね。どこで何を話すのか、ターゲットに向けて自分を作ったり、場に応じて柔軟に話す内容を変えたりできる人が生き残っていると感じています。

地上波に比べ、ポッドキャストはコンテンツを無限に拡充できるのが魅力

ーーまた、プラットフォーム側がタレントやクリエイターに手を差し伸べて、活動を後押ししていく構図も生まれているのを感じます。Spotifyは自分らしく生きたい女性の「声」を届けるためのポッドキャスト番組を手がけたりしています。こうした動きや一般の人の音声コンテンツを届けることに対する社会的意義について、おふたりはどのように感じていますか。

永井:まさにマイノリティの声を届けるのは、ポッドキャストだからこそできることです。ラジオ局のビジネスモデル上、CMや広告を付けなくてはならないので、どうしてもそういうコンテンツはできないんですよ。

石井:ラジオはマスメディアなので、マスに向けたコンテンツを作っていかないと番組が終わってしまう。その一方で、ポッドキャストは聴く人が番組をチョイスするので、マイノリティに向けたコンテンツを作っても、興味関心のあるユーザーへ届くわけです。ニッポン放送も取り組んではいますが、ポッドキャストの方がより親和性が高いと思っています。

ーーアワードを開催してきた流れを受け、さまざまな作品に触れたことで感化され、ニッポン放送としても挑戦してみようと考えていることはありますか。

永井:それで言うと、Amazon Audibleでの作品が挑戦のひとつだと思っています。『佐藤と若林の3600』や『HIDEO KOJIMA'S RADIOVERSE』など、オードリーの若林正恭さんや小島秀夫さんのような人が、ポッドキャストに出演してくれること自体、非常に驚いていて。そういうのは今後増えてくるでしょうし、業界の本流を行く人たちがポッドキャストに出演し、音声コンテンツを盛り上げてくれるんじゃないかと。僕たちはその後押しをしていきたいと考えています。

石井:「三四郎のオールナイトニッポン公式ファンクラブ バチボコプレミアムリスナー」で有料会員制のアーカイブ配信や、ファンクラブ限定のオリジナルコンテンツを制作したり、Amazon AudibleやSpotifyでも制作していたりするし、いろんなプラットフォームでも試しているのが現状で、地上波の番組に比べてオンラインの世界はコンテンツを無限に広げられるのが大きな特徴になっています。なので、今は音声コンテンツを拡充している最中であり、どこが本流かを見定めているような状況です。ニッポン放送はコンテンツを作る会社だからこそ、今後どのようなアウトプットを出していくかを考えていくのが大事なことだと思っています。一方で人の手が足りておらず、企画は通っているけど、まだ全然進められていないのもあって(笑)。それらを具現化していき、面白いものを世に出していけるようにしていきたいです。

放送局やプラットフォーマーがポッドキャストに注力し、プロコンテンツが増えてくる

ーー今後アワードの第四回目を開催していく流れだと思いますが、ポッドキャストコンテンツのトレンドや動向の変化が激しいなか、どのようなアワードになると予想していますか。

永井:今後、放送局やプラットフォーマーが予算を確保し、ハイクオリティを求めたプロコンテンツがどんどん増えてくるのではと捉えています。アマチュアの人が絶対できないような企画も多くなりそうな予想をしているんですが、ただアワードを開催するとなると、そこをどう平等に評価していき、棲み分けを行っていくのかが肝になってくる。逆を言えば、それだけポッドキャスト熱が高まっているわけであり、新進気鋭のコンテンツが出ているスピードがさらに加速すると考えています。

石井:現状はプロがトークコンテンツを作っている流れがありまして、今後さらに企画ものや入り組んだものが出てくると予想しています。予算や時間の関係でプロのクリエイターがやりたくてもできないようなコンテンツでも、放送局やプラットフォーマーがポッドキャストに力を入れることで、実現できるようになるのが次のフェーズになるのではないでしょうか。来年並ぶラインナップは、ジャンルに分類できないような、音声コンテンツとして全く新しい作品が登場してくると考えています。

ーーポッドキャストのムーブメントは、これからもさらに盛り上がっていきそうですね。

石井:あと付け加えるとするなら、「生」の要素を組み合わせたコンテンツも可能性があると思うんです。先日『オールナイトニッポン 55周年記念公演 あの夜を覚えてる』(ニッポン放送を使った生配信舞台演劇ドラマ)をやってみて感じたのが、あらためて生の作品は面白いなと。他方で、ポッドキャストには生の要素がほとんどない。それが各プラットフォーマーに「生配信」の機能が実装されてくれば、生の臨場感とポッドキャストのアーカイブ性を組み合わせた新たな価値を創造できるかもしれない。「あの夜を覚えてる」はすごくヒントになっていて、僕個人としてもポッドキャストに生の要素を足したコンテンツを模索していきたいと考えています。ふわっとしていますが、テーマパークのようなものを作りたいんですよ(笑)。ゲームほど体験性がなくてもよくて、参加もできて見て聴けるような、ポッドキャストならではの楽しさや面白さをもっと追求したいんです。

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